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Sound of Ikebanaが生まれる瞬間を目撃!土佐尚子さんの「アート・イノベーション体験」ツアー同行記【ICC KYOTO 2020レポート】

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8月31日~9月3日の4日間にわたって開催されたICCサミット KYOTO 2020。その開催レポートを連続シリーズでお届けします。今回は、DAY2の9月2日午後、メイン会場からLEXUSで出発し、京都大学土佐研究室で行なわれた「アート・イノベーション体験 (Sound of Ikebana実演)プログラム」の模様をお伝えします。ぜひご覧ください。

ICCサミットは「ともに学び、ともに産業を創る。」ための場です。毎回250名以上が登壇し、総勢900名以上が参加する。そして参加者同士が朝から晩まで真剣に議論し、学び合うエクストリーム・カンファレンスです。次回ICCサミット FUKUOKA 2021は、2021年2月15日〜2月18日 福岡市での開催を予定しております。参加登録は公式ページをご覧ください。


前回のICC FUKUOKA 2020で行なわれたセッション「新しい価値を創造しよう! 『アート・イノベーション〜リーダーに必要なアート力を身につける』」は、ディスカッション中心のICCサミットにおいて、ほぼほとんどの時間を黙って映像に見入るという、斬新な体験となった。

経営者よ、表現者たれ!なぜイノベーションにはアートが必須なのか?【ICC FUKUOKA 2020レポート#15】 (Sound of Ikebanaの映像も多数観ることができます)

その中心人物が、アーティストの土佐尚子さん。セッション中の映像でも紹介された、音圧で飛び散る液体の動きを1/2000秒のハイスピードカメラでとらえた、Sound of Ikebanaの制作現場と実演を観る企画が今回の主旨である。

▶このツアーの模様のダイジェスト映像もぜひご覧ください。

アートが生まれる現場を見て、学びたいことは?

メイン会場から京都大学までの移動はLEXUSで。快適な車内で同乗した方々に、このプログラムに参加した理由を伺った。

「前回のセッションを見ていて、めちゃくちゃいいいセッションだなと思って、その現場を観に来ました。ICCで一番感情を揺さぶられたのはあのセッションだったんです。

今回のICCサミットの議論でも、経済的なわかりやすいリターンの話から、どういう熱量なのか、体験なのかにみんな興味関心がシフトしていると思います。カタパルトもそういうところにシフトしていますよね」

「アートはすごくビジネスと隔離されているけれど、土佐さんはカッティングエッジなテクノロジーを使って、汽水域にいるというか、アートの世界に閉じこもるのではなく、混ざっている感じがするのですごく面白いなと思っています。

ベンチャー投資をしていると、どれに投資をするのが正しいのかわからないことがあります。計算したとしても、とくにベンチャーは数字があるわけでもないのでわからないときがあり、最後は決めの部分が必要です。

そういう意味でアート性が高いと思っていて、アート側からビジネスに寄っている土佐先生がいて、僕はビジネス側からアートに寄ろうとしているので、とても興味があります」

ツアーに参加した人たちは、それぞれの問題意識のなかに、アートの存在が大きいことを感じ取っているようだ。これからどんなものを目にすることになるのだろうか? 期待が高まる。

京都大学の土佐研究室に到着

「アート・イノベーション体験」スタート

アーティスト・京都大学大学院総合生存学館アートイノベーション産学共同講座教授の土佐尚子さん

広々とした研究室に、スクール形式で椅子が並べられている。土佐さんの自己紹介を含む作品の紹介から始まった。

「私は工学博士です。ビデオアートから始まり、30年くらいコンピューターのブラックボックスの中にいて、ニューロネットワークなどをやっていました。

AIやCGをずっとやっていて、これはもう自分でなくて、若い人がやったほうがいいのではと思い、しばらく悩んだあとにテーマを見つけました。それは自然の中にある美を発見することで『インビジブルビューティー』という名前をつけました。

その中で、ハイスピードカメラで撮った、ミルククラウンの有名な写真を真似て作り始めたのがSound of Ikebanaで、ここに至るまでは失敗の連続です。

これをFacebookに出すと、最初は『こんなのは生け花ではない』と生け花の人たちから叱られるかと思っていたのですが、意外にも家元から友達から友達申請が来ます(笑)」

