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コーポレート・ベンチャリングでいかなる事業が進んでいるのか? プレゼン&ラウンド・テーブルで学ぶ京セラの取り組み【ICC KYOTO 2020レポート】

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8月31日~9月3日の4日間にわたって開催されたICCサミット KYOTO 2020。その開催レポートを連続シリーズでお届けします。今回は、DAY1の9月1日、京セラのベンチャー・新規事業のプレゼンテーションとラウンドテーブルを行なった「コーポレート・ベンチャリングを目指す京セラの取組みを徹底議論!」の模様をお伝えします。ぜひご覧ください。

ICCサミットは「ともに学び、ともに産業を創る。」ための場です。毎回250名以上が登壇し、総勢900名以上が参加する。そして参加者同士が朝から晩まで真剣に議論し、学び合うエクストリーム・カンファレンスです。 次回ICCサミット FUKUOKA 2021は、2021年2月15日〜2月18日 福岡市での開催を予定しております。参加登録は公式ページをご覧ください。


京セラのコーポレート・ベンチャリングの取り組み

このセッション「コーポレート・ベンチャリングを目指す京セラの取組みを徹底議論!」は、初の試み。カタパルトのように事業を数分間で伝える手法を活用して、京セラの4つの社内外新規事業をICCサミットに集まった方々へプレゼンしてもらい、その後はラウンドテーブルという流れだ。

社内で新規事業を生み出そうとするのは珍しくないが、それを多くの社外の方々に見てもらい、意見を聞くというのは、滅多にある機会ではない。しかもICCサミットに集まるのは、トップリーダーともいえる経営者たちで、そういった方々の意見と意見交換できる場を設けるのはさらに珍しい。

今回、壇上でプレゼンをしたのは、社外の会社ながら京セラとタッグを組むAuB株式会社の鈴木 啓太さんと田中 智久さん、京セラの社内スタートアッププログラム出身の稲垣 智裕さん、谷 美那子さん、佐藤 昌紀さん。ICC小林が今回の企画について、こう説明した。

「オープン・イノベーションと昨今いわれていますが、今回は京セラのスポンサードセッションです。社会の力と社内ベンチャーを起ち上げていくなかでやっている4組が集まっていて、プレゼンをカタパルトのように行います。カタパルト同様に練習してきています。

テーマが健康や医療系が多いため、近い業界の方々にお集まりいただきました。プレゼンのあとのラウンドテーブルでは、事業について深く知りたいというのはもちろんですが、この分野に興味のある人がどういうふうに考えているのかという、意見交換の場になればと思っています」

4組のプレゼンのトップバッターは、ベンチャーながら京セラと組んで、事業開発や研究を進めているAuB株式会社だ。

①アスリートの腸内環境を健康作りに活かすAuB

元プロサッカー選手の代表取締役、鈴木 啓太さんが事業が生まれた背景と解決できる課題を訴え、COOの田中 智久さんが事業モデルを紹介するというリレー形式のプレゼン。鈴木さんは、最高のパフォーマンスを出すアスリートの腸内環境に着目し、それがビジネスアスリートにも応用できると訴え、田中さんはその5年間の研究による、フードテック事業とヘルスケア事業について紹介した。

事業については、トップアスリート500名超の研究から、特徴的な腸内環境菌パターンを発見して商品化したサプリAuB BASEなど、現在アップデート中という腸内フローラの検査を用いたコンディショニングサービスや、プロ選手やチームへのサポートを現在提供している。

京セラとの共同実証事業を始めた理由は、サービスをさらに一般の人たちへ提供するため。京セラはセンシングや研究開発の技術を持ち、社員の健康を目指す健康経営を目指しており、グループの中には、プロサッカーチームの京都サンガを有している。特にユースはJリーグで2019年に最優秀育成チームを受賞したように、さまざまな取り組みをしている。

2019Jリーグ「最優秀育成クラブ賞」受賞のお知らせ(京都サンガFC)

現在着手しているのは、京セラ社内の有志50名による、腸を軸とした健康指標改善のコンディショニングサポート。腸内環境を臭気でセンシングするデバイスの開発も行なっており、「テクノロジー×健康×サポート」の事業を加速させている。

