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ファンド組成自体を「目的」としたベンチャーキャピタルが現れている【F17-10B #4】

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「ベンチャー・ファイナンスはどのように変わっていくのか?」【F17-10B】セッションの書き起し記事をいよいよ公開!10回シリーズ(その4)は、昨今のベンチャー投資市場について、事業会社による戦略的投資や米国のファンド事情等を考えつつ議論を深めました。是非御覧ください。

ICCカンファレンスは新産業のトップリーダー160名以上が登壇する日本最大級のイノベーション・カンファレンスです。次回 ICCカンファレンス KYOTO 2017は2017年9月5〜7日 京都市での開催を予定しております。


【登壇者情報】
2017年2月21・22日・23日開催
ICCカンファレンス FUKUOKA 2017
Session 10B
ベンチャー・ファイナンスはどのように変わっていくのか?

(スピーカー)
今野 穣
株式会社グロービス・キャピタル・パートナーズ
ジェネラルパートナー, 最高執行責任者(COO)

永田 暁彦
株式会社ユーグレナ
取締役 財務・経営戦略担当
リアルテックファンド 代表

本間 真彦
インキュベイトファンド
代表パートナー

(モデレーター)
武田 純人
UBS証券株式会社
マネージングディレクター

「ベンチャー・ファイナンスはどのように変わっていくのか?」の配信済みの記事

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【本編】

武田 次に今日の議論の中心、ベンチャー市場全般について、「ベンチャー市場のヒト・モノ・カネ」はどうなっているの、どうならなければいけないの、ということについて議論していきたいと思っています。

最初に、「カネ」、資金の部分ですね。

先ほども今野さんからカネ余りですというお話を頂きましたが、実際に皆さんからご覧になって、資金の流入状況や、実際に使われている状況がどうなっているのか、まだ日本のマーケットのデータが正確に出ていないので、あくまで実感値としてどんな状況になっているのかについてご紹介頂きたいと思います。

今野さん、お金が実際どのくらい余っているのか、どんなところから入ってきているのかということに関してお感じになられることがあれば、お話頂けますでしょうか。

オープンイノベーションが「見切り発車」になっていないか

今野 ご参考になる情報は2つくらいですね。

1つは、この3年くらいで、日本のベンチャーキャピタルのファンドレイズ額が確か3倍くらいになって、1,000億円前後だったのが3,000億円を超えています。

ただそれも、企業のBS(貸借対照表)から出資している部分は多分カウントされていないので、もっと流れ込んでいるような気がします。

もう1つとして、ある金融機関の方から聞くと、大手企業で、今いわゆるオープンイノベーションというか、ベンチャーというキーワードでお金をどこかに出そうと考えていない会社はいないくらい、200、300のクライアントを相手にしていると言っていました。

ただ、一番大事なのは、誰がどういう責任やコミットで、会社としてオープンイノベーションに取り組むかといったところがまだすごく曖昧なまま見切り発車しているので、ちょっと怖いという話をしていて。

別にネガティブなことを言うつもりではありませんが、そういうタイミングですということは、最近聞いている話ですね。

武田 ありがとうございます。

本間さんも、お金の流れに関して、何か実際に感じられることはありますか?

本間 僕も、日本が資金量でバブルであるという感覚はあまりなくて、先日ちょっとアメリカに行ってきましたけれども、アメリカに僕ら(インキュベイトファンド)みたいな小型というか、シードステージあるいはアーリーステージに投資するマイクロベンチャーキャピタルというシリーズAくらいをターゲットにするファンドがあるんです。

僕らも、最近どこが一番いけているのかといったことを知りたくて話をするのですけれども、クランチファンドやSVエンジェルなど、結構有名なところの名前しか出てこないんですよね。

僕もインターネット上で知っているような、ベンチャーキャピタル業界の人間ならば誰しもが知っているようなファンド名なのですけれども、なぜ(有名ファンド以外の)他が分からないかというと、やはり同業が100社くらいいるかららしいです。