印象的だったのは、新しいものを創造するときについて語った、土佐さんのこんな言葉だ。

「意味づけは最後にしましょう。それは一番最後、だいたい最後にくるものなのです。よくよく考えてみるとそうだった、ということでいいんです。

さまざまな人の意見を聞いて、発見や調査をしていると、つまらないものができてくるというのはよくあるパターンですよ。平凡な凡庸なものができてくるんです。

アートの人たちは、自分を含め、発見から創作までは主観で突き進みます。もちろん調査もするけれど、そのなかで似たもの発見すると悩んで、どうしようかなと思ったりもします。

でも、はっきりいって、似たようなものがあったら、似たようなものを超えてしまればいい。

もっと面白いアイデアがあったら、『真似る』は『学ぶ』でしょう? それをもらっちまえばいいんです。

真似ておしまいだから、社会的に問題になるんです。真似てしまったものから、別のものになるまで開発していく、突き抜けることが重要な力だと思います。苦しいこともあるけれど、そういうことをたくさんやって創出する。

最後に意味づけをして、社会や産業との折り合いをやっていけばいいんじゃないかと思います。そこまでは作る人が、意味付けのところになったらで他人が入ってくるのがアートのやり方です」

表現したいものの意味を最後にする、と聞くと意外に思えるかもしれないが、これがクリエイターとしての表現を守り、完成したものは受け取る側に委ねて、社会と接点を見出していく。それがスポーツ選手や、産婦人科と組んだ作品にまで広がっていることを、土佐さんは楽しんでいる。

「赤ちゃんの産声で作ったSound of Ikebanaで、本当に命が宿ったなと思いました」

産声で制作したSound of Ikebanaを鑑賞

この日、土佐さんが用意してくださった見学コースは下の通り。時間いっぱいで回りきれるのか?と思うようなフルコースである。

Sound of Ikebana 実演を見る

講義が終わると、早速Sound of Ikebanaの実演となった。研究室の一角の部屋に、その設備がある。

中に入ると、塗料が音圧によって吹き飛ぶため、床はブルーシートに覆われ、足元には何らかの線が引かれ、カーテンが引かれている。いつの間にか土佐さんは白衣に着替えていた。

1回目の実演が失敗し、2回目の準備ができるまでの間に、土佐さんはSound of Ikebanaの今後の計画を語った。2011年初頭には「液体が浮いている時間が長くなるため」小型飛行機に乗せた無重力での実演が予定されている。成功しても失敗しても、1回で600万円かかるそうだ。

さて、ついに実演だ。私たちが知っているSound of Ikebanaはゆったりと液体が動く作品だが、あれはハイスピードカメラで捉えた2000分の1秒だということを忘れてはならない。実演だと一瞬だ。

期待が高まる……

シートを張ったウーファー(スピーカー)の上に塗料を載せて……

音が出た!

肉眼だと本当に一瞬のSound of Ikebanaの映像版は、その場ですぐに観ることができた。赤ちゃんの産声が作り出した”花”は、このような形だった。

ゆっくりとねじれながら立ち登っていく生き物のような姿に、「すごいな…」という声が上がっている。作品制作現場へ目を戻してみると、

塗料はこのとおり、飛び散っていた。目の前で一瞬吹き上がった液体があんな動きをしていたことは、テクノロジーの力を借りて初めて、見えてくるものなのである。

「車の顔」が連獅子に

次に一行が移動したのは、LEXUS UXの車両の前。皆がフロントグリル側から見えるように誘導すると、土佐さんが解説を始めた。

「ここでお見せしたいのは、『連獅子』で、獅子の親子が人間に乗り移るシーンです。約5分なのですが、松竹のプロの歌舞伎役者さんに、赤い獅子と白い獅子がぐるぐると頭を回すのをなしで演じてくださいと無理なお願いをしました」

フロントグリルからボンネットにかけて、鮮やかな赤と白の顔のようなものが浮かび始めた。その上にSound of Ikebanaが乗り移り、変化していく。

「LEXUSの”車の顔”もいろいろなことを考えていると思うのですが、今回は歌舞伎役者の顔に見立ててやらせていただきました。

顔というものが左右対称であること、Sound of Ikebanaが形のない形状であること、その一方でシンメトリーなのは西洋のもの、オーガニックなものはアジア的な感じもします。それが融合したものを考えました」

