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【CRAFTEDカタパルト登壇決定】ゴムの会社が完成させた、割れない、冷めない、結露しないロックグラス! 錦城護謨の工場を見学しました

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日本中からものづくりに関わるさまざまな企業が集まってきているCRAFTEDカタパルト。次回ICC KYOTO 2021の登壇が決定した錦城護謨を見学するため、6月某日ICC一行は大阪八尾市にある工場を訪問しました。ゴムの部品で大きなシェアを持つ会社が発表した「KINJO JAPAN」の割れないロックグラスを、工場見学の模様とともにお伝えします。ぜひご覧ください!

ICCサミットは「ともに学び、ともに産業を創る。」ための場です。そして参加者同士が朝から晩まで真剣に議論し、学び合うエクストリーム・カンファレンスです。 次回ICCサミット KYOTO 2021は、2021年9月6日〜9月9日 京都市での開催を予定しております。参加登録は公式ページをご覧ください。


7月某日、ICC一行は次回ICC KYOTO 2021のCRAFTEDカタパルトに登壇する錦城護謨(きんじょうごむ)の工場を見学に、大阪府八尾市を再訪しました。昨年の12月、関西のものづくり企業を訪ねたCRAFTED TOURの木村石鹸のほど近くにあり、まさに木村 祥一郎さんからご紹介をいただきました。

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シャープの工場の並びにある敷地で、工場は数棟に分かれています。まずはオフィス棟へうかがって、錦城護謨の歴史について、工業品事業本部の鈴木 宏昭さんにお話をうかがいました。

錦城護謨の歴史

鈴木さん「かつての大阪城は、外壁まで金と銀を使った非常にきらびやかなお城で、錦のお城、錦城という別名があります。

大阪城の別名を社名にとった理由は、創業者が豊臣秀吉のように天下を獲りたいという想いからです。

創業は1931年5月で、この地に工場を建設したのは1962年。もとは関東でゴムの資材や製品を仕入れて関西で売る商社として発足しました。

戦前の創業で、戦中はゴムが軍需統制品となっていたため自由に流通されないなかで、創業者が横浜港まで行って、関西でお分けしていたのです。

それから1960年代に工業化されたシリコーンゴムを日本では比較的早めに導入したため、その後の食品衛生法の改正で、炊飯器など食べ物に関わるゴムは安全なゴムを使うことになったときも、すぐに対応ができました。現在は45%の取り扱いがシリコーンゴムです。

日本製の炊飯器の蓋についているパッキンは、約50%が弊社のゴムです。

弊社の最も大きいゴムの部品は、3メートル60cmのゴムの踏板です。車がETCのゲートまで来たときに、スイッチが入る板です」

このETCの下の黒い線のようなところが踏板

この日、奈良から車で大阪までやってきたICC一行、ETCを通ってきたことを告げたところで、社長の太田 泰造さんが現れました。

太田さん「踏んでいただき、ありがとうございます。路面に埋まっていて、ゴムの表面だけが出ていてこれを踏むとETCから電波が出る仕組みになっています。出口側には台数カウントの板が埋まっています。タイヤ間の幅を測ることでバスや乗用車などの車種判別を行うタイプもあります。日本の道路のETCは半分くらいが錦城護謨です」

その他、電気シェーバーの防水部品、マッサージチェアのゴムローラー、コピー機の中の紙送りのローラー、自転車のブレーキのゴム、車のセンサー、スイミングキャップや歯間ブラシ、内視鏡の器具先端を覆う部品などなど、錦城護謨の製品は、実にさまざまなものに採用されています。

ここではご紹介できないものもありますが、日本人なら錦城護謨に触れたことのない人はいないのでは? というほどです。

もう1つの事業の柱はゴムとは別ですが、水分の多い地盤から水を抜くという地盤改良の事業で、羽田空港の第2ターミナルや中部国際空港、2025年の大阪・関西万博用地も行ったそうです。その他にも土壌に有機溶剤が含まれている話題になった豊洲市場では土壌の浄化も行ったそうです(浄化はきっちりと行いましたので安心してくださいとのこと)。

では実際どんなものを作っているのか? ゴム事業とその製造現場である工場を見学することになりました。

ゴム工場を見学

ゴム工場というと、黒い小さいゴムのカスが飛び散り、タイヤが燃えたときみたいな強烈な匂いがするイメージを勝手に持っていましたが、錦城護謨では、匂いのしないゴムとするゴムの工場を分けています。

