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「タウンページ片手に開拓」ファクトリエの地道な工場提携秘話【BBT-FCT #5】

ビジネス・ブレイクスルー大学大学院の「アントレプレナーコース」が2016年4月に開講しました。ICCパートナーズ小林雅が担当した「スタートアップ企業のビジネスプラン研究」全12回の映像講義について、許諾を頂きまして書き起し及び編集を行った内容を掲載致します。今回の講義は、ライフスタイルアクセント株式会社 代表取締役 山田 敏夫 氏にゲストスピーカーとしてお話し頂きました。60分の講義を7回に分けてお届けします。

(その5)は、ファクトリエが提携する工場との出会いについて、非常に地道な開拓活動をお話し頂きました。ライフスタイルアクセント社の強さの源泉がここにあります。是非ご覧ください。

登壇者情報
ビジネス・ブレイクスルー大学大学院「アントレプレナーコース」
スタートアップ企業のビジネスプラン研究
「ライフスタイルアクセント(ファクトリエ)」
 
(講師)
小林 雅
ICCパートナーズ株式会社 代表取締役
ビジネス・ブレークスルー大学大学院 教授
 
(ゲストスピーカー)
山田 敏夫
ライフスタイルアクセント株式会社 代表取締役
 
(アシスタント)
小泉 陽以

その1はこちらをご覧ください:「日本から世界ブランドを作る」ファクトリエ山田氏のグッチ・パリ店での決心【BBT-FCT #1】
その2はこちらをご覧ください:工場のこだわりと息吹を伝える新しい流通”ファクトリエ”【BBT-FCT #2】
その3はこちらをご覧ください:「初回生産分すら売れない」ファクトリエ創業の苦悩と起死回生の”行商”【BBT-FCT #3】
その4はこちらをご覧ください:共感の連鎖を呼ぶファクトリエ山田氏の「沸点を超えた」想い【BBT-FCT #4】


ファクトリエの理念とビジョン

私たちの理念は、「語れるもので、日々を豊かに」ということをテーマにしております。

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ビジョンは「日本から世界ブランドをつくる」となっております。

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地方の過疎化という社会問題

ただ、今日本が直面している社会問題は非常に大きいです。

東京、名古屋、大阪以外の3大都市圏以外の人口はこれからどんどん減って行くと言われております。

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国土交通省の資料では、もうすでに国土の6割が過疎地域と言われております。そして、ファクトリエのモノづくりというのは消えていく町というか、すごく小さな町でのモノづくりが多いのです。

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その工場というのは、先ほどもご説明しましたが、実は世界の有名ブランドを作っている。だから、すごく技術力があり、宝を持っている場所なのです。

3年間で500社の工場を訪問

では、そういうところを1つ1つ回ってみようということで、この3年で500を超える工場へ行きました。

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小泉 これはどのように工場を見つけ、渡り歩いていらっしゃるのですか。

山田 工場はホームページを持っていないということがありますから、世の中に情報がないのですね。

ですから、産地へ行って、最寄り駅でタウンページを開いて、「あ」から順に電話をかけていくというのが、実は一番の早道なのです。

小泉 一番の早道ですか。

山田 はい。ですから、私の持っている工場の名刺とエクセルの情報というのは、日本で一番工場情報があるのではないでしょうか。

でも、工場も行ってみれば飛び込みですとまず中に入れてもらうことがなかなかできません。

そして、工場の中に入れてもらっても信頼を得ないと生産現場には入れてもらえないのです。

生産現場へ行くと初めて、「ここはシャネルを作っているのか」などとネームを見たりできるわけです。

ですから、なかなか情報がないので見つけるというハードルがあり、中に入れてもらえるというところでのハードルと、そこで交渉するというように、いくつかのハードルがある。

それを1社1社 私が工場を回り続けて開拓して行くというのが現状です。

小林 それはどういうセールストークなのですか。

「ファクトリエです。こんにちは」という具合で行くのですか?

