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2月14日~17日の4日間にわたって開催されたICCサミット FUKUOKA 2022。その開催レポートを連続シリーズでお届けします。今回は、14組が登壇し、WELgee渡部 カンコロンゴ 清花さんが優勝を飾った「ソーシャルグッド・カタパルト」の模様をお送りします。ぜひご覧ください。
ICCサミットは「ともに学び、ともに産業を創る。」ための場です。そして参加者同士が朝から晩まで真剣に議論し、学び合うエクストリーム・カンファレンスです。 次回ICCサミット KYOTO 2022は、2022年9月5日〜9月8日 京都市での開催を予定しております。参加登録は公式ページをご覧ください。
「悔しくて。
今日ここで、いろんな夢とかやりたいことを語った、皆さんみたいなことを語る人たちがシリアやパキスタン、アフリカから来ていて、彼らの夢に突き動かされて、私もこの活動を6年前に始めたのに、今もこの壇上でしゃべっているのは、まだ私なんです。
いつか難民の若者たちがICCサミットのような場に来て、プレゼンをして、みんなと交わる、そこまでつくらなきゃだめだなと思ったし、彼らがもしかしたら、そういう場を一緒に創っていける皆さんに会えたかもしれないと思うと、悔しいのと嬉しいのがごちゃまぜになっている感情なんです」
悔し泣き。優勝が発表されたとき、NPO法人WELgeeの渡部 カンコロンゴ 清花さんは、「ありがとうございます。嬉しいのですが」と前置きしつつも、こみ上げる気持ちを一気にこう説明した。
これを聞いて、ICCサミットに先立って東京のICCオフィスで開かれた「カタパルト必勝ワークショップ」でプレゼンをした渡部さんに、以前から彼女を知るe-Educationの三輪 開人さんが「清花さんの底力はこんなものではないはず」と珍しく不満そうに伝えたフィードバックを思い出した。
▶プレゼンの達人、三輪 開人さんによる熱血指導炸裂!「カタパルト必勝ワークショップ」を開催しました
その時も、課題と取り組みを伝えるには十分な情報があり、この日のプレゼンも、筋が通っていて説得力があったからこその優勝だったが、パワフルに呼びかけたプレゼンの中に、もっと何かがあるように感じられた。渡部さんは感情に訴えても世の中は動かせないと、それをあえて見せずに語りきったのかもしれないとも思った。
しかしこのほとばしるような優勝コメントで、三輪さんの言葉の意味がわかった。渡部さんには強い使命感をもち、世の不公平を見過ごせず、自分の力不足に燃えるような怒りを向けている。プレゼンの安定感ある話しぶりとは一転したアンバランスな迫力は、WELgeeが取り組む課題にもう一度目を向けさせるに十分だった。
自分に厳しく、課題を知ったら動かずにはいられない……このカタパルトに登壇する人たちは多かれ少なかれその傾向がある。
ここからムーブメントを作る
前回のカタパルトの評判が高かったためか、今回は一挙に動員が増え、開始前に観客席はほぼ満席となった。
▶「逆風の中で、声を掛け合って支え合い、励まし合おう」心が震えた“伝説の”ソーシャルグッド・カタパルト【ICC KYOTO 2021レポート】
今回登壇するのは14組。その中にも前回を見ていたという人がいる。リハーサルを終えた登壇者たちに、プレゼンで伝えたいと思っていることを聞いた。
ジャパンファームプロダクツ阿古 哲史さん「前回のカタパルトを見て、熱い想いや志に触れて、感極まってしまいました。
ずっと海外で活動していたのですが、社会事業をしている本人は孤立しがちで、日本国内はこういったコミュニティの形成が遅れています。知る限りですが、ICCにはそれが唯一あると思っていて、その中で一緒にCo-Creation、ソーシャルビジネスや社会事業家が発信できる一大イベントに一緒に作り上げたいと思っています。
