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「心優しい愚直な人」を社会の力に! ボーダレス・ジャパンが年間100社を作ろうとする理由

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ICCサミット KYOTO 2019のセッション「起業家よ、大志を抱け! 社会課題を解決するビジネスを創るための『志』とは?」「ソーシャルビジネスが世界を変える!」に登壇いただいたボーダレス・ジャパンの田口 一成さん。現在、世界9ヵ国に11拠点、日本国内外に32社を抱えていますが、田口さんが拠点とする福岡のオフィスを訪問し、事業を創る仕組みや、楽天の売上げランキング上位を独占する事業などについて、お話を伺いました。ぜひご覧ください!

ICCサミットは「ともに学び、ともに産業を創る。」ための場です。毎回200名以上が登壇し、総勢900名以上が参加する。そして参加者同士が朝から晩まで真剣に議論し、学び合うエクストリーム・カンファレンスです。 次回ICCサミット FUKUOKA 2020は、2020年2月17日〜20日 福岡市での開催を予定しております。参加登録などは公式ページをご覧ください


次回ICCサミットの下見のために、福岡を訪れていたICC一行は、10月10日、福岡市内にある、ボーダレス・ジャパンのオフィスを訪問しました。目の前に配送業者の拠点があり、住宅地からは少し離れた静かなロケーション。静かな佇まいのオフィスが入る建物に、社会課題を解決しようとする20代〜30代の若者が大勢集まっていることは想像できません。

田口さんとのアポは午前9時。ボーダレス・ジャパンの始業時間の全員でラジオ体操(第一)を行うタイミングだったため、私たちも合流させていただきました。耳慣れたイントロが流れ、皆が体操を始めると、オフィスが体育館のように見えます。

このオフィスには現在、4〜5社が入っているといいます。ラジオ体操が終わると、壁のないフロアのあちこちに、それぞれグループが固まってミーティングを始めました。

ボーダレス・ジャパンには「ソーシャルビジネスで世界を変える」ことをテーマにした子会社が現在32社。売上はトータル50億、各社から集まった社長会が最上位の意思決定機関で、社長同士が4人組を組んでいるという独特な経営スタイルから、お話が始まりました。

32社が恩を送り合う、独自のエコシステムとは

田口さん「32社は、株式としてはボーダレス・ジャパンの100パーセント子会社です。言わばホールディングス会社のようなものですが、便宜上そうしているという感じで、いわゆる株主総会が株式会社の最上位にあるように、僕らは、社長会の集まりが最上位の意思決定機関になっています。

僕も議案を出したりしますが、32社の社長が1人でも反対したらダメという決まりです。僕が勝手に決めることはありません。

毎月1〜2社の子会社が新しく誕生しますが、それも32社の社長会に向けてプレゼンをして、全員がOKを出したらジョインが決まります。

仲間に迎えるときは、事業を立ち上げるときにお金がないとか、ノウハウやマーケティング力がないなどの問題があるので、ボーダレス・ジャパンからすべての初期投資と成長投資を出します。

マーケティングの専門家である”バディ”もつけますが、”バディ”の人件費、システム開発費、アプリ開発費なども含まれます。

黒字に転換するまで、バディが伴走し、とにかくサポートします。

2ヵ月連続で単月をクリアしたら、一応一人前とみなして、今度は社長会チームに入ります。

その中で、社長同士で4人組が組まれており、それで経営会議体を行います」

その4人組は、異なる分野、違うステージの社長が集まるような編成からなり、運命共同体的に月1回の経営会議を行い、各々の経営課題を発表して他の3人がともに解決を試みます。

田口さん「余剰利益の出た会社は、ボーダレス・ジャパンにお金を送る側になります。

そのお金を使ってまた新しい会社を立てます。

最初にお金、恩を受けて立ち上がるのですが、自分が成功したとなったら、今度は恩を送りたくなります。恩送りのエコシステムです」

恩を送られている赤字の会社の社長でも等しく合議の決議権はあるため、「早く成長しないと、こんなことを言えている立場ではない」と思い、それがいい刺激になるのだそうです。

売上額より会社の数を指標にする理由

広々としたオフィスはフリーアドレス。複数の会社が集まっている

ボーダレス・ジャパンの年商は約50億円。「もっと伸ばせるけれども、売上の額より会社の数を指標にしている」といいます。

田口さん「事業の伸び方は経営者の力量によって全然変わってきます。

伸ばすだけなら、僕がある程度ついたほうがよほど早いですが、各社長に任せています。

それよりも、僕らがやっているのは『社会ソリューション』としてのビジネス、『ソーシャルビジネス』で、色々な社会実験だと思っています。実験の数をとにかく多く行うという意味で、年間100社をどう作れるか、その体制を作るというのが僕の役割分担です」

