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6. 楽天 北川さんがビジネスマンに読んでほしい名著論文「More Is Different」

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「大人の教養シリーズ『読書』〜ビジネスパーソンこそ本を読め!(シーズン3)」、全10回シリーズの(その6)は、楽天の北川 拓也さんが「ビジネスマンに話したくて仕方がなかった論文」を紹介します。読書と言っても極めて短く、専門用語も出てこないこの論文は、ミクロとマクロでは世界が違い、質も異なることを、当時の主流の考えに対して論破したものだそうです。どのような論文なのでしょうか?ぜひご覧ください!

ICCサミットは「ともに学び、ともに産業を創る。」ための場です。そして参加者同士が朝から晩まで真剣に議論し、学び合うエクストリーム・カンファレンスです。 次回ICCサミット KYOTO 2021は、2021年9月6日〜9月9日 京都市での開催を予定しております。参加登録は公式ページをご覧ください。

本セッションは、ICCサミット FUKUOKA 2021 プレミアム・スポンサーのリブ・コンサルティング様にサポート頂きました。


【登壇者情報】
2021年2月15〜18日開催
ICCサミット FUKUOKA 2021
Session 11E
大人の教養シリーズ「読書」〜ビジネスパーソンこそ本を読め!(シーズン3)
Supported by リブ・コンサルティング

(スピーカー)

朝倉 祐介
シニフィアン株式会社
共同代表

北川 拓也
楽天株式会社
常務執行役員CDO(チーフデータオフィサー)グローバルデータ統括部 ディレクター

関 厳
株式会社リブ・コンサルティング
代表取締役

(ホスト)

嶋 浩一郎
株式会社博報堂 執行役員/株式会社博報堂ケトル エグゼクティブクリエイティブディレクター

渡邉 康太郎
Takram コンテクストデザイナー / 慶應義塾大学SFC特別招聘教授

大人の教養シリーズ「読書」〜ビジネスパーソンこそ本を読め!(シーズン3)


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最初の記事
1.シーズン3突入! 経営者が自らの読書を語り、影響を受けた一冊を語る

1つ前の記事
5.登壇者同感!「仮説・検証型読書」にはまると、小説が読めなくなる

本編

読書の“ベルリンの壁”を越える『プルーストとイカ』

Takram コンテクストデザイナー / 慶應義塾大学SFC特別招聘教授 渡邉 康太郎さん

渡邉 個人的には、壁(※)の間ぐらいをふらふらするような読書が好きです。

▶編集注:Part.5で、因果関係や構造を理解して、「仮説・検証」をして読む本と、感情を楽しみながら「想像・体験」をして読む本の間に「読書のベルリンの壁」があるという北川さんの発言がありました。

北川 あっ、やるんですか?

渡邉 ぎりぎりの。

北川 すごい!

渡邉 両方のテーマを同時に扱ってしまっている分類不能系の本もあるような気がします。

メアリアン・ウルフという、タフツ大学の教育系の教授がいるのですが、彼女が書いた『プルーストとイカ―読書は脳をどのように変えるのか? 』という本をおととしぐらいに読んではまりました。

イカは太い神経系の軸索を持つ生物学の象徴で、プルーストは「想像・体験型読書」の象徴ですが、読書をしている時に動物としての人間の神経系にいったいどういう作用が起こっているのかを、科学的に分析するという本です。

北川 非常に面白いじゃないですか。

渡邉 だから、「仮説・検証型読書」と「想像・体験型読書」の合間を行きつ戻りつするような、そんな感じの本でした。

北川 そういう本もあるのですね。

渡邉 もしかしたら、どっちかなのかもしれない。

分からないです。

北川 (渡邉)康太郎さんに今度ベルリンの壁の壊し方を教えてもらう必要があります。

嶋さんおすすめの『鳥肉以上、鳥学未満。』

博報堂 執行役員/博報堂ケトル エグゼクティブクリエイティブディレクター 嶋 浩一郎さん

嶋 そういう本は、確かにありますよね。たぶん読みやすい本でもたくさん出ていると思います。

おととしぐらいに読んだのは、川上 和人さんという鳥類学者が書いた本です。

彼の書くサイエンスエッセイはとっても面白くて、『鳥類学者無謀にも恐竜を語る』という本が一番有名で、センスがいいんですよね。

「恐竜は絶滅していないのである。鳥になったから、今は恐竜は鳥なのである。昔は花鳥風月が、昔は花獣風月だったのである」というような。

「恐竜学者は骨しか見ていないから骨のことしか分からないけれど、鳥類学者は今生きている鳥をずっと見ているから、恐竜の骨を見たらどう動くか分かるよ」という視点で書いてある本です。

で、最近出されて面白かったのは、『鳥肉以上、鳥学未満。』という本です、

これは料理の本なのか、恐竜の進化について書いた本なのかが混然とぐるぐる回っていくのですが、グルメガイド的に世界のやまちゃんの手羽先が出てきて、「世界のやまちゃんの手羽先を食べると出てくる骨、ここの腕の部分の骨の数は2本だから、ほら、こうやって回るでしょ?」とか、「ここの爪は3本だから恐竜から進化したことは鳥類で分かるでしょ」とか、グルメガイドだけれど、そこで恐竜から鳥類への進化について語るという謎の本があったりしますよね(笑)。