資本主義の世界では、社会の問題や課題を解決するために会社があって、その問題を、会社として一時預かっているのが経営者だと思っています。3年前にカンボジアから戻ってきましたが、そういうスタンスが日本はまだ弱い。
創業者の想いやリーダーシップも大事だけど、結局社会を変えていくのはムーブメント。それをどう起こしていくか。この事業を起こしてどう解決していくか、その意識をチーム全体で共有して流れを作る。これから10年間は、それを必ず作っていかなければいけません。
会社をやる動機が、社会の役に立つか立たないか。それが第一動機で、そのうえで事業を継続していくために、儲かるかどうか、成り立つかどうかがくる。続かなければ関わっている人たちにも迷惑がかかるのでそれも大事なのですが、一番の動機は絶対にぶらさないのが大事だと思います。
それを実現するのは難しいことで、ただ儲かるビジネスを作るよりも難易度が高い。ソーシャルグッドのような事業化はマイノリティです。でもこういった大きいムーブメントを作って、みなさんと一緒にこの10年間駆け抜けていけたらと思います」
和布刈神社高瀨 和信さんと談笑するジャパンファームプロダクツ阿古 哲史さん
阿古さんと談笑していたのは、西暦200年、弥生時代からあったという北九州市の和布刈神社32代目の神主の高瀨 和信さん。ICCには時々こういった装束の人が現れるが、登壇することになったのはこのカタパルトにふさわしく、加速しつつある神社の消滅という社会問題を訴えるため。
高瀬さん「現在は仏式のお葬式が9割ですが、仏教伝来前の日本では神葬祭(しんそうさい)が一般的でした。これから高齢化が進んでいく日本の社会で、お墓を買えない人、子どもがいない人なども増えてきます。
そこで海に散骨する『終活』、日本の古来の自然崇拝に則ったお葬式のお話をして、全国の神社一丸となってやっていくことをお伝えしたいんです」
神社というと明治神宮など大規模な神社が思い浮かぶが、全国のじつに約8割が小規模な神社で、人口減少とコロナ禍が相まって、経営難にあえいでいるという。仏式だとお墓以外にも戒名料などお金もそれなりにかかるが、聞くと神葬祭ははるかに安い。それでも神社を救っていけるという。
高瀬さん「このままでは、2050年には全国で3万社余が消滅していくといわれています。お賽銭の全国平均は年々下がっていて、今は30円くらいです」
神社は地域の人たちの拠りどころとなる風景の一つで、なくなるという発想はなかったが、それでは潰れてしまう。高瀬さんは中川政七商店のコンサルティングで和布刈神社の経営を捉え直し、全国の神社にこの「由緒×終活」を展開したいと話したところ、ICCを紹介されたのだと言う。
高瀬さん「初日からずっと参加して普段着でいろいろな方とお話をしましたが、素晴らしい雰囲気ですね。毎日迷うほど聞きたいお話があり、見られなかったものは次の機会に見たいです。一番印象に残ったのはコアターゲット、LTVの話。『コア・ユーザーのLTVを高めるための秘策とは』のセッションです」
この装束姿で大真面目な表情で言うので、ギャップについ笑ってしまったが、檀家を抱えているお寺と違い、コアターゲットの見えない神社にとっては非常に重要な話だったという。
高瀬さん「本当に学びが多かったです。神社はお正月にしか行かないような文化になってきていますが、それをいかに人生に寄り添うものにしていただけるか、そういったことを考えました。僕たちの代だけではなく、100年200年先へ、たすきを渡さなければいけないという気持ちで取り組んでいます」
ソーシャルの角度で事業を見つめ直す
スタートアップ・カタパルトから舞台を移して登壇するトラーナの志田 典道さんは、改めて自分の事業について考えたという。
▶おもちゃのサブスクで、物を大切にする玩具産業への構造改革に挑む「トラーナ」(ICC KYOTO 2021)【文字起こし版】
志田さん「ソーシャルに登壇することになって、コインの裏表のように、表はビジネス、裏側は社会への影響があるのだなと改めて思ったんです。
