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4. ソーシャルセクターに、一番欠けている視点は何か

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「ソーシャルグッド社会の実現に向けて(シーズン3)」、全7回シリーズの④は、ソーシャルセクターに欠けている視点について議論します。「大事なことだから、きっと共感してもらえる」とつい考えてしまうところを、戦略と設計図に変えたいというWELgee 渡部さんに対し、ユーグレナ出雲さんは、焦ることはないと語ります。その根拠とは? ぜひご覧ください!

ICCサミットは「ともに学び、ともに産業を創る。」ための場です。毎回300名以上が登壇し、総勢900名以上が参加する。そして参加者同士が朝から晩まで真剣に議論し、学び合うエクストリーム・カンファレンスです。 次回ICCサミット KYOTO 2022は、2022年9月5日〜9月8日 京都市での開催を予定しております。参加登録は公式ページをご覧ください。

本セッションは、ICCサミット FUKUOKA 2022 プレミアム・スポンサーのSIIF(一般財団法人 社会変革推進財団)にサポート頂きました。


【登壇者情報】
2022年2月14〜17日開催
ICCサミット FUKUOKA 2022
Session 12F
ソーシャルグッド社会の実現に向けて(シーズン3)
Supported by SIIF(一般財団法人 社会変革推進財団)

(スピーカー)

出雲 充
株式会社ユーグレナ
代表取締役社長

小助川 将
Go Visions株式会社
代表取締役

田口 一成
株式会社ボーダレス・ジャパン
代表取締役社長

松田 文登
株式会社ヘラルボニー
代表取締役副社長

渡部 カンコロンゴ 清花
NPO法人WELgee
代表理事

(モデレーター)

青柳 光昌
一般財団法人社会変革推進財団
専務理事

三輪 開人
認定NPO法人 e-Education 代表 / 株式会社e-Education 代表取締役

「ソーシャルグッド社会の実現に向けて(シーズン3)」の配信済み記事一覧


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最初の記事
1. IT産業のように、ソーシャルグッドでもエコシステムを作りたい

1つ前の記事
3. 社会起業家の文脈で一番欠けているのはロールモデル

本編

三輪 ここで清花さんと語り合いたいテーマがあります。

清花さんは今回ICCサミットの1日目から来ていましたか?

渡部 はい。

ソーシャル性が強かった今回の各カタパルト優勝企業

三輪 出雲さん、(出雲さんがおっしゃる変化の年は)2025年ではないんじゃないかと思ったのが、実は今回のICCでした。

私は鳥肌が立ちましたが、セッション1、STARTUP CATAPULTで優勝したスタートアップを覚えていますか?

今から優勝した企業を挙げていきますね。

セッション1A STARTUP CATAPULTで優勝したのは、コーヒーのダイレクトトレードを行っているTYPICAです。

小規模生産者とロースターのダイレクトトレードで、生産者の収益向上と、コーヒーに旬の美味しさを実現する「TYPICA」(ICC FUKUOKA 2022)

セッション3A SaaS RISING STAR CATAPULTは、子育て世代の集金問題を解決するフィンテックベンチャーのエンペイです。

キャッシュレス支払いで集金業務の課題を解決し、新しいお金の流れと社会をつくる「エンペイ」(ICC FUKUOKA 2022)

セッション6A CATAPULT GRAND PRIXは、サバの養殖をしているフィッシュ・バイオテックと錦城護謨で、フィッシュ・バイオテックの右田さんは、ソーシャルグッド・カタパルトにも登壇しています。

民間初、通年採卵できるサバの種苗と「閉鎖循環型陸上養殖」で、新たな食文化の創出を目指す「フィッシュ・バイオテック」(ICC FUKUOKA 2022)

自然由来、デザイン性に優れたシリコーンゴムのものづくりで、良いものを大事に長く使う文化を伝える「KINJO JAPAN」(ICC FUKUOKA 2022)

そして、セッション7A REALTECH CATAPULTは、日本環境設計さんです。

「日本環境設計」は燃やさないリサイクルで、ペットボトルが永遠に循環する世界を作る(ICC FUKUOKA 2022)

今回この会場でも司会がアナウンスさせていただきましたが(※) 、ペットボトルが完全リサイクルできる世界がもう実現したそうです。

▶編集注:会場での使用済みペットボトルの回収を呼びかけ、集まったペットボトルは日本環境設計の協力でリサイクルへ。

「なんか来ちゃったな」と正直思うくらい、今回優勝した企業が軒並みソーシャル性が抜群で、圧倒的に違ったのが、先ほど田口さんがおっしゃった「設計図」です。

TYPICAのビジネスモデルを聴いたときに、「なんでこのモデルをひらめかなかったんだろう?」と思った方が、非常に多かったのではないでしょうか?