その実験の成果である32社は、子会社であり、助け合いの形をとってはいますが、それぞれ独自の収益性や社風、エコシステムをもった事業体。利益はケジメであり、その最大化を追求するものではなく、目指すものは社会ソリューションの磨き上げです。

田口さん「もちろん社会のためにやっているソリューションなので、全世界に広げたい。

とは言え、こういうことをやりたがる人は、ビジネスセンスに優れたすごいヤツではないんです。

心優しい愚直な人なんです。

その人が日本全国に支社を持ったり、世界中に支社を持ってやっていくやり方は必ずしも合わない。

でもそれだともったいないので、こういうグループ内に集まっている人を通して広げていくという感じです。

スーパーマンたちは結構自分でできますが、そうじゃない大多数の人たちが「自分でやれ」と言われたら、スキル的にも性格的にも苦しくなるのが実態です。

僕は、それをどう社会の力にできるかという仕組みをつくりたいと思っています。

先日、ICCサミットに参加したときは優秀な人たちがいてすごいなと思ったし、事業構想力が素晴らしいと思いました。自立できる人間たちが自立した形でやっていく、Co-Creation の世界だと思いました。

でも社会は、そういう人たちばかりじゃない。

適者生存のメカニズムでは生き残れないけど、めちゃくちゃいい志を持った人がいっぱいいて、彼らをそのまま放置せず、拾う側の仕組みが社会には必要で、それをつくることが僕の役割分担だと思っています。

だから、そちら側のための仕組みをつくっています。

自立はしたいけれども孤立したいわけじゃない、どこかで助け合いたい、相互扶助的なコミュニティを求めている。そういう感覚を持っている人たちがほとんどですよね。

その大衆の力をどう社会の力にできるということでやっているので、僕は『1社1社の規模は10億円ぐらいでいい』と言っています。

1億くらいなら商売としてもすぐ作れるので、1社10億ぐらいをまずは1,000社ぐらいで、それで1兆円というのが僕の考えです。

1兆円ぐらいにならないと、『いいことやってる、何かいい集団』程度にしか思われないので、そのくらいの規模感を総和として出していこうと思っています」

社会起業家の養成スクール「ボーダレスアカデミー」

ボーダレス・ジャパンには起業家を育てる仕組みがいくつかあります。

グループ会社へ出向して、起業を実地で学ぶ「起業家採用」のシステム、そしてボーダレスアカデミーの取り組み。毎週のように直接持ち込まれる起業プランを吟味していたものの、選ばれるものが少なく、「育てないといけない」と思い当たったことが誕生のきっかけです。

アカデミーでは、起業したいけれど、どうすればいいのかわからないという人たちに、ビジネスプランの作り方を教えています。

ボーダレスアカデミーのホームページ

田口さん「アカデミーは、吉本興業のNSC(ニュースタークリエーション)をイメージしています。

30年ぐらい前は芸人と言ったら、ウッチャンナンチャン、ダウンタウン、とんねるず、いわゆる大御所しかいませんでしたが、今はテレビをつけたらニュース番組の司会を芸人がしているぐらい、芸人さんが出ています。この30年の変化はすごいです。

なぜこういうふうに変わったのかと考えると、吉本興業のNSCという芸人養成所ができたからでは?と思いました。大阪、東京、福岡、名古屋、仙台、広島、沖縄にあり、養成所の入学合格率は99.9パーセント、名前を書いたら、だいたい通る(笑)。

昔は芸人になりたいと思ったら、「弟子入りさせてください」と、師匠と決めた人の自宅の門を叩いていました。

今は芸人になりたいと思ったら、NSCに入学して1年間芸を磨いて、これならいけるという手応えがあったり、相方を見つけられたらやればいいし、そうでなければ別の道に進めばいい。

この安心のステップは大きくて、これを社会起業の分野でもつくりたいと思いました。

『社会のために何かしたい』と思っていてもビジネスのやり方や、ビジネスモデルの描き方が分からない人は多い。僕らが30社つくってきたノウハウ、ボーダレス独自のプランニングメソッドがあるので、それを伝えて、社会起業家の養成所、スクールをつくりたいと思いました。