②子どもが喜んで歯磨きをする歯ブラシPossi

京セラの稲垣 智裕さんは、家族のペインから新商品を開発した。それは子どもの「歯磨き問題」。歯磨きを嫌がる次女のために、歯に歯ブラシを当てると音楽が流れる歯ブラシ「Possi」を開発した。音楽は子どもの好きな曲で設定可能だ。

ブラシを歯に当てると音楽が聴こえる仕上げ磨き専用ハブラシ「Possi(ポッシ)」(KYOCERA)

プレゼンで紹介された動画では、歯磨きが嫌で泣き叫び逃げ回っていたのが、Possiでは大喜びで歯磨きをするようになった様子を紹介。会場の笑みを誘っていた。

Possiはすでにクラウドファンディングで2,000万円を集めており、子育て中の家庭や保育士、歯科医から熱い声援が寄せられている。歯ブラシは京セラのセラミック技術と、ライオンのオーラルケア製品のノウハウ、ソニーのスタートアップ事業化ノウハウを合わせて商品化、現在ECサイトを準備中だ。

③アレルギー対応のミールキットを開発

京セラ谷 美那子さんは、食物アレルギーの家族がいる家庭は13.9%という事実に着目。場合によっては命にかかわる事態になるため、実際に親が「修学旅行でお子さんに出す料理がないため、参加するか、しないか」と聞かれるケースもあるのだという。

食物アレルギー実態調査(ハウス食品グループ)

自身も複数のアレルゲンを避けて食事をする生活を送り、食べられないことよりも、旅行に参加できない、外食できないなど、さまざまな機会に参加できないことによる疎外感を解決したいと考えたのが、アレルギー対応食のミールキット事業着想のきっかけとなった。

外食における食物アレルギー対応に知見のあるNPO、イタリア料理店のオーナーシェフ、アレルギー対応の製菓店とタッグを組んだバースデーオーダーの無料試食会は大好評で、SNSのモニター募集にすぐ応募が集まるほど。小麦アレルギーの家族はコース料理を食べて気に入り、その日に米粉パスタを購入して帰ったという。

ニッチと思われがちな市場でも、アレルギーを持つ者としては1日3回直面する問題。この事業は京セラの既存事業や技術とは全く関係はないが、どうしても解決したい問題として訴え、事業化の検討を進めているという。

④感染症診断の矛盾を新しい手法で解決

京セラ佐藤 昌紀さんは、インフルエンザなど感染症のリスクが高い病気の診断をするのに、なぜ病院に患者が密集しないと診断できないのかと疑問を抱いた。現在の状況下で病院通いや検診を控える人が多いのも、感染する恐れを心配するからだ。

診断には医療行為である鼻の奥から検体を採る行為と、それを診断する高額な機器が必要だ。佐藤さんはその2つが不要で、唾液採取でどこでも誰でもすぐに検査結果がわかる、感染症検査デバイスの事業化を目指す。

手順は簡単で、唾液サンプルをカートリッジに入れて振り、スマホとペアリングした小型デバイスにカートリッジを挿せば、10分で検査結果がメールで送られる。

検出法は2019年に東大で開発されたデジタルインフルエンザ検出法を用いるが、それは現行の検査法よりも精度が高い。安価、迅速で大幅な小型化も期待でき、さらに2回目の検査では感染からどのくらい経っているかや回復までのシュミレーションも示すことができるという。

超高感度ウイルス検出法が拓く痛くないインフルエンザ診断~ウイルス1個を検出するデジタルアッセイ~(JST)

唾液を使った検査自体は医療行為でないため、どこでも使うことができ、子どもも嫌がらないため小児科や、薬局、学校、介護施設でも容易な検査が可能となり、オンラインや遠隔医療で繋いで自宅などでの診断ができれば分散医療が可能になることが大きなメリットだ。