まずは食品衛生法が関わる、家電の中で使われているゴム部品の製造現場へ。工場の前には出荷前の製品のダンボールが積まれています。

明るい職場の雰囲気

最初の工程は「ゴムを練る」ことから

これまた勝手なイメージですが、ゴムの素材は、せいぜい熱を加えて柔らかくしたものを成形するのかと思っていましたが、最初の工程は「ゴムを練る」ことから始まります。

原材料となるポリマーに、色素やゴムを固める薬剤を順次混ぜながら練っていきます。ゴムはこの工程を経ないと材料として使えないのだそうです。硬いもの、柔らかいものなど、さまざまなものがあり、練るときには摩擦熱が起こるので、中に入れる薬剤によって加熱したり冷却したり、摩擦熱をコントロールしながら行うという職人作業です。

練り終わった素材が作業サイズに裁断されて置かれています

さまざまな金型で成形する

素材を加工・成形する工場に入ると、金型を搭載した大きな機械が通路の両脇にずらりと並んでいます。すごい音です!

鈴木さん「工場内の改革で、通路側からも見えるようにしました。それまでは壁があったのですが、光を遮って暗かったのです。手元だけでなく通路も明るくなり、見えるようになったことで工場の安全にもつながっています。ここではゴムの成形をしています」

作業している人の手元から、鯛焼き器のように成形された何かの型が、シート状につながって出てきています。

これは「スイミングゴーグル」のベルト

別の機械では、短冊状に切られたゴムを金型に並べてプレスすると、グレーの小さいパッキン部品がたくさん出てきました。どこかで見たことがあるような……?

鈴木さん「これは炊飯器の蓋の中に入っているパッキンです。

樹脂だと30秒程で出来上がるのですが、ゴムだと数分かかります。1回でどれだけ多く作れるかがコストに関わるので、一度にたくさん作ってあとから切り離していきます」
材質がゴムのため、金型から外すときもビヨーンと延びたりしているのですが、多少変形させてもOKなのはプラスチックと異なるところ。作業は1人で4台の担当をするそうです。

こちらは射出式で成形する、縦型洗濯機の蓋の防水パッキン

出来上がると、機械で金型から釣り上げられます

約200℃で成形するため出来たてはアツアツ

この工場は、2交代制で24時間稼働しているとのこと。耐久性はあるものの消耗品でもあるゴム製品は、こうやって日夜作られているのです。

作る部品に合わせて、1つ1つ金型は違います

工場内は整然と整理されており、よく見るとさまざまな金型があります。太田さんの悩みとしては、所有権は発注元でも、いつ再生産するかわからないため錦城護謨で金型を保管せざるをえないこと。1年で約5,000ほど作るそうですが、別倉庫も含め、数年分の金型を大量に保管しているそうです。

ETC用の踏板は別工場で製造

ETC用の踏板は、いわゆるゴムの匂いもあるため別の工場で製造されています。交換頻度はその場所の通行量によりますが、日々車が踏むために、日本各地でも随時交換が発生します。真っ黒な板ですが、直前に車で通ってきたと思うと見る目が変わります。

先の工場と違って黒く重い素材

名神高速道路に納品される製品でしょうか?

普通の工場と違って、ゴム専用のゴミ箱もあります

どんな製品に使われているのか? ショールームへ

2つの工場を見学したあとは、さまざまな製品が並ぶショールームへ。錦城護謨は、地域の貢献活動も積極的に行っており、地元の小学生たちが工場見学に訪れるときに、ゴムの楽しさや使用用途の広さを感じられるようなものが色々と並んでいます。

電動歯ブラシやシェーバーなど、水を使う家電で活躍するゴム。かつて携帯電話のバッテリーが取り外せた時代は、ほとんどの携帯電話メーカーの防水部品も提供しており、年商30億円のビジネスだったといいます。

こちらは、コンマ1秒を争う競技水泳で、違いをもたらすスイミングキャップ。表面を少しだけ荒らしながらも厚さが均一で非常に薄く、かぶることで水の抵抗を減らします。脱げたり敗れると失格になるため脱げない工夫の技術も入り、水泳選手の記録に貢献しています。