「怪しいスーツを着たヤツ」で村八分にあう

山田 最初の頃は、「インターネットで自社ブランドを作りませんか。」という怪しい文句でした。

そういう地域に限って、だいたいWiFIなどは通ってないので、「怪しいヤツが来た」ということになる。

そういうのは、町内会のようなもので出回りますから、他へ行ってもすぐに戸を閉められるのです。

もう、「怪しいスーツを着たヤツがこのあたりに来ている。怪しいから話を聞くな」という感じです。

それで話を聞いた人は村八分にされてしまうので、基本的にはみんな聞かないわけです。

だから、最初のころはファクトリエのWebサイトもないので、パワーポイントの資料を持っていって、「この画面をこう押すとこうなって売れるのです」と説明していました。

そして、「工場さんが自分で値段を決められます」と言うのですが、「ウチはそんなことをやったことがない」と言う。

自社でデザインもしたことがないし、販売もしたことがないし、言われるままその値段のものを作ってきただけなのです。

工場の課題というのは、フル稼働しているのですが、この20年苦しいということです。

仕事がないわけではなく、仕事は無理してでも取るのであるのですが、全然単価が見合っていなくて赤字になってしまう。

ですから、工場は言われたことだけをやっているという状態が課題なのです。

自分たちで企画して、値段も決めて、デザインを決めて販売するということを、1つ1つ、夜中に焼き鳥を食べながら、焼酎を飲みながら、熱燗を飲みながら考え、回っていくというのが現状やっていることです。

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小泉 ちなみに、一番最初に訪れた場所というのはどちらでしたか。

地元の熊本の工場との取引がスタート

山田 最初はそうやって50工場以上断られまして、ようやくしてくれたのが地元の熊本の工場でした。

そこも、「わかった、お前が言うのだったら」と握手してくださったのですが、よくよく聞くと、翌日くらいに実家へ訪れていたらしいです。

「なるほど、ここの息子か」ということで、この男がどこかに逃げても、この店に行けばちゃんと400枚分のシャツの値段は回収できるということだったのでしょう。

でも、それはそうですよね。

信用情報もなく、社員一人。

その時は、「資本金50万円では払えないだろう」と言われました。

小林 そのとおりですね。

山田 ええ、払えないです。

「でも売れます」と、よくわからないことを言っていました。

ですから、その点、工場の方がリアルでしたね。

小泉 それで、手ごたえを感じ始めたのはどれくらいの時からだったのですか。

山田 半年か1年たったくらいの時に、最初に買ってくださった方々がリピートを始めた時です。

ブームとかではなく、本当に良いものは、ちゃんと2回目に買ってくださると思っていました。

ですから、僕は工場を回ったり行商をしていたので、買った人への営業はモノがすると考えていました。モノが良いので、2回目にも買ってくださるはずだということだけを考えていたということです。

よって、リピートの方が一定割合買ってくださるようになってから、良いのではないかと思いました。

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小泉 すると、次第に工場へ行っても受け入れられるようになってくるということですか。

山田 おっしゃる通りです。

繊研新聞というアパレル専門紙で連載を持っているので、最近は工場へ行っても受け入れてくださいますし、あちらから来ていただくことも多く、組合から呼んでくださることも増えました。

今もタウンページで電話をしているというのも、まだ半分くらいはありますが、もう半分以上はお声かけいただくという状態になっております。

小林 大人気ですよね!

山田 いえ、とんでもないです。

小泉 実際に工場を見ていて、山田さんからお断りすることもあるのでしょうか。

山田 あります。

実は、私たちには表に出していないチェック項目が30項目あります。それは経営、技術、環境とだいたいこの3つに分かれます。

まずは技術力があるのかというのが、すごく大切です。ただ、その工場が長く続いていくためには、環境というのも実はすごく大切なのです。

私たちは、ファクトリエは100年後くらいにようやくブランドになるものだと思っています。

100年続くものにするためには、やはり若い子たちが入らなければならない。

ただ、やはり環境として、すごく汚かったり、整理整頓ができていなかったり、働く環境が悪ければ、そこの評価ポイントは下がります。

経営という面でも、見積もりの正確さというところで、1分1秒考えてやっているのか、それともTシャツだからいくらくらいと雑にやっているのとでは、やはり違います。

そういうところを1つ1つ精査すると、改善してこれくらいになるというのがわかる。ですから、1つ1つ精査して、それに見合わない工場はあります。

現在は30社以上の工場と提携

今私が5〜600回った工場のうち、提携しているのは34工場です。

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それはこれらの基準をクリアしたところだけに限定しています。