子どもの成長や教育は、親の考えでつい決めがちですが、そのアンコンシャス・バイアスに対して、10年20年あとの社会を見るときにどういう人が育っていくべきか、私たちのサービスを使っていろんな切り口を作っていけるのかがやりがいでもあるし、社会へのインパクトでもある。
ビジネスだとお金のあるところから取りに行くという話になりがちですが、ソーシャルインパクトでいうと、そういう人は助けるべき存在なんだっけ?と考えると、ビジネスって難しいなと思いました。プレゼンの準備をしながら自問自答して、改めて違う角度で事業を見つめ直しました。
このカタパルトはNPOの人が出がちですが、株式会社の人たちがもっと出てくれるといいんじゃないかと思います。これもまた、株式会社的な目線ですが(笑)」
社会を豊かにという想いは一つ
ステージの前には、この前日までデザイン&イノベーションアワードの会場で展示されていた「どんぐりピット」のシェア冷蔵庫が置かれている。地域の人たちがシェアして、余った食材や売りたいものを入れる冷蔵庫を作ったのが、トヨタ出身のエンジニア、鶴田 彩乃さんだ。
鶴田さん「とても緊張していますが、これだけの人たちに伝えられる機会はないので、しっかり想いを伝えたいと思います。
会社とは関係なく仲間たちと事業を立ち上げましたが、トヨタには社会を豊かにするという理念があって、私たちもフードロスゼロと社会を豊かにというのを掲げていて、想いは一つです。
出資はない関係ですが応援してもらっていて、社内で講演をさせてもらっています」
アワードのファイナル・ラウンドでは見事なスピーチをした鶴田さんだが、「持つのと持たないのでは全然違ったので練習しています」と、マイクを持つような手の形でプレゼンを練習していた。
ICC初参加の登壇者たち
食糧難・フードロス・雇用創出という複数の課題を、牛肉・鶏肉をしのぐ高栄養のコオロギをカンボジアで生産することで解決を図るエコロギーの葦苅 晟矢さんは、昆虫が描かれたコートを羽織っている。コオロギ愛は大学生の頃から飼育し、大学院でも研究していたという筋金入りだ。
葦苅さん「食の世界でビジネスをしたいとタンパク源を探しているときに、コオロギはタンパク質として優秀だし、育てた経験から大きな設備投資もいらなくて簡単なため面白いなと思ったんです。
時間がかかりましたが、カンボジアで雇用と収入を作りながら、工場でなくても農家でも作れることを伝えていって、ようやくお金がちゃんと入る簡単な副業という価値が認められてきて、生産者が増えてきました。
主に粉として原料供給していて、ペットフードとしてもヒューマングレードのものを作っています。
今までは東南アジア中心でしたが、今年度から史上を日本でも拡大していきたいです。日本も昆虫食の文化はありましたが、伝統食品でなくて、ソーシャルグッドの価値があると共感いただけたら」
写真左からエコロギー葦苅さん、ムシロジックホールディングス鵜野友紀子さん、コークッキング川越 一磨さん
京都で「むしやしない」というアレルゲンフリーのカフェやスイーツを手掛けるムシロジックホールディングスの鵜野 友紀子さんも、前日のフード&ドリンクアワードのファイナリストに残っていた。もともとはアワードのみの参加予定だったが、その面談の途中でカタパルトの登壇が決まったという。
▶【速報】「フード & ドリンク アワード」のグランプリはジビエソーセージ・ジビエハム提供の「イノP / 農家ハンター」!(ICC FUKUOKA 2022)
鵜野さん「普段は厨房や農業でアレルギーフリーのものづくりをしているので、人前で話すのが苦手なのですが、(ICC)小林さんと話して5分とたたないうちに、出たら?ということになって、それならばしゃべるのが得意になります!と宣言しました。
私自身はアレルギーもないし、便秘でもないのですが(※アワードでは便秘に悩む人向けのおからのコロッケを出品)これが天命だと思っていて、絶対何が何でも解決しようと命がけみたいな気持ちでやっています。昨日もうれしかったし、勇気をいただきました。ICCは居心地がいいです!