ボーダレスアカデミーに入って学び、いいプランが出来上がったら起業して、そうでなかったら普通に就職すればいい。ちょうど1年ぐらい前に始まって、4ヵ月間のプログラムですが、半年ごとに開講しています。

まだ東京と福岡にしかありませんが、通えない人のために、オンラインコースも用意しています。僕と副社長の鈴木(雅剛氏)が一人一人面接をして、本気でやる人以外はお断りしています。

費用は25万円(オンラインコースは15万円)ですが、卒業後、半年以内に起業したら全額返金しています。全国につくっていきたいです。

卒業生のコミュニティがとても大切です。先ほども言ったように、起業家は「自立したいが、孤立したいわけではない」。社会のために事業をつくる、という同じ志の仲間同士が切磋琢磨しあっています。

そういった相互扶助コミュニティを各地域につくっていくことで、ボトムアップ型というか、Power to the peopleではありませんが、大衆の力が社会の力になることが必要かなと思っています。

僕は、そういう人を相手にして、支援する側の社会的役割分担を、果たしたいと思っています」

ボーダレス流、ビジネスモデルの考え方

アカデミーでは、具体的にどんなことを教えているのでしょうか。まずはビジネスモデルの根本となる目的『社会をどう変えるか」を、課題に沿って考えることから始めます。

AMOMA社の事業紹介ページ

田口さん「社会の現状、つまり『誰』の『どんな状態』を『どういうふうに』変えるのか、社会を変えるソリューションを、こういうソリューションでやりますというソーシャルコンセプトを固めます。次に、その「どういうふうに」を具体的にビジネスモデルに落とし込んでいく、という順番で考えていきます」

ご紹介いただいたのは、アカデミーで教材として使っているミャンマーのリンレイ村でオーガニックハーブを作るAMOMA社の事例です。僻地にあって流通が悪く、かつては農薬や化学肥料漬けで持続性がなく、価格変動に振り回される、葉巻きタバコの葉を作る小規模農家集団の村でした。

田口さん「まず、彼らがなぜ貧しいのかという状況分析をします。

市況によって大きく変化する市場取引、価格変動するマーケット・プライス、マーケットの原理で買取価格が決まるというところに依存しているので、収入が不安定で結局借金から抜け出せないという小規模農家です。

大規模農家であれば、価格変動があっても土地が広いので耐えられますが、小規模農家で価格変動をくらってしまうと、もし冠婚葬祭や病気が重なったりしたら、借金せざるを得ません。

農薬や肥料を買うのも、買取をしてもらうのも仲買人ですが、何かあって困ったというときも仲買人から借金をします。

これが月に10パーセント近い利子もあり、雪だるま式に借金が増えていきます。なぜ貧しいかというと、ちょっとしたきっかけで借金したことで、それが永遠に膨らんでいくからです。仲買人が全部牛耳っている構造です。

貧しい人をどうにかしようと、課題に対して対策を打ってしまいがちですが、課題の裏には原因があり、原因に対して対策を打たないと、絶対解決にはなりません。ただ『貧しいからフェアトレードします』というのは、原因が全然見えていないのです。

僕らは原因をとにかく徹底して探っていくという作業をします。

そしてどういう社会になるために事業をこれから進めていくのか、理想の形は何かを考えます。

現地に行くと分かるのですが、家族全員で暮らせない状態が一番つらくて、16歳の息子がタイに出稼ぎにいったまま連絡が取れないといったことが日常茶飯事なのです。

例えば『農家がつくった作物が安定的に適切な価格で販売することができるので、みんなが安心して農業を営んで、家族全員で暮らせる状態』が理想の形です。

貧しさゆえに家族が離散しないといけないという、これを何とかしようといことを最終理想の形にしました」

収穫祭で『2番目の神様』と言われる

田口さん「課題解決には色々なHowがあると思いますが、僕らがこの原因に対して考えて出したHowは、企業と農家が顔の見える関係で直接取引をするという、コミュニティ・トレード(コミュニティ同士のトレード)です。

農家の生産コストや生活費をもとにした買取価格、僕らはファーマーズ・プライスと呼んでいますが、それを実現するためには顔の見える関係ならできる。そんなコミュニティ・トレードをやろうというのが、僕らがつくろうとしている社会ソリューション、ソーシャルコンセプトです。

次の段階ではそのソーシャルコンセプトのHowを、ビジネスコンセプトに落としていきます。そのときに、僕らは必ず制約条件をつくるようにしています。

リンレイ村は260世帯ありますが、30世帯と取引をしても、30世帯だけ豊かになると村八分にされて終ってしまいます。

先ほどの例で言えば、コミュニティ・トレード、ファーマーズ・プライスと言っているけれども、制約条件は『無農薬栽培できること、できるだけ栽培コストはかからない作物』『高付加価値商品であること』『260世帯全員と全量買い取りができるマーケットサイズ』ということにしました」