つまり僕らインキュベイトファンドと同じようなファンドが100個あると、どれがイケているかというのが分からないよねという話なのですけれども、翻って日本で我々のような活動をしているファンドが何個あるかというと、本格的にやっているという意味で言うと、まだ数個くらいしかない印象です。

そういう意味では、まだまだカバレッジしているエリアに関して、我々もインターネット中心でやってきましたし、リアルテックと言われている領域にベンチャーキャピタルが沢山ありますかと言われると、まだないのです。

ベンチャーキャピタリストが足りない

今野 そういう意味では、カネ余りも多少あるのだけれども、一番のボトルネックはファンドマネージャー不足ですね。

本間 そうですね。

今野 GP(General Partner)不足が実は一番エコシステムのボトルネックではないかと。

武田 それは単純に、人数が足りないのですか?

今のお話にも共通するのかもしれないですけれども、この間、本間さんとお話をしていて、本間さんが先日シリコンバレーに行かれていた時のフィードバックの中に、「投資家が提供できるバリューの画一化」についての話題がありました。

投資家がなかなか差別化できていない状況の中で、完全に売り手市場(投資を受ける側が優位)になってしまっているというフィードバックが自分としてはすごく印象的でした。

さっきの今野さんのお話だと、キャピタリストの数が足りないということでした。

それは単純に数の問題なのか、数プラス質の問題も内包しているのか、外部の人間としてはその辺についても知りたいのですが。

今野 個人的には、量からして足りないから、質も生まれるはずがないと思っています。

母集団形成自体がないかなという気がしますね。

投資が「目的化」することへの警鐘

永田 僕もすごく思うところがあって、例えばコーポレートベンチャーキャピタル(CVC)ブームは若干あると思っていて、日本の大企業3,000社がコーポレートベンチャーキャピタルを3,000個作ったら、キャピタリストチームがいくつ必要なのですかという話なんですよね。

大学に絞ったベンチャーキャピタルも今ぽつぽつ出始めていて、技術の社会実装などを名目上の主目的にしながらも、段々と投資をやること、ファンドを作ることが主目的になったような形のベンチャーキャピタルが現れ始めているのではないかなと思っています。

▶編集注:「戦略なき」ファンドが多い。(小林)

即ち、投資活動をしないとダメだというトレンドによる結果としてのアクションが見受けられるなと思っているので、その受け皿としてキャピタリストを増やさなければいけないというのは目的も逆だなと思っているんですよね。

でも、何となく自分の庭に立てていなくてはいけないという雰囲気もあって、そうなるととりあえずそこに人を据えなくてはいけないということが起こってしまっているのではないかという感じがしますね。

武田 資金の話だけではなくて、実際に投資の実行の話にもいきたいなと思うのですけれど、アメリカのデータなどを見ていて、資金のファンドレイズの金額は上がり続けていて、でも投資の実行の件数や、実行の総額は、もう明確にピークアウトしている印象があります。

日本で投資をされている皆さんも同じ状況を感じていらっしゃるのでしょうか。

米国ではファンドが「ホームラン」に依存し始めている

今野 アメリカの2年、3年後を追ってしまっている可能性があるのが怖いなと思っているのですけれども、うちのLP関連から話を聞くと、アメリカのファンドにおいては、確かに投資社数が減って、1社のホームラン・ディールに占めるリターンへの依存度がどんどん高まっているらしいんですよ。

調達環境の二極化というのはそういう話にも関連するのだけれども、結構日本もそうなりつつあるなと思っているから、そこは少し怖いなと思っています。

何が怖いかというと、どんどんIPOが遅れて、調達がプライベート(非上場のまま)でできるからです。

▶編集注:メルカリCFOの長澤さんがプライベートな調達環境について語っているこちらの記事も御覧ください。
メルカリCFOが語る「世界No.1」を実現する為のファイナンス戦略

要はアーリーステージでリスクを取った投資家からすると、希薄化はどんどんするし、期間収益(IRR)も低下すると、今度はアーリーステージでリスクを取る意味がなくなってくるみたいな発想になっていって、どんどん後ろが重くなってきます(ステージを遅らせて投資に参加する意思決定が働きやすい)。

