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7分間の、人生をかけた戦い「スタートアップ・カタパルト」の舞台裏と、誕生しつつあるカタパルト・コミュニティ【ICC KYOTO 2019レポート#3】

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9月2日~5日の4日間にわたって開催されたICCサミット KYOTO 2019。その開催レポートを連続シリーズでお届けします。第3回目は、回を増すごとに注目度が高まっている、”7分間の、人生をかけた戦い”「スタートアップ・カタパルト」の模様とその舞台裏、登壇者たちの1日を追いました。ぜひご覧ください。

ICCサミットは「ともに学び、ともに産業を創る。」ための場です。毎回200名以上が登壇し、総勢900名以上が参加する。そして参加者同士が朝から晩まで真剣に議論し、学び合うエクストリーム・カンファレンスです。 次回ICCサミット FUKUOKA 2020は、2020年2月17日〜20日 福岡市での開催を予定しております。参加登録は公式ページのアップデートをお待ちください。


スタートアップの登竜門

3日朝、リハーサルを待つプレゼンターたち

「7分間の、人生をかけた戦い」

そう言うと、大げさと思うかもしれない。しかし、シード/アーリーステージのスタートアップが、心血注いで創った事業を、目の前の審査員やライブ中継で見ている人たちに向けて、7分間で最大限に表現する晴れ舞台である。

たとえこれに出場しなくても、スタートアップの起業家たちは毎日が本番で、毎日のようにどこかで自分の事業を伝える勝負をしている。現に登壇者たちに意気込みを聞いたところ、そういう声がほとんどであった。それに、ピッチコンテストはICCサミット以外にもたくさんある。

それでも彼らがなぜ、9月3日の朝、見てわかるほど緊張した表情でリハーサルに臨んでいるかというと、自分が見つけた課題と解決方法の意義を証明して社会に受け入れられ、大きく成長するチャンスをつかみたいからである。審査員は現在のトップリーダーといえる人たち。その人たちに自分たちを知ってもらい、認められたい。

そのためには、どんな戦いにも負けられないのだ。

「スタートアップ・カタパルト」は、登壇するだけでも水準以上のレベルを保証するICCサミット初日の名物プログラム。業界業種を問わないスタートアップのピッチコンテストで、登壇者はこの日に向けて何度も練習を重ねる。結果は日本経済新聞など複数メディアで速報が出され、優勝すると大きな反響が期待できる。

▶ICCサミット、医療サービスのファストドクター優勝(日本経済新聞)

本番が始まる前に審査員の声を聞いた。

GO三浦 崇宏さん「今はテクノロジーもルールもモラルも変化している。そのなかで一番大きい未来を描いているところを観たいと思っています」

ユーグレナ永田 暁彦さん「一緒に社会を変えたいです!」

プレゼンターが訴える事業の必然性とその説得力、事業が時代の課題を捉えていて、その解決のためのビジネスモデルが優れていること。審査員たちは、さまざまな要素を鑑みながら、応援したい起業家を4つ選ぶ。

切磋琢磨して、ともに未来を創っていきたい企業という気持ちを込めて、その先輩である審査員たちは投票用紙に記入する。優勝すると成功が約束されるわけではないが、歴代の優勝者が次のステージへと歩を進めていることは、既知の通りだ。

プレゼンターたちの集合時間は朝7時半

登壇者はもとより、「スタートアップ・カタパルト」は、運営するスタッフも、何よりも緊張するプログラムである。

この日、A会場の担うスタッフたちは、6時半に会場に集まっていた。7時の時点で、彼らはもうずっと前からその場にいたように、舞台やPAの回りで作業をしていた。

本番は9時開始だが、登壇する15人はリハーサルのため7時半集合となっている。そのなかでもとりわけ早く、7時に会場入りしたのはシルタスの小原 一樹さんだ。

リハーサル中のシルタス小原さん

「集合時間を間違えてしまって、30分早く来てしまいました。

今日、目指すところは優勝です。ライバルとは考えていません。ヘルスケアピッチだとみんなライバルかもしれませんが、ここにはいろいろなジャンルの人たちがいるので、それぞれのことをちゃんと喋って、あとは誰が選ばれるかは神のみぞ知る、です」