もう1つが「言葉選び」です。

昔こんな言葉が流行りました。「フェアトレード」です。

「フェアトレード」という言葉を1回も使わずに、「ダイレクトトレード」という、今の世界のトレンドワードを使うことによって、TYPICAは優勝したのです。

もしかしたら皆さん、「あれ? これってソーシャルビジネスでは?」と、日本環境設計を見ても、TYPICAを見ても思ったのではないかと感じたときに、すごい高揚感と、少しだけ「えっ、だったらNPOって存在意義がないのかな?」という思いを持ちました。

そして、清花さんからは、「さあどうだ」と、「この問題、どのスタートアップだったら解決できますか?」というプレゼンがありました。

「WELgee」は、未来を奪われ日本にたどり着いた難民の再出発を支援する(ICC FUKUOKA 2022)

ボーダレスさんが、難民の人たちによってパソコンを皆さんの宝に作り変える事業(ZERO PC)を作られていることを含めて、清花さんが1日目から感じていた違和感やもやもやをぜひ吐き出してほしいと思います。

「きっと関心を持ってもらえる」と思ってしまう

渡部 ありがとうございます。

私はICCへの参加は初めてで、ICCでは普段NPO業界の知り合いと話すワードとは全然違うものが飛び交っていました。

皆さんの話を聴いていて、私に足りないものだと考えたのが、戦略と設計図のところでした。

ソーシャルなイシューだから、きっと関心を持ってもらえるに違いない、みたいなものが、気を抜くと出てしまいます。

きっと共感してもらえる、なぜかと言うと大事だから、なぜかと言うと命にかかわるから、なぜかと言うと福祉だから…、と。

これは、自戒を込めてですが、それで伝わらなかったところに伝えていきたいと自分たちが言っているのにもかかわらず、「なんで共感してもらえないのだろう?」と、自分のイシューのマーケティングがうまくいかなかったときにも、「こんなに大事なのに分かってもらえない」とどこかで思っている自分がいないか。

そこに、設計図があったかなと考えると、戦略と設計図のところで、この4日間はものすごく学ばせてもらったなと思っています。

三輪 世代交代の話と設計図の話は、もしかしたらつながるのではないかと思い始めています。

会場に(楽天・小林)正忠さんもいらっしゃいますが、楽天からGREEDeNAサイバーエージェントに何が引き継がれたのだろうと考えると、もしかしたら設計図が引き継がれていっているのではないかと思いました。

資金調達のノウハウもしかり、エンジニアのチームの組み方もしかり、サービスの見せ方も含めて、ある種、先輩起業家が設計図をオープンにしていったことによって、STARTUP CATAPULTにもともと出ていたようなITベンチャーの皆さんに、どんどん受け継がれていると思います。

NPOも50~70年の歴史があるけれども、では設計図を上の世代の方々から我々に渡していただいてきたのかと思ったり、自分自身が下の世代に渡せているかといえば、全然渡せていないなと思い始めたりしました。

世代交代から始まる設計図に解像度の粗さや、まだ足りない部分があるのではないかと思いますが、出雲さん、その辺りはいかがでしょうか?

今、優秀な人はソーシャルセクターを目指す

出雲 設計図という抽象的なものがあるわけではないんですよ。

結局、人のノウハウと経験が、ペアレンツ、ファミリー1、ファミリー2で、その次の世代に、実際に人が移っているんですよ。

例えばIPOの経験を積んだ人がいるし、証券会社にもそれをサポートしたことがある具体的な経験とノウハウを持っている人が各世代にそれぞれいる。

これがエコシステムなんです。

だからそんなに慌てなくてもいいですよ。

なぜなら、今、一番優秀な人がソーシャルセクターに来るというのは間違いないのです。

松田さんも、電通かヘラルボニーかという話をしてくれたじゃないですか。

私がこの例でいつも申し上げるのは、アメリカで一番大きいNGOの1つのRoom to Readです。

マイクロソフトにいたジョン・ウッドが、マイクロソフトを辞めて脱サラしてスタートした、読み書きができない人たちに本の読み聞かせをするNGOです。

予算ゼロ。それでも大きなムーブメントを起こす方法 マイクロソフトを飛び出した社会起業家に学ぶ(DIAMOND online)