車椅子やスーツケースなどが引っかかったり、破損も多く音も大きかった従来の視覚障害者誘導用ブロック(左)。錦城護謨の「HODOHKUN Guideway」は、なめらかな素材で段差がスロープ状、白杖をついたときの音や感触で誘導し、サインボードとしての役割も担えます。

素材によって弾み方が違うスーパーボールのようなゴムや、見た目は同じで重さがまったく違うゴムなど、ショールームにはゴムや製品を実際に触ってみて、驚きや性質を体験できるものがいっぱい。ICC一行も子どものようにはしゃいでしまいました。

錦城護謨のファンを作るためには、工場が最高のセールスマンになると考え、安全や生産性を踏まえて10年ほどかけて工場内の環境を改善してきたそうです。それは働く人たちにとっても良い影響があり、気持ちよく働けて、自走できるようになったのだとか。毎年100件以上の工場見学を受け入れているそうです。

ものづくりとデザインをかけ合わせて

今回の訪問で見学する前は全く知らなかったのですが、錦城護謨の製品は、生活の日常に、縁の下の力持ちとして活躍しています。シェアはある一方で、受動型、下請けビジネスであるため、業績が顧客依存になってしまううえ、作ったものが自分たちの製品として世に知られることはありませんでした。

そこで、一流メーカーに認められる自分たちの高い技術を世の中に発信し、ゴムの可能性を伝えたいと、自分たちのものづくりを始めた初のBtoC自社ブランドプロジェクトが、今回のCRAFTEDカタパルトでプレゼンする「KINJO JAPAN」です。

そこでデザイナーとともに作り上げたのが、Makuakeで939%達成したプロジェクト「ガラスじゃない!ゴムでできた割れないシリコーンロックグラス」。ついにその本物を見ることができました。

底の繊細なカッティングがガラスそのもの。でも触ってみると……

曲がります! シリコンです!

たとえばアウトドアや、小さい子ども、ガラスのコップを使うことができない病院や施設などでも、このグラスならば使うことができます。実用性と美しさを兼ね備えたこのロックグラス、底の部分は、もしガラスであれば持つと指が切れるほどシャープなカッティングを施しています。

切子ガラスのようなカッティングは、なんと金型で実現しています。ゴムを磨くのではなく、職人が金型を磨き上げているそうで、これぞ職人技。しかも実用性もばっちり兼ね備えています。

「冷たいものも、温かいものも200℃まで、両方使えます。保温性があって結露しにくく、持った感触では熱さも感じにくいです」

グラスを持てるから平気と思ったら、驚くほど熱い!ということがありそうですが、これから夏にかけては、氷がすぐ溶けて飲み物が薄まるとか、グラスを置いたら結露でテーブルが水浸しということはなく、電子レンジ・食洗機もOKとのこと。滑りにくいので持ちやすく、傷もつきにくい素材です。

シリコンゴムでありながらこの透明度、手に取るまでガラスと見まごうデザイン、新しいアイデアを形にできるのは、技術があってこそ。ICC KYOTO 2021の会場では、ぜひ手に取ってみていただきたいと思います。

見学を終えて

オフィスに戻ると、CRAFTEDカタパルトの7分間のプレゼンリハーサルが始まりました。この「KINJO JAPAN」が生まれた経緯や、ものづくりのプライド、ゴムの可能性などが詰まったプレゼンです。

技術と実績がありながら表にまったく名前が出ないジレンマから、自社ブランドの誕生というストーリーは、同じ大阪のインターナショナルシューズ のプレゼンが思い起こされますが、縁の下の力持ちが日の当たる場所へやってくるという、CRAFTEDカタパルトの新たな流れを感じます。

最後はICCポーズ!

太田さんは、9月8日のCRAFTEDカタパルトと、ICC KYOTO 2021から始まるICCデザイン・アワード(仮名)のテクノロジー部門にご登壇・参加いただく予定です。

工場見学を受け入れてくださった太田さん、鈴木さん、錦城護謨の皆さま、どうもありがとうございました。今日もおそらく、街の明かりに錦城護謨の技術を見る浅郷がお送りしました。

(終)

敷地内にある創業者の像は、錦城(大阪城)の方角を見ているそうです

(終)

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編集チーム:小林 雅/浅郷 浩子/北原 透子/戸田 秀成

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