いつも飄々としている小原さんは、緊張を見せないそぶりで話す。先日のICCアカデミー「プレゼンテーション講座」に出席したときに、「練習がすべて」という内容に影響を受け、いつもはしないピッチ練習を少ししたという。

やがて会場には、一人、また一人と登壇者が到着し始めた。

早朝のリハーサル風景

リハーサルを待つファストドクター菊池さん

ファストドクターの菊池 亮さんは、スーツケースを引いてやってきた。マスクをしたまま、スーツケースとカバンを置き、椅子に腰掛けると静かに目を閉じた。メディカル系のサービスと知っているせいか、出張中のドクターのように見える。

照明がすべてつけられ、客席が空いている会場はスペース以上に広々として見える。このときはまだ無人状態だが、本番前には立ち見が出るほどの満員となる。

やがて照明が落ち、リハーサルが始まった。左右の演台からプレゼンターが交互に登場して、立ち位置を確認したり、スライドが作動するかどうかをチェックする。左右には、それぞれPCの接続やヘッドセットマイクのサポートなど、プレゼンターのサポートを行うスタッフがついている。

オリジナルライフ榎本 純さんのヘッドセットマイクの装着を手伝う

過去のカタパルト優勝者、スタッフの三輪開人さん(写真左)は司会として登壇者を支える

左にファミワン石川 勇介さん、右にエナジード氏家 光謙さんがリハーサル中

実は前回出場予定だったEco-Pork神林 隆さんは、満を持して今回登壇

リハーサルではそのスタッフも一緒に演台に登って確認しているが、本番では当然一人だ。

審査員のテーブルには、すでに投票用紙が並べられている。審査員は応援したい企業に二重丸を1つ、◯を3社選択し、二重丸を2点の加点として特点をつける。

本番を控えたプレゼンターたちに、今日の意気込みを聞きに行った。

RevComm會田 武史さん「楽しみながらがんばります。プレッシャーはないです。昨日は7時間ぐらい眠りました。こういうコンテストは、平常心で望みます。あまり気負ってしまうとよくないと思うので。

(小林)まささんの事前のフィードバックが、めちゃめちゃ役に立ちました。今後の事業展望のところがわかりにくかったのですが、軸を設けて整理して、それを反映しました。

登壇前のルーティーン? 深呼吸します。ヨガをやっているので、深呼吸して、心を落ち着けて平常心で望みます」

余裕の面持ちで、最後まで資料を確認している。一方、緊張した表情の人もいる。

ギバーテイクオール河野 清博さん「こういうピッチイベントは初めてなので、めちゃくちゃ緊張しています。今朝は6時に起きて、ホテルで練習しました。実際に演台に立ってみて、普通に緊張しています。

もといた会社の社長がたまたまICCに参加していて、今日、来るのですよ。昨日会ったので、緊張していると伝えました(笑)。

今日は、とくに地方の住宅がどういう状況になっているのか、そういうところにマーケットがあるということを伝えたいです。僕のやっていることをちゃんと伝えるだけですね」

真剣にPCを見つめて、最後までスライドの調整を行っている人もいる。

ガラパゴス中平 健太さん「緊張もするのですが、早くやりたいですね。早く終わらせたいです。

昨晩はパーティに出ましたが、8時半には会場を出て、早く寝て、朝4時半に起きました。そこからは練習です。僕らが産業革命を起こしていくぞというのをみなさんに伝えて、共感して応援してもらいえるとうれしいですね。

ピッチ練習で一番苦心したところは、ストーリーのわかりやすさです。僕たちが何をやろうとしていて、どんな会社で、何をやっているのか、聞いている方にストレートにわかっていただけるように、わかりやすいように、構成を何度も作り直しました。もちろん自信作です。