豆乳パティシエなので、お豆腐の佐嘉平川屋さんのことを存じ上げていて、ずっとお会いしたいと思っていたんです。佐賀は遠かったのですが、初日の食事の席でも偶然お隣になり、アワードのブースも近くて、ご縁があったのかと思っています」
コークッキング川越さんは、最近ニュースなどで取り上げられている、フードロス解消サービス「TABETE」をプレゼンする。たとえばパン屋で売れ残りが発生しそうなときに、登録済みのお店のファンがレスキュー隊となって、割安で買いに行くという仕組みだ。
川越さん「もともと飲食出身で、食べ物をたくさん捨てていた経験があり、なんとかできないかなと思っていました。ヨーロッパでは2015年に同様のサービスが立ち上がっていて、日本でやっている人がいなかったので自分がやろうと思いました。
最初はお店側もフードロスは必要悪という価値観でしたし、捨てる分も含めてビジネスという考え方でした。最近はSDGsや環境への配慮ということで、ようやくこの1年半ぐらいで変わってきました。事業者の認識が少し変わってきたのかなと思っています。そこが一番大事ですね。
お客さんのほうが反応がよくて、加入するお店がもっと増えてほしいという状況ですね。デパ地下とかでたくさん捨てているのを見ていますとか、近所のパン屋さんに入れてほしいといった声を聞きます。
最近はホテルの朝食ビュッフェの余りを、ランチタイムにお弁当として出品するところも増えてきました。そういうのはいいことだと反響をいただいています。TABETEは飲食の中でもビュッフェが相性よくて、シェーキーズでも最近導入されました。スーパーの惣菜コーナーなど数並べるという中食業態がロスが出やすいんです。
買い方も売り方も少しずつアップデートされないとロスが出る。そもそもそんな並べなくていいよねというところに最終的には持っていかなければいけない。適量を作って売るという形が理想ですから、プロダクトのアップデートは、今やっていることだけではないことを考えています」
いまの事業の成功よりも、その先のあるべき未来を思い描いて行動する。その力が強い人たちが、この場に集まっている。
スタッフと登壇の確認をするCommunity Nurse Company矢田 明子さん
▶「コミュニティナース」は、地域の人たちの元気をサポートして社会のインフラとなることを目指す(ICC FUKUOKA 2022)
ICCサミットの中で高まる存在感
以前は明らかにビジネスカンファレンスの中で異なる雰囲気を醸し出していたソーシャルグッド・カタパルトに登壇する人たちだが、少しずつICCサミット参加者たちとの距離が近づいて、馴染んできているのも、今回の変化の一つだ。
阿古さんや志田さんが指摘するように、課題を解決していく事業のうえで、ソーシャルインパクトを生むことに意識的な起業家が増えていることが理由の一つ。加えてカンファレンスの設計という理由もある。
興味関心を持つ人たちの議論を聞き、ワークショップで学んだりして、3日間会場を歩き回っていると、普段会わないような人と出会い、語り合うことになる。カタパルト以外でも、アワードなど別の出番がある人もいる。初参加でもこの場になじんでいけるようなきっかけが、ICCサミットには用意されている。
他のカタパルトへ登壇したあと、志田さんのようにソーシャルグッドに登壇する人たちも増えている効果もある。今回は山西牧場の倉持さんや、Dodici(renacnatta)の大河内さんが、クラフテッド・カタパルトから舞台を変えて登壇するが、彼らの落ち着いた雰囲気が初参加者の緊張を和らげている。
難民支援、里親支援などは一般的にこの分野で想起される活動だが、農業や畜産などの第一次産業、ファッション、伝統文化、SDGs、医療、教育……CSRを抜きにして、今やあらゆる経済活動がソーシャルグッドの側面を持ちうる、または意識せざるを得ない風潮が生まれてきた。
トッププレイヤーで応援団長ともいえるユーグレナ出雲 充さんの呼びかけのおかげで前回の一致団結する体験を経て、審査員たちもより結束感が増している。審査員に投資関係の人々が多いのは意図的で、ビジネスの目利きである彼らが、その事業で社会を変えるべきだと思える企業を見つけてほしいからである。
ICCサミットに集まる人たちは、時代を先取りするアーリーアダプター的な傾向があるため、一般的には時差があるかもしれない。しかしほんの数回でのこの変化を見ると、ソーシャルグッドが一部の人がやる献身的な活動という枠を外れ、社会にとって徐々に普通のものになっていく流れを感じさせた。