『未来の乗り物の形』土佐さんをインスパイアした流線型

「次は四季のSound of Ikebanaをお見せしたいです」

と、一行を車の側面側に誘導した土佐さん。LEXUSの側面に映し出されたSound of Ikebanaは、塗料の素材でも秋は漆を使うなど、さまざまなアプローチで四季を表現している。

「車は流線型で、私がLEXUSに興味を持った理由は、その形です。

乗り物の形は、空気抵抗がなるべくないような形に作られていると思います。ドローンなどもそうだと思うのですが、流線型がカッコいいと思ったのが、LEXUSへの最初の印象でした。

Sound of Ikebanaは、音の振動で出来上がった自然な形です。花を割った映像などもあるのですが、表面的で、新しさがないと思い、いろいろ試して実験しています。

流線型は(映し出すものとして)ものすごくよくて、ここまでできた映像はないのです。これを見たときに、もう少しがんばれるような気がしました。将来的には、こういう空気抵抗の少ない乗り物、未来の乗り物をもっと探ることができたらいいなと思います。車はさまざまな可能性がありますね」

四季の移ろいが、LEXUSの鏡面仕上げに立体のように映し出されていく。アーティストが探る未来の車とは? しばし時を忘れて、Sound of Ikebanaに見入る一行であった。

▶LEXUSマッピングの模様を映像でもぜひご覧ください。

マジックウインドウで窓の外が「ART SCREEN」に

「AGCののグラシーンを使えば、窓の外がアートになります。ここで映しているのは私の『ジェネシス』という作品です。

窓からの眺めがよくなくても、そんな景色をAIで一変することができます。窓だけではなくて、お風呂の鏡でもできます。あらゆる窓と鏡を変えていくのも一種のアートイノベーションではないかと思っています」

マジックウインドウで、非日常なアートが生活空間に現れる

覗き込むと土佐さんの作品「うつろひ -utsuroi-」が万華鏡のように映し出される展示「永遠の間」

ベンチャー企業とアートの親和性が高い理由

参加者のひとり、パナソニックの深田 昌則さんにここまでの感想を伺った。

「仕事でも、アートとの連動をしています。そのため観る機会は多いですが、これをどうやって事業として立ち上げて、ビジネスの仕組みで回していくかという発想が大事だと思っています。経営者が見て、これは面白いとなったときに、いかにうまく人やお金をつけてやっていくか。

土佐さんもアートと学術と、ビジネスの世界を結ぶ役割をされていると思うのですが、こういう取り組みは本当に大事で、もっともっと生んでいかなければいけないと思います」

ーー深田さんは、土佐さんの作品を見てどんな発想をしますか?

「当たり前の発想だとコンテンツビジネスとつなげるという考えになりますが、パーソナライズとか面白いと思います。人や、体調によって、個人のニーズによって見えるものが違うとか」

ーースタートアップやベンチャー経営者がこういうものを見るといい理由とは?

「アートの価値というのは、世の中になかったものを提示するということにあるけれど、ベンチャー企業も同じです。世の中になかったサービスを作って、いいのか悪いのかを試しながら実現していく。だからアートと同じなのです。ベンチャー企業とアートは親和性が高いと思います。

早急にあるものだけで判断するのではなく、立体的にいろいろな可能性を考えながら、これってひょっとして…?というのがいい発想につながるんじゃないかと思います」

ガラスによる無重力の生花

背後にもSound of Ikebanaが映し出されている

次に見学したのは「ガラスによる無重力の生花」の部屋。土佐さんが解説する。

「Sound of Ikebanaを3次元化しようと思っているのですが、時間がかかりそうなので、ガラスで作ろうとしました。手法はまったく違います。

金網に五徳を置いて、棒にガラスを巻いて、色をつけて、落とす。そのままだとすぐ固まるので、電気炉の中に置いておくと、水あめ状に垂れていきます。突き上げるSound of Ikebanaとは逆方向です。