緊張より……ワクワクです」

いよいよ本番が近づく。それまでリハーサルで点いたり消えたりしていた会場の照明が消えた。プレゼンターにはどんな景色が見えるのか、演台に上がってみた。

遠いようで近い。満席になれば、景色はまったく違って見えることだろう。

審査員たちが続々と到着して、みるみるうちに会場は満員になった。会場に入りきれないけれども見たいという人が多いため、ICCサミット会場内でも、2会場でサテライト中継を行っている。いよいよ「スタートアップ・カタパルト」、開幕である。

優勝企業は豪華賞品の数々を総取り

ICC小林「まずは挑戦する人たちに向けて、全員で立ち上がって、拍手を送りたく思います」

恒例の拍手のセレモニーで、「スタートアップ・カタパルト」が始まった。優勝者は、

ヤッホーブルーイングから、「よなよなエール賞」としてビール1年分
一休から、10万円の一休ポイント
FABRIC TOKYOから、最大15万円なんでもお仕立て券
おかんから、社食年間60万円分
オルビス賞として、オルビスの化粧品10万円分
Photosynth賞 akerun 100年分、IoTグッズを30個
SmartHRから、100年分or1年分(100年の場合、1万人企業になると120億円相当)
日本アイ・ビー・エムから、IBMクラウド利用権120万円分+伊豆の役員施設を合宿用に貸し出し
ラクスル賞として、Tシャツほか企業ノベルティ一式を社員分

以上の豪華賞品を総取りになる。いずれも、スタートアップにはうれしいものばかりだろう。前回優勝者のinaho菱木 豊さんも発破をかける。

【速報】AIとロボットで農業を変える!自動収穫ロボットのinahoがスタートアップ・カタパルト優勝!(ICCサミット FUKUOKA 2019)

菱木さん「半年間で本当に大きな変化がありました。いろいろな人に知っていただくことが増えましたし、優勝がきっかけで始まることがありました」

ICC小林「本番はここからです。自分に向き合えばチャンスは開けます。運営チームもがんばっていきましょう! それでは司会の三輪くん、お願いします」

三輪さん「これから、人生を変える7分間が始まります。ノンストップで15人のプレゼンテーションをお聞きください。トップバッターはRevComm會田さんです。準備はよろしいでしょうか?」

會田さんがしっかりとした口調で「はい」と答えた。そして最初のプレゼンテーションが始まった。

プレゼン中にアクシデント発生

15人のプレゼンターの奮闘は、ぜひ映像で確認していただきたいが、いずれも力と心の込もった素晴らしいものだった。

しかし3番目の登壇者、ファミワン石川さんのときにアクシデントが起こった。

妊活サポートのサービス利用者の声を紹介する動画をご覧ください、と石川さんが告げたものの、動画が再生されず、頭上のスクリーンには真っ白な画面が広がっている。動画の再生ボタンは表示されているのに、何度クリックしても再生できない。

小林が壇上に上がってPCの接続を確認する。異常はないようだ。スタッフも袖から上がってサポートしようとするが、再生される気配はない。2分以上の奮闘の末、すぐに解決する見込みはないため、石川さんは一番最後に出順を変更することにして、次のエナジードの氏家さんのプレゼンが始まった。

その後、12人が問題なくプレゼンテーションを終えたあと、再び石川さんの出番となった。

当初の予定なら、ステージ向かって左側の演台の予定だったが、順番が変わったため、右側からのプレゼンに変更している。石川さんの登壇前に、スタッフ3人がステージに上がり確認を続けている。どうやらまだ動画の再生ができないようだ。

ICC小林「動画出なかったら、なしでいこう」

この直後のセッションに出番を控えている審査員もいるため、時間を延長するわけにはいかない。動く気配がないスタッフに、小林が中腰になって声をかけた。やがて石川さんが演台の前に立ち、スタッフに礼を言って、プレゼンが始まった。