カタパルト開幕
そうはいっても、行く先は長く、事業が正しいからといって一足飛びに世の中が変わるわけではない。カタパルトが始まると、前回優勝者のGo Visions小助川 将さんは、大勢の観客に喜びながら、こう言った。
▶【優勝プレゼン】アウトプットから始まるオンライン教育「SOZOW」で、子どもの可能性を拡大する「Go Visions」(ICC KYOTO 2021)
小助川さん「あの時に、ソーシャルグッドの優勝を擦り切れるまで活用させてもらいますって話をしました。実際擦り切れたのかと言うと、まだまだめっちゃ使っています。本当に優勝してよかったことは3つあります。
1つは、前回のソーシャルグッドの動画や記事を、保護者の皆さんや不登校の親御さんにお伝えしています。すごく感動してくださったり、応援したいということで、保護者の皆さんや、ファンが広がっていっています。
2つ目が採用です。先日短期間だったのですが100名ぐらいの募集をして、説明会に来ていただいたのですが、本当に共感してくれるような、ビジョン実現、一緒にやりたいと言ってくれる仲間が集ってきてくれているんです。
3つ目が、ICCのコンセプトであるCo-Creation。いろんな企業さんのお力をいただきながら集団でソーシャルグッドの社会を目指すというところで、いろいろな方と協業をさせていただいてます。
例えば3月6日、第1回の覇者ヘラルボニーの松田さんと、多様性の時代やアートの力を子どもたちに届けたり、プレスリリースが出たばかりですが、サツドラホールディングスの富山さんに北海道の総代理店になっていただきまして、北海道の子どもたちや不登校の子どもに新しい学びを届けていこうという構想をスタートしています。
▶【3/6(日)開催!小・中学生向け】アートで社会をよくする未来とは?ヘラルボニー副社長をゲストに迎える特別イベント(PR TIMES)
▶サツドラグループのシーラクンスとSOZOWの提携がスタート。北海道の子ども達にオンラインの学びを提供開始します(PR TIMES)
ソーシャルグッドの実現のための社会構造の変革は、すごい難題へのチャレンジで、一緒に登壇した仲間と今でも横のつながりがあります。今日は優勝を競うかもしれませんが同志ですし、社会変革のためにチーム一丸となっていけたらいいなと思っています。楽しんでチャレンジいただけたら!」
別の機会に小助川さんに聞いたことには、採用候補者に課題として、前回のソーシャルグッド・カタパルトのレポート記事を渡しているという。ビジョン実現のために、この場でのつながりと優勝実績を、あらゆる場所でパワフルに使っている様子が伺えた。
「ソーシャルアントレプレナーの皆さん、お帰りなさい!」
と開口一番、大きな声で挨拶したのは、前回も会場の空気を一瞬で沸騰させたユーグレナ出雲 充さん。これから登壇する人たちの苦労をねぎらい、それがどんなに大変か分かると自らの体験を語った。
「ここに戻ってきた人たちに徹底的に応援と、日頃の努力に対する感謝を拍手で伝えよう。ここが日本で一番世界で一番日本のソーシャルアントレプレナーにとって温かい場所にしよう、そう決めて毎回来ています。30人の審査員、みんな同じ想いです。
大変なのは分かってます。社会はそんなに簡単には変わりません。ですから、皆さんここでたっぷり拍手で応援を、元気をチャージして、次のカタパルトでまたお帰りなさいって、1人も欠けることなく戻ってきた皆さんにお伝えできるように、頑張って、頑張り抜いていただければと思っております」
続いて、これから登壇するすべての人、挑戦するすべての人へ向けた恒例の熱い拍手のセレモニーが行われた。
今回このカタパルトをスポンサーいただいたSIIF加藤さんは、第1回目からのこのカタパルトの熱心なサポーター。第1回優勝者のヘラルボニーや、ライフイズテックといった社会起業家へのインパクト投資を行っており、それを日本で広めようと活動している。
「2020年の2月、30人くらいの小さな部屋で、15人ぐらいしか見ていなかったころから、ここには絶対何かある、この輪は広がっていくしかないと思っていました。実際これだけの場に育っているところを見ると感無量です。ここに来ると、何のために仕事をしていたか確認できる。人の輪、仲間がここにはあります」
14人が語る社会課題と解決のチャレンジ
続いて14人のプレゼンが始まり、投票が行われた。カタパルトの順位は既報の通りだが、上の動画リンク30:42あたりから1人目が始まるので、全員のプレゼンをぜひ見ていただきたい。審査員たちが全員に投票したいと言っている理由がわかると思う。