カートリッジの開発はインフルエンザウイルスのほか、新型コロナウイルス検査を開発中。アデノウイルス、溶連菌なども視野に入れている。

4組に分かれてディスカッション

プレゼンの時間が押してしまい、ラウンドテーブルの時間が少なくなってしまったが、続いてはラウンド・テーブル。4組のプレゼンターごとに分かれてディスカッションとなった。

手短に自己紹介を済ませて、早速議論に入っているAuBグループ

子どもが喜ぶ歯ブラシPossiのグループは、パナソニック深田 昌則さんが身を乗り出して耳を傾ける場面も

アレルギー対応のミールキットのグループ。オペレーションやターゲットについて鋭い質問が飛んでいる

感染症診断デバイスのグループ。ユーグレナ出雲さんは「これはすごいね」と感嘆している

通常のラウンドテーブルならば、各グループからディスカッションの内容を発表して終了するが、今回はディスカッションの時間が少なくなるためなしとなった。セッションの終了時間が過ぎても話は続いていた。

京セラの3人は、昨年のICC特別企画に参加していた

ICC小林とともに今回のセッションを企画した京セラの稲垣 正祥さんに、今回の感想をうかがった。

「素晴らしい方々にご参加いただき、登壇したメンバーもすごく刺激になったと思います。じつは、今回登壇した京セラの3人は、ICCサミット KYOTO 2019の特別企画で、皆さんとのコンパに参加していた社員なんですよ」

【京セラ×ICC特別企画】スタートアップの原点がここに。京セラフィロソフィを学び、伝統のコンパを体験!【ICC KYOTO 2019レポート#13】

社内でスタートアッププログラムを開催していると聞いていたが、それに参加していた方々が昨年、ICCサミットの登壇者と「京セラ流コンパ」をしていたのである。

2019年の特別企画「京セラ流コンパ」の模様。一つの鍋を囲んで丁々発止の議論を展開した

取材で見学した限りでは、参加させていただいたICCサミット側のほうが得るものが多かったように感じたが、今回登壇された方々にとってもこの機会が刺激になり、それぞれの事業の推進に少しでもつながっていれば幸いである。

プレゼン練習で事業に自信がもてた(谷さん)

登壇とラウンドテーブルを終えた人たちにも感想を聞いてみよう。

事業にかける熱い思いが伝わってきた谷美那子さん。

谷さん「すごく緊張して、準備のときはここに立つところまでこれるかとういう感じだったんですが、自分の想いを伝えられて、ラウンドテーブルでもコメントうかがえて、とてもいい機会でした。

ICC小林さんに何度か壁打ちをしてもらいました。自分自身も始めたばかりでまだ検証できていなくて、自信がなかったのですが、そこに関しても検証したほうがいいんじゃないかというコメントをもらいました。実際に試食会をしてみると思った以上のフィードバックがもらえて、自信をもってプレゼンできました。

自分の中で、この事業をどこから始めて、どう進めたらビジネスになるのかといろいろ考えているところでした。ラウンドテーブルでご一緒した方々は、同じ疑問があって見てくださっていたので、ちゃんと打ち返せるように、自分ももっと考え方を深めて、進めていけたらなと思います」

興奮冷めやらぬ面持ちで、そう話してくれた。

ヘルスケアに貢献して、アスリートの社会的価値を上げたい(鈴木さん)

AuBの鈴木啓太さんはご存知、浦和レッズで日本代表だった元サッカー選手。さすがに大人気で、いろんな人たちに囲まれている。

選手を引退するときに「サッカー界に恩返しをする方法は、大きく分ければ文化とエンターテイメントとの2つ」と語っていた鈴木さんは、現役時代はボランチでチームの頭脳役として活躍し、今はスポーツ界をにフィールドを変え、相変わらず熱く戦っている。

“腸つながり”でメタジェンの福田 真嗣さんと話す鈴木さん

鈴木さん「今日は非常に楽しかったです。いろんな方に聞いてもらったり知ってもらったりするのが今の価値だと思っているので、貴重な機会だと思いました。議論する時間が少し短かったのですが、福田先生とお話しできて、これから一緒に、何かを研究するとことにつながっていけば嬉しいです。