「みなさん、妊活の悩みを真剣に相談されたら何と答えますか? その答えをイメージしながら、動画をご覧ください」

1秒、2秒、3秒……白い画面が続く。7秒たって、画面に「famione」のロゴが浮かび上がり、BGMのピアノの音が流れ始めた。

「…来ました!」

音声にかぶることを気にしながらも、石川さんから思わず小さな声が上がる。動画が再生されると、会場からは自然に拍手が起こった。切実かつ複雑な悩みを告白する女性たちの声に、会場は引き込まれていった。

結果発表! 審査員の感想は……

投票用紙が回収されると、スポンサーのラクスルと日本アイ・ビー・エムからサービスのプレゼンテーションが行われた。

ラクスル 取締役CMO/広告事業本部長 田部 正樹さん

ラクスル田部さんからは「はじめてのTVCMプラン」に加え、リリースしたばかりのGO三浦さんとのコラボによる「CMO代行プラン」サービスのプレゼンテーションを、日本アイ・ビー・エム正木さんは、The Weather Companyのテクノロジーを使った医療や建設現場などの活用例を紹介し、さまざまなコラボの可能性を訴えた。

日本アイ・ビー・エム Co-Creation本部 本部長 正木 大輔さん

集計作業が進められているうちは、小林が審査員の感想を聞いていく。

dof齋藤太郎さん「素晴らしいサービス、ワクワクするサービスがたくさんありましたね。自分の仕事に紐づけて考えると、知られないと広がらないなと思います。改めてマーケティングやブランディングが必要だと感じました。個人的にはレシートから栄養管理(シルタス)のが面白いなと思いました」

オールアバウト江幡 哲也さん「今回も感動させてもらいました。ラストワンマイルに子どものおつかい使う(YACYBER)なんてすごいなと。使ってみたいです! あとは個人的にポテンシャルの高さとして、豚(Eco-Pork)ではないかと思いました」

プロノバ岡島さん「今回、初審査員として参加しています。熱量をみなさんから感じたのですが、不覚にも最後のファミワンで泣いてしまって、投票しました。がんばってください」

ヤッホーブルーイング井手さん「AIを使った効率化とかすごいなと思ってみてました。教育の改革、ローコストで海外につなぐことができる(With The World)のは、僕にも小さい子どもがいるので、子どもたちの成長につながるなと興味を持ちました」

ユーグレナ永田さん「最近僕がいちばんこだわっているのは、売上が10倍になると、社会が10倍よくなる企業です。そういう会社が増えてきて嬉しいなと思いました。リアルテックファンドの投資先(Eco-Pork)もいてうれしかったです」

結果は既報の通り。

1位 ファストドクター
2位 データグリッド
ガラパゴス
4位 RevComm
5位 Linc’well
6位 シルタス

▶結果速報記事、各社詳細はこちら
【速報】医療・ヘルスケア系が躍進!夜間往診サービス「ファストドクター」がスタートアップ・カタパルト優勝!(ICC KYOTO 2019)

菊池さん「本当にありがとうございました。光栄な賞をいただくことができて本当にうれしく思っています。これからよりよい医療を作っていきたいと考えているので、それにはみなさまのお力が絶対必要なので、ご支援をお願いします」

予定時間を少々オーバーしたため、駆け足の授賞式となった。前回じゃんけんに負けたため100年分の売上が賞品となり、会社に損害を与えたSmartHR宮田さんは、今回くじ引き形式で立て直しを図ったものの、再び負けを喫した。