そこで出たビジネスコンセプトは、付加価値の高いオーガニックハーブを育てて商品化しようというもの。ハーブは強くて、タバコの葉のような農薬は不要。作ったものは良い価格で全量買取保証、土壌にも人にも優しく、持続可能な農業の形です。

田口さん「現地に行ったら、農家さんから『ボーダレスは2番目の神様です』と言われました(笑)。仏教徒なので、仏様が一番、『2番目がボーダレスです』と(笑)。

毎年2月の収穫祭に呼ばれて行きますが、村の全員、隣村からも来て全員でお祝いをします」

授乳期のお母さんに大ヒットのハーブティー

リンレイ村の人達にとっての”救いの神”は、授乳期のお母さんたちにとっても”救いの神”になっています。

田口さん「作ったオーガニックハーブを加工して販売をしています。売上8億円ぐらいの事業ですが、授乳期のお母さん向けハーブティーが売れ筋で、楽天市場で「ハーブティー」で検索すると、僕らの商品がランキングで1位から独占している感じです。

▶参照:【楽天市場】ハーブティー | 人気ランキング1位~(売れ筋商品)

年間40〜50トン程度生産していて、全国の産婦人科病院の20パーセントぐらいで、退院のときにも配られています」

▶参照:AMOMA natural care

母乳不足や、母乳が詰まってしまうお母さんなど、授乳期トラブルを改善するハーブティーが大好評だそうです。

田口さん「ヨーロッパではハーブは日本でいうところの漢方で、メディカルハーブと呼ばれ昔から伝統的に活用されてきました。

母乳マッサージは効果はあるけれども痛いし、1回5,000円ほどかかる。2週間ぐらいでまた繰り返すことがあるので、セルフケアをするニーズが出てきます。

日本人はあまりハーブティーを飲む習慣がありませんが、いろいろヒアリングをしていたら、僕のある友人から『ハーブティーを飲んでいる』と聞きました。

彼女は妊娠中にカフェインを摂れなくなるので、お茶を飲めなくなり、妊娠したらむくみや便秘がひどくなって、自分でメディカルハーブを勉強したということでした。

妊娠中から出産後にかけてはホルモンの変化で体調不良が起こるし、母乳不足も起こります。

一番強いニーズは、母乳不足に対するニーズでした。

子どもが生きていくためにお母さんの母乳を吸っているので、粉ミルクで十分なのですが、お母さんの気持ちとしてはやはり母乳をあげたい、それが出ないことの劣等感がすごく大きくて、何とかしたいという想いがあります。

けれども、この薬を飲めば母乳が出ますというものは当然なくて、そこで自己嫌悪に陥ってという課題の深さがありました。

それを見て、何かハーブでできないかと思い調べたら、伝統医療として産前産後にハーブはとてもよく使われているのが分かりました」

ハーブティーといっても、効果を田口さん自ら確認もできないことや、売るからには質を担保したかったため、ハーブに造詣の深い日本人の助産師と、英国メディカルハーバリストの資格を取得した専門家を迎えて、商品開発に取り組んだそうです。

田口さん「半年間一緒にずっとハーブのブレンド、開発をやって、毎回メディカルハーバリストをイギリスから日本に呼び、新宿で毎回30人ぐらいのお母さんを集めました。

日本の水で淹れてテストしないと意味がないので、半年間ずっとテストを繰り返しました。

母乳に悩むママに大人気の「Milk Up Blend」のハーブティー

1ヵ月間数十人のモニターテストを行い、9割以上の方の母乳がすぐ出るようになりました。圧倒的な商品が出来上がったので、販売しました。

最初は広がらなかったので、1軒1軒産婦人科病院を回って、院長先生にメカニズムを説明して、とにかく飲ませてみてくれとお話しして、看護師さんたちを集めてもらい、僕がハーブの説明をしました。

1つずつ置いて回って、そこから口コミが広がっていき、今では年間約13万人のお母さんがこのハーブティーを愛飲してくれています」

物流の悪い産地の小規模農家でファーマーズ・プライスを実現しようとすると、それだけの価値がある商品を開発することが必要でした。それが結果的に、農家と購入者にとって大きな価値を生み出しています。