難しいのは、五徳がステンレスなのと、割れやすい色があること。そこは化学の世界ですね。

これは三菱電機と間接照明の研究で作ったもので、三宝の中にライトが入っていて、照明になっています。

これを使って、心理学の先生と一緒に、普通の照明と、こういった照明で作業するのでは何が違うかという実験を行いました。

リラックス効果はこういう照明のほうがもちろんあるのですが、創造的にもなるという結果が出て、学会発表もしました」

明るくはなく摩訶不思議な形でも、リラックスして創造的になるというのは、何の力なのだろうか?一つひとつ異なる形に魅せられたのか、次々と写真に収める参加者もいた。

▶「ガラスによる無重力の生花」を映像でもぜひご覧ください。

世阿弥能「井筒」インスタレーション

一行が注視している先の画面で、幽玄の世界が展開している。映し出されているのは能のようだ。土佐さんが解説する。

「マジックウインドウにも使っていたグラシーンで、リアプロジェクション、フロントプロジェクションを使い、アクリル板にフィルムを付けて、能の映像のインスタレーションをしています。

演目は『伊勢物語』の中の『井筒』で、世阿弥の最高傑作と言われている作品の1つの章です。平安時代、在原業平の妻がこの世に亡い業平を偲んで、業平の着物を着て踊るというクライマックスのシーンです。

シテ(主役)は観世流の林宗一郎さんという方で、着物へプロジェクションマッピングをしています。シテの心情を、着物に映し出してみようと、林さんと実験的にコラボしました」

これにより見学は終了、最後に短いプレゼンテーションを再び聞いてから、ツアーは終了となった。

ツアーを終えて

熱心に写真を撮って耳を傾けていたユーグレナ出雲 充さんに、感想を伺った。

作品に見入る出雲さん

「マジックウインドウ、あれ欲しい! すごく欲しいですね。窓や鏡にミドリムシの動く絵、顕微鏡の動画が映ったら最高じゃないですか。本当にいいアイデアをいただいたので、作ろうかなと。すごくいいインスピレーションをいただきました」

冗談ではなさそうな本気で興奮している口ぶりである。出雲さんは、今回のICCサミットでこの他にどんなセッションを見ていたのだろうか。

「京セラのコーポレート・ベンチャリングで登壇した、ウイルス感染症を病院に行かなくても検査できるものを開発している佐藤さん、プレゼンを見ていて面白くて、早速アポを取ってしまいました。ウイルスの量を測定する仕組みが独特で、素晴らしい技術だったので教えてほしいと思っています」

一見まったくの別分野に見えるアートとサイエンスが、出雲さんの中では同じく「面白いもの」として共存していた。”ミドリムシの人”出雲さんが、これだけ自由にさまざまなものを吸収していることに驚くが、そんな人たちが集まる場であるICCサミットのプログラムが、今後さらにバラエティに富んだものになっていくことは、必然ともいえるだろう。

◆  ◆  ◆

土佐さんは、主観で突き進み、意味づけなど創ったあとでいいと語った。Sound of Ikebanaは、最新のテクノロジーを駆使したからこそ見える世界で、それは目の前で起こる既存の現象だったにも関わらず、感情を揺り動かすような、新たな世界をもたらしている。

今回はその作品が生まれる舞台裏を見学し、目を奪われるアートの印象とはあまりに落差のある、納得する形が生まれるのを待つ地道な作業を垣間見た。産声という素材と液体が作り出す形は、まさに一期一会の自然の形。それにどんな意味を見出すか、どう転用するかは受け取る側次第だ。
この実演と、作品制作の舞台裏を見聞きすることによって、アーティストに共感した人も多いだろうし、作品に対して、自分ならいかなる価値を与えるかについて考えを巡らせた人も多いのではないだろうか。ICCサミットのディスカッションとはまた違う、作品を見ながら自分の内側に目を向けるような機会となった、貴重なツアーだったのではないかと思う。

最後にツアーにご協力いただいた土佐尚子さん、及びご協力いただいた土佐研究室の皆さん、誠にありがとうございました。

(続)

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編集チーム:小林 雅/浅郷 浩子/塩田 小優希/北原 透子/戸田 秀成

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