ICC小林「素晴らしいプレゼンでした! ここから日本を代表する企業が生まれすると信じて、次回もやっていきたいと思います。運営チームも頑張りました!」

健闘をたたえ、会場からは大拍手

大きな拍手のなか、カタパルトは終了した。早速審査員や受賞者の感想を聞きに行かねばならない。

「みんながメリットある未来を作りたい」

井手さん「心に残ったのは、岡島さんも言っていたのだけどファミワンですね、うちのスタッフにも何人かいて、すごくリアリティがある課題です。

AIを使った効率化という提案が多くて、時代の流れだなと思いました。しかも使ったあとのアウトプットがどれも違うのが、すごいなと思いましたね。そのほかも野菜を通して、教育を通してなど、社会課題を解決するというのがいくつもありました。

そのなかで医療という大事な、みんなが困っていることを実感している課題について取り組んでいる方が優勝したというのは、ふさわしいなと思います。ぜひ実現して我々を助けていってほしいなと思います」

優勝したファストドクター菊池さん。優勝賞品に「ビール好きなのでうれしいです!」

菊池さん「夜間はクリニックが開いていないので、救急車はみんな大学病院に行ってしまいます。大学病院の負担を緩和するという意味でも、専門医の先生をネットワークして、クリニックに食い止めるというのが、僕らのやりたいことです。

医師の働き方改革が進んでいるなかで、救急医はすごく少ないから、いかに確保するかといのはみんな悩んでいるところだと思います。

登壇したことで、ほかの業界の方たちにも、僕たちを知っていただくことできました。今日のプレゼンをきっかけに、患者さん、医療者側、みんながメリットがある未来を作っていきたいと思います」

激戦を終えたプレゼンターたちを追って

パーティでは魁力屋のラーメンが登場

この日、フォーチュンガーデン京都のパーティで、優勝した菊池さんは、同じく登壇したプレゼンターや、さまざまな人たちに話しかけられていた。宴もたけなわのころ、会場では”夜鳴きそば”ならぬ”夜鳴きラーメン”が登場して人気を集めていたが、審査員でもあった日本アイ・ビー・エムの荒川朋美さんと並んで座り、安心した表情でラーメンを楽しんでいた。

人波のなかに、2位に入賞したデータグリッド岡田さんを見つけた。

岡田さん「2位じゃだめなんです。僕らには足りないところなので、もっと磨かないといけないと思います。

でも今日はいろんな話をさせていただいて、興味をもっていただいたかと思います。そこから先は自分たちが力をつけていかないといけないですね。

ピッチコンテストの場数だけは踏んできたのですが、緊張しました。審査員も有名な人が多いので、その方たちにプレゼンできただけでも、価値があったと思います」

今回惜しくも入賞を逃したギバーテイクオール河野さん、初ピッチコンテストの感想は?

河野さん「めちゃくちゃ緊張しました! 全力でやったのですが、入賞ならずでした。もっとエレベートできるよう頑張ろうと思いました」

動画が再生できなかったときの心境は

パーティはこのあと、さらに人口密度が上がっていった

今回のカタパルト、動画のアクシデントで、見ているだけでも寿命が縮まりそうだったファミワンの石川さんもいた。

石川さん「動画が出なかったときは、ドキッとしました。リハーサルでも流れて、直前も接続してスタッフの方に流れたと言われました。でも本番では出なくて……ドキドキはしましたが、ないならないで、やるしかないかと思いました。

でも結果的には、準備もしてきたし、動画が流れてプレゼンできてよかったと思いました。動画を流すことを諦めなかったスタッフの皆さんに感謝しています。

動画は、プレゼン資料としていつか作ろうと思っていたけれど、小林さんと話をして、その『いつか』を、今回やろうということになったんです」

動画が再生されたときに自然に拍手が起こっていたと伝えると、「動いてよかった、では?」と冗談交じりに答えていたが、内容が届いていたことは、審査員の感想からも伝わるとおりだ。

登壇者のドキュメントをお伝えしているが、このときのA会場スタッフの奮闘について、少しだけ脱線を許してほしい。スタッフたちは、音声や映像をコントールする卓の回りや、左右に分かれた待機する登壇者の近く、登壇を待つ舞台袖など、さまざまな場所に散らばっている。