▶編集注: UBERみたいな例ですね(小林)

そして、例えばマクロ環境が変化してIPOのウィンドウがギュッと締まったり、競争環境が激化して業績が伸び悩んだりして、実は前のラウンドの投資家からすると希薄化しました、後ろのラウンドからすると、そのラウンドより下(投資したラウンドより低い株式の評価額)でしか上場できませんといったことになるのです。

そしてその結果、上場できませんといったことが、いい会社にも起きかねないなと思い危惧しています。

▼▼
【ICCパートナーズによる上場に関する経営者と投資家のコンフリクト解説】

ベンチャー企業の事業が順調で上場する条件を満たせる場合、公開市場での資金の調達はもちろん、会社の信用度や人材採用力が上がるなど、上場には事業を加速させる上でのメリットが多くあります。同時に、ベンチャーキャピタルにとってはEXIT(出口)として株式を売却して利益を出す機会となります。(もちろん創業者株式やストックオプションの現金化の機会でもあります。)

一方で、未公開市場で第三者割当増資の回数を重ね、高い株式の評価額でベンチャーキャピタルから資金を調達した場合、当然、当該ベンチャーキャピタルはそれよりも低いバリュエーション(=企業価値評価)で上場することは、投資による利益を回収できないので良しとしません。

上場及びその評価額は、マクロな経済環境による市場の影響を多少なりとも受けますので、いくら経営陣が「上場したい」と考えても、上場に際した評価額に対して、株式を持つ投資家が「NO」と言う場合、事業の成長を妨げる場合があるだけでなく、本来同じ方向を向いて協調してきたベンチャー経営者と投資家に溝ができてしまう可能性をはらみます。
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EXIT環境の先細りを感じるか?

武田 実際にアメリカでもIPOの数は減っていて、もちろん日本とアメリカはイグジットで考えるとIPOの比率は全然違うのですが、明確にIPOの件数が減っていることで、イグジットの部分も先細っている感じがあるじゃないですか。

先ほど今野さんからも、日本では2016年からIPOが厳格化したというお話を頂きましたけれども、やはりかなり出口が狭まってきている印象というのはもう感じますか?

実際、僕は上場側でそれを感じ始めているのですけれども。

今野 そうですね。

武田 本間さん、投資の実行という点でいかがでしょうか?

お金ってちゃんと使えているのでしょうか。

本間 僕はもう少し楽観的でして、まだ使える余地は沢山あるのではないかなと思っています。

やはり日本という国を東南アジアやインドなどと比べてしまうと、一人あたりのスペンディングの量というのは全然違うマーケットであって、インターネット上で見ると、1クリック、1ビュー、1ユニークユーザーという風に捉えれば中国の方が多いし、インドの方が多いという話になりますけれど、普通に考えてリアルの世界というところは、完全にアンタップなマーケット(Untapped Market=未開拓な市場)だなと思っています。

ここにまだ新しいイノベーションという余地が沢山あるにもかかわらず、一般的なベンチャーキャピタルのお金の議論になると、中国の○○というサイトはMAU(Monthly Active Users)が1億あるとか、そういう議論で終わってしまいます。

それはあまりにも表面的な見方であって、リアルなイノベーションというところで言うと、95パーセントくらいの活動というのはまだまだ進化の余地があると思っていて、日本なんかは極めて取り組み易いマーケットなのではないかと思っています。

ですから、お金はもうちょっと使えるかなと。

武田 使いたい、使えると。分かりました。

ありがとうございます。

(続)

続きは 加速する「オープンイノベーション・マネー」の罠と成功事例 をご覧ください。

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編集チーム:小林 雅/榎戸 貴史/戸田 秀成/横井 一隆/Froese 祥子

【編集部コメント】

ベンチャー投資に関わる業界の方々にとっては、容易に読み進められると思いますが、そうではない方々にも読みやすく、ということで、【上場に関する経営者と投資家のコンフリクト解説】など編集部の補足を適宜加えております。そちらもぜひお読みください!(榎戸)

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