北川 面白いですね。

 そういう分類不能な本は、面白いことが多いんです。

「想像・体験型読書」はバイアスにこそ価値が宿る

楽天株式会社 常務執行役員CDO グローバルデータ統括部 ディレクター 北川 拓也さん

北川 この2つのもう1つのパラダイム的な違いは、「仮説・検証型読書」は割と未来に意識があるなと思います。

因果関係を読んで未来を予測したり、未来をより良く生きたいという思いです。

一方、「想像・体験型読書」は、今に徹底的に向き合うことが多いなと思います。

最近、小説を久しぶりにちょっと読んだ時にすごくいいなと思ったのが、小説から伝わってくる感情を、今この瞬間楽しんでいる自分を感じた時です。

「そうそう、こういう楽しみ方だったな」と思い出しましたね。

渡邉 今の話で思いましたが、「仮説・検証型読書」は一般法則と書いているように、普遍性について考えます。

普遍性について考えるときに、ただ1回起こる偶然は、ノイズになってきます。

北川 そうですね。

「想像・体験型読書」では、ただ1回だけ起こるノイズとなってしまうものにこそ価値が宿ります。

バイアスにこそ価値が宿るのが「想像・体験型読書」の世界観ですよね。

渡邉 そういうふうに捉えると、壁は分厚いのかもしれません。

北川 そうですね。まあまあ分厚いですね(笑)。

 類型化されていくと、どんどん上(仮説・検証型読書)に行って、例外的で、「こんなことがあったんだ!」という事件的なものが下(想像・体験型読書)ということですね。

渡邉 そうですね。ビジネスワールドは、今まではベストプラクティスを枚挙して法則化するので上半分でしたが、だんだんみんながSDGs、ダイバーシティ、多様な文化のような話もするようになり、下に寄って上をとか、上に寄って下をみたいな循環が起き始めているのかもしれません。

北川 まさにそうですね。

ビジネスは最近ストーリー展開も多いですね。

渡邉 確かに。

北川 今日はせっかくなので、これから上(仮説・検証型読書)に振りまくった論文の話をしようと思います(笑)。

渡邉 おっ!

(一同笑)

 これは逆に聞きたいですよね!

北川 バウンダリーの話をしたので(Part5参照)そういう話をするかと思いきや、そうではなくて、上に振り切ります(笑)!

北川さんがビジネスマンに伝えたい、伝説の論文とは?

北川 もはや本でなくて申し訳ありませんが、ぜひ論文の紹介をさせていただきたいと思います。

これはビジネスマンに話したくて仕方がなかった論文で、ぜひ読んでいただきたいと思います。

理論物理学者の中では古典の名作中の名作、これ抜きでは物理学者とは言えないといわれる論文の1つ、プリンストン大学のフィリップ・アンダーソン教授の「More Is Different」という論文です。

極めて短い論文ですし、大して物理の話は出てこないので、ぜひ読んでいただきたいです。

科学誌『SCIENCE』に 1972年に掲載されています。

少し古いですが、内容は全然古くありません。これを解説させてください。

「More Is Different」がどういう時代の論文だったかというと、簡単に言えば左側の周期表やスタンダードモデルといわれる素粒子物理学、物をどんどん、どんどん小さくしていったら何が残るのかというところの統一理論がほぼ確立したといわれた時代の論文です。

どんどん小さくしていくと何が残るのかというのは「還元主義」と言われますが、1950年代頃の物理学者に信じられた考え方は、「最も小さい構成要素さえ理解でき、それが記述できれば、その要素から再構成することで、世の中のものはだいたいのことが理解できる」という考え方で、それをすごく突き詰めた時代だったのです。

その背景があるなかで、驚きの事実としてでてきたのは、半導体などのものづくりの世界は、実はそのアトム(原子)などのミクロな振る舞いが分かっても、物質のマクロな世界はなかなか理解ができないということ。そういうことに気づき始めた時代だったのです。

そこで「More Is Different」で、ミクロとマクロでは全然世界が違う、質的に違うのだということを、理論物理を元に論破したのがフィリップ・アンダーソンだったのです。

「もっとも創造性の高い物理学者」フィリップ・アンダーソン氏逝く – 高橋真理子|論座 – 朝日新聞社の言論サイト (asahi.com)

これ、改めて考えれば直感的に僕らにとって、当たり前の話です。

ケミストリー、化学を理解したところで、バイオロジー(生物学)、つまりセルは理解できない。

まさに、セル(細胞)が出てきましたね。

▶編集注:シーズン2でリバネス丸義弘さんが紹介した本『『THE CELL(細胞の分子生物学)』』のこと。北川さんも「名著中の名著」と言及。

だから難しいのですが、セルは理解できない。

セルを理解できたところで、(その集合体である)人間を理解できない。

人間1人を理解したところで、社会を理解できない。

これは何なんだ、なぜそんなことが起きているのか、これはどういうメカニズムなのかということを、フィリップ・アンダーソンがすごい直感で捉えた論文だったのです。

渡邉 面白い!

(続)

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続きは 7. なぜ量が質に転化するのか、論文から読み取るビジネスへの学び をご覧ください。

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編集チーム:小林 雅/星野 由香里/浅郷 浩子/戸田 秀成/小林 弘美

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