小泉 それは1つ1つ工場を回られて、自分で項目を作るようになったということですか。

山田 そうですね。ただ、やはり私も目には限界があるので、先ほどの60代のパターンナーや生産管理の人間が項目をチェックしたり、最終的にサンプルを確認したりとダブルチェックをするようにはしています。

基本的には僕が今はだいたい見られるようになったので、どういうミシンがあるのか、どういう技術があるのか、どういう素材が扱えるのかを、僕が見ております。

やはり、技術力の低い工場さんとも何回かやらせていただいたことがあるのですが、サンプルの段階で僕らの水準にまったく達さないので、2、30回やり取りをしてもゴールが見えないのです。

すると工場から遠慮してきますよね。

ですから、難しい場合は早めに断らないとお互い不幸になってしまうと思いますので、最近は伝えるようにはしております。

ただ、こういう工場は、だいたい10万人以下の小さな町にあることが多いのです。9割が10万人以下の小さな町にあります。

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ではどうするか。

工場名が付いた地域ブランド

ファクトリエのすべての製品には工場名がついておりますので、その工場名が地域の誇りになるようにしていきたいと思っております。

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ですから、商品に工場や工場長からの手紙がついてきたりするのです。

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一番何が大切かと言いますと、地方の新聞で取り上げていただくことがすごく大切です。私たちが取引を始める時は、必ず地元の新聞社に熱くコンタクトを取ります。

やはり、地元の新聞社というのは日ごろ事件はあまり起きないので、何か取り上げたいけど何もネタがない。そこで、「ウチの近くでヴィトンを作っている工場があったの?」という話があるわけです。

その時に地元の新聞の一面に取り上げたりしてくれたりすると、高校の先生が「実習へ行きたいです」とか、中学校から「研修へ行きたいです」という話が来たりする。

要するに、地域の交流が生まれます。

近くにある大きな建物はそういう工場だったのか、となる。

すると若い子たちが集まってくる。

ファクトリエの場合は、今年の4月に入社予定で、34工場提携している内の15工場は、だいたい2人以上の新卒が入ることが決まっています。

やはり、地域でその誇りとなっていくモノづくりになることが大切です。また、それを地元だけではなく、工場ツアーというものを毎月やっております。東京からもいろいろな工場の人に会いに行けるような場を作っているのです。

小泉 本当に地元に活気が出ますでしょうね。

山田 そうですね。地元の名前が書いてあるモノがインターネットで世界中に売られているのですから。

新聞社の方もすごくワクワクするとおっしゃっておりますし、僕らもそれが誇りに繋がればいいなと思っています。

小泉 工場の方々にとっても、自分の工場の名前が入った服が売られるというのは、すごくワクワクすることでしょう。

小林 これは工場見学だけではなくて、いろいろなところで言えるのですが、「接する」ということだけでけっこう楽しいのです。

意外に接点がありませんから、少し声をかけるだけで嬉しく思う。

これはモチベーションが生まれますね。

(続)

続きは 「作り手と使い手が繋がる場を」工場の離職問題を解決するファクトリエの”工場ツアー” をご覧ください。

編集チーム:小林 雅/石川 翔太/榎戸 貴史/戸田 秀成


【編集部コメント】

続編(その6)では、工場の離職という課題の解決に貢献するファクトリエの工場ツアーについてお話し頂きました。作り手と使い手をつなぐ素晴らしい場です。是非ご期待ください。感想はぜひNewsPicksでコメントを頂けると大変うれしいです。

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