川鍋さん「登壇者の半分が女性というのも素晴らしいです。ここにいるだけでみなさん勝者。14個丸をつけていいんですよね!?」
駒崎 弘樹さん「みなさんの存在は日本の希望です。審査なんておこがましくて、学ばせていただきました。結果がどうであれみなさんとともに歩んでいきたいです」
おてつたび永岡さん「みなさんのストーリーをお話しいただいて、自分もまだまだできることがあるなと刺激をいただきました。みなさんと一緒に、日本を1cmでもよい方向に変えられるようなことができれば」
KIBOW山中さん「本当に尊いチャレンジばかりで、東京に帰ったら人に伝え語りまくりたいと思います」
新公益連盟 白井さん「泣いてしまって大変です(笑)。皆さん素晴らしくて、14個丸をつけたかった。これだけ世の中をよくする種がたくさんあるのかと思いました。いろいろな窓を開く一方で、事業としても、経済的にも苦しい方もいらっしゃると思います。貧困の他人を助ける自分が貧困とか。
IPOで大金持ちになるというビジネスではないと思うので、ここで出会った人たちに、いろんな形の応援を、もしこれで社会がよくなると信じられるプロジェクトがあったら、お金を流し続け、成功するまで応援してくださったらと思います」
▶次世代の虐待をなくす! 子どものトラウマケアを担う養育里親への理解とサポートを訴える「日本こども支援協会」(ICC FUKUOKA 2022)
マザーハウス山崎さん「プレゼンを聞いて、僕の中に特定の人が、それぞれの課題で思い浮かぶんです。みなさんもきっといたと思う。それで自分ごとになりました。一方で悔しくなりました。涙で終わらせてはいけない。これを届けないといけないし、スケールしなきゃいけない。
だってどう見たって正しいことやってるじゃないですか。
みなさんの力で、僕らの力で大きくしていかなきゃいけない。本当に改めて、みんなでやっていきたいなと思いました」
ボーダレス・ジャパン田口さん「毎度なのですが、こういう問題があるのだなと気付かされる。ビジネスでもNPOの形でも、僕らのやっているのは活動だなと思っています。
活動をやっていると必ず出てくる『競合』って言葉、出てこないじゃないですか。退職して合流してくれる人もいいですが、横並びでやってくれる人も出てきてくれたらいいなと思います」
フィッシュ・バイオテック右田さん「昨日グランプリをいただけました。社会課題をビジネスを通じて解決したいと思いますが、皆さんのプレゼンを聞いているうちに、自分もチャレンジャーの気持ちになり、もっと大きくしなければいけない、もっとビジネスを磨かなければと刺激になりました」
イノP宮川さん「第1回で登壇させてもらって、非常にうれしかったことを思い出しましたが、こんなに大きな会場に広がって同志として心強く思っています。今回14人の皆さんが私たちに社会課題を伝えてくださったのが、大きな価値だと思っています。順位以上に、皆さんのやっていることが広がっていくことに価値があると思います」
気づけばこのカタパルト中にも、どんどん観客は増えていって後ろのほうには立ち見の人たちも出ていたほどだった。
優勝発表では、冒頭の渡部さんの発言があり、涙の雰囲気から再び課題の大きさを再認識させるシリアスな雰囲気が戻ってきた。その雰囲気を和らげるように、再び登壇した出雲さんは最後に温かいメッセージを送った。
「みなさん、パワーはチャージできました? もうこれでカタパルトは終わりです。励まし合ってたたえ合える暖かい場所は、ここだけです。
ここから、みなさんがいつも活動している場所へ戻っていく。世界で一番アントレプレナーに冷たい日本の、冷たい海に戻っていく皆さんに、どうか、よい旅を!『ボン・ヴォヤージュ!』という言葉を送りたいと思います。
これは2019年に亡くなられた瀧本 哲史さんが、授業の最後に学生を、若者を送り出すときにおっしゃっていたメッセージです。
▶2020年6月30日にまたここで会おう 瀧本哲史伝説の東大講義 (星海社新書)(Amazon)
みなさん、自分で決めた道を行くんですよね。よい旅を、ボン・ヴォヤージュとは、自分の足で立っている、自分の人生を自分で決めているリーダーが、船長から船長に送る言葉です。
これから厳しい海に旅立つアントレプレナーが、次のカタパルトでも、no one left behind、誰一人欠けることなく戻ってきて、おかえりという言葉を伝えられるように、この港に元気に戻ってきてくださいね。
14人の船出を、旅立ちを大いに祝って、最後に終えたいと思います。ボン・ヴォヤージュ、よい旅を!」