アップルやマイクロソフトのAIエンジニアの新卒の年収は1,500万円以上とかですから、みんなそれで入社したいと思っているのですが、アメリカの就職企業ランキングでは2〜10位なんです。

今、全米で一番優秀なアイビー・リーグの大学の卒業生が、一番行きたくても入れないのがRoom to Readで、マイクロソフトよりも入るのが難しいのです。

つまり一番優秀な学生がソーシャルセクターに行くというのは、ミレニアル世代とZ世代と、グローバルに同じことが起きているので、2025年以降は優秀な人が既存の大企業、既存の既得権益に行かなくなります。

そうなると急激なトランスフォームとトランジションが起こるようになるので、大丈夫ですから、安心してください。

それと、設計図みたいなものは構築するのに時間がかかります。

というのは、人が設計図的なものをノウハウとして蓄積して、いろいろなところへ伝えていくからです。

例えばヘラルボニーを大成功させた財務の責任者が、小助川さんの会社や、NPO、NGO、株式会社に移っていくということが起きるのには10年かかりますから、そこはそんなに慌てずに、もう少し時間がかかると思ったほうがいいと思います。

ICCサミットに来るのはちょっと変わった人たち

出雲 今、(三輪さんが2025年より)もうちょっと早くなるんじゃないかと言っていたでしょ?

それは早くならないんです(笑)。

なぜならここに来ている人たちは、やっぱりちょっと変わった人たちなんですね。

(一同笑)

具体的に言うと、ICCサミットに来ているほとんどの人たちは、イノベーターとアーリーアダプターなので、ちょっと気を抜くとすぐ忘れてしまうのですが、世界にイノベーターとアーリーアダプターの人たちはどれぐらいの割合でいると思いますか?

イノベーター理論をわかりやすく解説!【事例あり】(東大IPC)

商品などにもよりますが、例えば、iPhoneが出てきて、よく知らないけれどとりあえず買ってしまうイノベーターとアーリーアダプターの人は、絶対20%はいないのです。

ICCサミットの会場にいるのは、ほぼそういう人たちなので、少し分かりにくいのですが、イノベーターとアーリーアダプターの人たちは、どんなものに対しても普通は16%ぐらいです。

新しいものは知らないから嫌だというラガードと、アーリーマジョリティの人たちのほうが55~60%とか、とにかく大多数なので、進歩的な人たちが集まって、今いい雰囲気だというのは、苦労するアントレプレナーに、逆のメッセージになってしまいます。

この会場にいる人たちの中でソーシャルとキャピタリズム、カンパニー、ビジネスというものが融合しているのは事実で、間違いないと思います。

ただこれが世の中のメガトレンドになっているかというと、決してそんなことはないので、既得権や前の世代と戦っている人たちをサポートし応援することは、この3年間、今まで以上にやっていかないといけないとだけ加えさせていただきます。

三輪 ありがとうございます。

青柳さんもアーリーアダプターの皆さんを応援する立場として、今の出雲さんのお話を聞かれて、どう思われたでしょうか?

青柳 全く同意ですね。

こういう場は、変わっている人しか来ません。自分たちもそうですが(笑)。

イノベーター、アーリーアダプターの集まりなので、ここで起きていることは素晴らしいことですが、これが本当にメガトレンドでないのは、まさにおっしゃる通りだと思います。

メガトレンドになるであろう3年後、4年後まで、までと言ってもそこがゴールではないですが、イノベーター、アーリーアダプターがもっと力をつけられる、アメリカの就職の話で言えば、ここにきて全然大丈夫だよという、皆さんのような企業をたくさん作っておくことがまず重要だと思いました。

私たちだけではなく、協業しながら、そこの選択肢をたくさん作っておくことかなと思いましたね。

三輪 ありがとうございます。

(続)

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編集チーム:小林 雅/星野 由香里/浅郷 浩子/戸田 秀成/小林 弘美

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