腸内環境と肌や、筋肉との関係も大事だと思っていて、そういったことも含めて、我々アスリートの研究を進めていきながら、アスリートがエンターテインメントとしての価値だけではなく、一般の人たちのヘルスケアに貢献できれば、もっとスポーツ界、アスリートの社会的価値が上がるんじゃないかと思っています。

現役生活が終わったあと、出場している選手は目立っていいのですが、していない選手もそれまで積み上げてきたデータがあります。サッカー界、ラグビー界、スポーツ選手全体としてどうなのかなど、社会に還元できたら大きな価値になるのではないかと思います。

そういったデータをインストラクターは持っていたけれど、今まではそれをクローズドにしていました。自分の結果を出すために、むしろ人に教えたくなくて、出していなかったのです。

でもこれからは、アスリートの世界だけでなく、自分たちの培ってきたたものをいろんな人に役立てることができれば、それがスポーツ産業の発展につながるし、医療に貢献する。そうしてつながることで、さらにアスリートを観に来るために、スタジアムに足を運んでくれるようになります。

現役時代に『スタジアムに足を運ばなくなった』とサポーターの人に言われたことがありました。Jリーグを40歳のころから観るようになって、もう60歳。観に来るのはもう疲れると言うのです。そこで、アスリートの疲れにくくて、疲労回復を促進するようなデータやプロダクトを提供できたら、いつまでも来てくれるんじゃないかと思ったんです。

そこで、スポーツはエンターテイメントだけど観に来るだけではなく、応援するだけではなくて、健康になってもらって帰るみたいな、スマートシティのヘルスケア版みたいなことができると素晴らしいなと思ったのです。

なぜこんなところに僕がいると言われるかもしれませんが、見つけちゃったんです。そう思っちゃったからしょうがない。

浦和レッズというチームの名前は、人口の何割かが知っているくらい、かなりの知名度があるはずなんです。なのに、現役のときに疑問に思ったのは、それで年間の収益は80億円。中小企業の規模だと思ったんです。1000人くらいしか知らない企業であっても、80億ぐらい稼いでいるところはあるはずです。

こんなに価値のあるもの、熱狂できるものなのに、なぜそれしか稼げないんだろうかと思いました。スポーツ産業って何なんだろうと思ったんです。無名の人でも、僕の先輩で1つ2つ上の人がそのぐらい稼いでいました。僕ら選手はちやほやされたりするときもあるのに、なんで?と思ったんです。

人生をかけて、スポーツ選手が20年、30年近くやっていることなのです。でもそれが終わると、食い扶持がない。サッカーしかやっていない、野球しかやってこなかった、そういう世界なんですよ。それっておかしいのではないか。

それを全うしたならば、現役後も生きていけるだけのものを、現役時代に稼げるようにしたい。それができばスポーツ産業はもっと発展させられる。スポーツで熱狂してもらうのですが、それをただエンターテイメントだけでなくてやるようにしたい。

早く監督とかをやれといわれるのですが(笑)、監督で変えられることもあるけれども、もっと環境を変えてあげることで変えられることもある、貢献できることがあると思うんです」

お忙しそうに見えたため、一言コメントをいただくつもりだったのに、鈴木さんの熱さに、思わぬミニインタビューとなった。

◆  ◆  ◆

事業の種はあらゆるところに眠っている。谷さんの毎食での不便や、鈴木さんのアスリート人生で気づいた価値の非対称性、稲垣さんの子育ての悩みや、佐藤さんの「それはおかしいのではないか?」という社会への気づき。それを事業として立ち上げるには、ゼロから起業だけではなく、社内新規事業や、技術提携など、今の時代はさまざまな選択肢がある。

地位を確立した大企業の京セラが、既存事業にとらわれずに、それを柔軟にアグレッシブに進めていることに驚くが、京セラフィロソフィを見てみると、「人間として正しいことは何なのか」が大前提の判断基準であることに気づく。極めて経営の哲学に忠実であるだけなのである。

(続)

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編集チーム:小林 雅/浅郷 浩子/塩田 小優希/戸田 秀成

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