WELgeeのサポートで再出発した人々と会って
新たに今回から加わった優勝商品「九州パンケーキ賞」を紹介する村岡さん
ソーシャルグッド・カタパルトが終わったあとの3月某日、新たに今回から加わった優勝商品「九州パンケーキ賞」を贈呈のため、村岡さんとWELgeeの皆さん、難民として日本にたどり着いた方々がICCのオフィスに集まった。アフリカや中東の出身の方々で、すでに日本語のコミュニケーションに問題がなく、スキルを活かして働いている。
政治的理由で国を逃れてきた人もいるため写真は掲載できないが、その一人ひとりに村岡さんは自ら九州パンケーキを焼いてふるまった。彼らはまだ若く、穏やかで知的で、どんな理由で生まれた国を離れなければならなかったのかは、楽しい席が台無しになりそうで聞けなかった。
日本が難民受け入れが進まない国だというのはプレゼンでも語られていた通りだが、このカタパルトの後に起こった戦争で、状況は一時的にでも変わりつつある。WELgeeもそれに対応し、民間ながら求められている事業を創り出している。
▶日本におけるウクライナ・アフガニスタン避難民の人生再建に伴走するために。200名のマンスリーサポーターを募集します(WELgee)
なお、ICCでは渡部さんのプレゼンを当事者たちに直接届けたいという要望を受け、英語字幕の入ったプレゼン動画を作成した。もし身近にシェア出来る人がいるならば、ぜひ渡部さんたちの声を届けていただければと思う。
ソーシャルグッド・カタパルトから受け取ったもの
このカタパルトでは登壇者だけでなく、先駆者として出雲さんを筆頭に、第1回優勝者のヘラルボニー松田 文登さん、冒頭で紹介した小助川さんも日々奮闘している。松田さんは優勝賞品提供者として、ICCの出会いで生まれたKAPOK KNOTのコート、三星のコラボシャツ、brightwayのスニーカーといった、コラボアイテムを身に着けて登壇した。
「市場を開拓するより、思想を改革することに本気でチャレンジする」と、ヘラルボニー松田さん
10年がかりでミドリムシで飛行機を飛ばすことに成功した人と、あらゆる手段を使ってアートを切り口にした思想改革に取り組んでいる人だ。いずれも途方もない道のりで、難易度は想像できないほど高い。しかし不可能が可能になるかもしれないという、希望を体現してくれる心強い仲間たちだ。
▶航空機燃料は「ミドリムシ」 バイオジェット、チャーター便に導入へ 静岡・フジドリームエアラインズ /静岡(2022年3月30日 毎日新聞)
▶自閉症の兄への想いが起業の原点に。アートを入口に「知的障害」のイメージを変えていく(business leaders square wisdom)
「ビジネスセクターの人たちが集まるICCサミットだからこそ、出る意味があると思った」とWELgee渡部さんは言っていた。解決できる人たちが集まる場所があり、彼らに向けてプレゼンできる機会がある。それを渡部さんは最大限に生かした。
問題を解決する方法はプレゼンで語られており、簡単だ。やむを得ず生まれ故郷を去った人たちの生活、人生を、私たちは変えることができる。今回提示された14の課題を私たちは知った。それに対して私たちは応援することができて、その方法は彼らが取り組んでいる課題に対してはるかに簡単なことばかりだ。
あとはやるか、やらないかだけ。社会を、未来をどんなものにしたいとあなたは考えるか? 考えるだけでなく、実現するにはどうしたらいいのか?日々課題に向き合う彼らを応援するだけでもいい。非力だとしても、微生物でさえ集まれば飛行機を飛ばすことができることを、私たちはすでに知っている。
「『20年後もニュースを見て、ひどいね、状況は変わらないね』と言いますか?」とは、日本こども支援協会の岩朝 しのぶさんの言葉だ。打ち手を知りながら何もしないとしたら、私たちは「ひどいね」と言えるのだろうか。
ソーシャルグッドは、私たちが住む社会の話であり、私たちの心の中の、希望の話でもある。14人が描く希望は個人的な願望ではなく、それに関わる人たちみんなの希望である。それは回り回って、社会の幸せにつながっていく。その担い手になる機会を、この日私たちは受け取ったのではないだろうか。
(終)
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編集チーム:小林 雅/浅郷 浩子/小林 弘美/戸田 秀成
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