スタッフ全員が共有情報や変更箇所などに対して同じ認識で動けるよう、彼らは絶え間なくメッセンジャーでコミュニケーションしている。下のキャプチャは、石川さんが二度目に登壇したときの、動画が流れるまでのやりとりである。

音声映像の担当スタッフが、再生できないスライドを念の為別のPCにコピーし、ステージ袖で再生できることを確認する。登壇する順番が変わったため、再生できたPCとバックアップPCを持ってスタッフが逆の演台へと移動する。

統括は時間のロスをカバーするため司会がつなぐよう依頼し、誘導チームにはカタパルトの時間がオーバーしていることを伝達する。2度目の登壇スタンバイ。スタッフが2、3度試しても動画は再生できず、このときWiFiにつないで動画のURLに飛んで再生しようとするなど、あらゆることを試したそうだ。

数秒が経過したため、現場では動画なしと通知した直後、もう一度ダメ元と思い再生ボタンを押したところ、動画が再生できた。たった1回でも動いたため、その運に賭けて石川さんはプレゼンを始めた。現場スタッフは祈るような気持ちで見ていたという。そして本番では、少しタイムラグはあったものの、なんと動画が動き出す。

司会が瞬時にうれしさを表現し、統括①がすかさず進行を思い出させ、統括②が次の具体的な流れをリマインド、思わぬ会場からの反応に、A会場内のスタッフたちが登壇者とともに、一つの気持ちになっていたというのが伝わってくる。

「7分間の、人生をかけた戦い」ということをスタッフみんなが理解し、全力を尽くした。その結果、ひりひりするような焦りも、感じ始めていた諦めも、すべてが帳消しになるような喜びがあった。運が良かったともいえるが、この経験はどれほどの学びになることだろうか。そして何につなげられるのだろうか。

「結果がすべて。だけど……」

別フロアでは着席型でのパーティを開催した

登壇者たちのパーティは一次会が終わり、2次会でルーフトップテラスに移動した。そこには、下馬評で優勝候補の一人と言われていた、シルタスの小原さんがいた。

カタパルトの後、会場で小原さんを見かけていたが、声をかけられずにいた。気落ちしているのは明らかで、自分を責めていることも明らかだった。

小原さん「マジ反省。僕が悪い。うまくなかったなぁ〜……」

自分はこんなものではない、ということか。

小原さん「こんなもんじゃないけど、でもこんなもんしか出せなかったら、こんなもんです。結果がすべてです。

だけど、うちは強い。勝つ!

今日うちに票を入れなかった人たちは、いずれ見返すけれど、正しいです。今日の僕のピッチは湿気てた。クズだった。終わった瞬間、社員のみんなに謝りました。

だけど、そういうもん。出せなかった僕が悪い。

今日の自分がいかにカスだったか、反省会をしていました」

聞くまでもなく、一気にそう話した。その後、小原さんのライフストーリーを聞いたが、当初医者を目指し、その後芸術学部に転部して世界を巡り、起業する前は町工場勤めだったというこの人、やはり只者ではない。必ず何かの形でリベンジを果たすという才気を感じさせる起業家だ。

そこへA会場司会だった三輪開人さん、小林、同じくカタパルトに登壇したWith The Worldの五十嵐さんが合流した。三輪さんは、ソーシャルビジネス系、カタパルトの先輩として、五十嵐さんのプレゼン練習に小林と立ち会い、フィードバックを行っていた。

発射台という意味ではあるが、カタパルトでは助け合い、競い合い、戦いが終われば語り合う。ともに同じ時代を生きて未来を創っていく、お互いを高め合う仲間ができる。ICCサミットも8回目を迎え、カタパルトは先輩・後輩・同期のような層ができはじめている。

(続)

【新規募集】ICCサミット FUKUOKA 2020 運営チーム募集

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編集チーム:小林 雅/浅郷 浩子

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