現在リンレイ村の260世帯のうち、160世帯分の買取りができているものの、あと100世帯分を買い取りたいと考えており、約5年前から韓国、今年から中国での取り扱いも始めたそうです。

バングラデシュで雇用を作る

32社のうちの1つ、BLJ Bangladesh Corporationは、バングラデシュの革工場で、働けない人たちの雇用をつくることを目的としています。昨年は革業界では国内2位の輸出企業(靴をのぞく革製品)となり、バングラデシュの経済にも大きく貢献する事業に成長しています。

雇用対象者は障害のある人、シングルマザー、老人、貧しい地方からの出稼ぎ労働者といった層。よりいい職場を求めてくるような人は断って、本当に生活が苦しい人だけを面接して雇用し、現在は約800名が働いています。託児所を作らないと働けなかったり、障害のある人にはミシンも調整しているそうです。

トラブルは内外で日常茶飯事といい、病気の手術など個人では賄えない治療費など大金が必要になったときは、ボーダレスのファミリーバンクが救済もしています。

手厚い生活支援から自活へつながる仕組みは口コミで広がり、工場で働きたいという人は後を立たないそうですが、同時にそれに難癖をつける既得権益者もでてきます。

田口さん「『お前らだけ、いいことをするな』という話が出てきます。だからヤクザも普通に来るんです。脅されたり、工場も裏からの理不尽な形で立ち退き要求が出て、値段をつり上げられたりとか色々あります。

自分たちで所有しないとそうなるので、自社で土地を購入したり、借りる場合も日本の不動産投資家とネットワークを組みながらやっています。

今は革工場の横に靴の工場を建てていて、同じ投資家に土地を購入してもらっています。

そうして、少しずつヤクザなどを跳ね除けていくというか、入って来られないようにしています。

業界の大御所たちも、一気に僕らが成長していくのが面白くないみたいで、革の調達などにも苦労した時期もありました。

革工場の革なめしは免許の関係で僕らはできないので、免許を持っているところ小規模工場の資金や技術提供しながらパートナーシップを築いていっています」

正しいことで実績を積めば、受け入れてもらえる

同業者からも最初は疎まれたといいます。

田口さん「最初に業界のドンに挨拶に行き、『バングラデシュのためにやりたいから、技術を教えてくれ』といった色々な話をしてきました。

最初は全然相手にされなくて、『バングラデシュのためと言っているけれど、“君ら”のために協力してやっていいよ』みたいなことを言われてしまって、『こいつとは友達になれないな』と思いましたが、やっているうちに2年ぐらいで、僕らが追い抜いてしまいました。

僕らはビジネスのプロなので圧倒的に成果を出します。そうするとドンからやっかみが入ります。

『あいつら、俺らの知らないうちに急激に上がっていっちゃって』となって。

でも僕らのやっていることはいいことなので、今、現地のボーダレスの社長は一目置かれていて、この業界を良くしていこうとみんなで勉強会をやったりしています。

バングラデシュはみんな大学まで行くのですが、大学に行っても、ホワイトカラーで就業できる人が10〜20パーセントです。

ほとんどの職がブルーカラーしかないというのが一番の問題で、それが社会の不満分子に変っていきます。そんな卒業はしたけれど仕事がないと、たむろしている人が来られる学校をつくっています。

現在、革工場には優秀なマネージャーがいません。だからその学校で4カ月間修行して、色々な生産工場の生産マネージャーとして、就職していけるということをやろうとしています。

最初の頃は業界からはじかれたのですが、実績を積んで、今は結構中心に来ている感じです。

最初は大変だけれども、正しいことをやっていると、バングラデシュ人は悪い人たちではないし、どの世界でも既得権益を守ろうとする人たちが最初に立ち向かってくるものです。

非の打ち所がないようにちゃんとやっていれば、攻め疲れしてくるというか、業界大手の革の会社も、最終的には今うちと取引しています」

シェアハウスをなぜ作ったのか

どんな話からも感じたのは、田口さんが”圧倒的な正しさ”でもって、正面突破を図ろうとしていること。たとえばミャンマーの流通の話や、日本でのシェアハウスの事業もしかりです。

田口さん「ミャンマーでJAのようなことをやっていて、農薬や肥料、お金を貸すといったことを農家のためにしています。

様々なベンチャーが色々出て来て、『農家のために役に立ちます』と言っていますが、情報が全く入っていかないのです。

いいものがたくさんあるのに、農家は全然アクセスできる状態ではないので、各村にアグリセンターをつくっていこうとしています。

ここでも最初は、外国資本であるやりづらさはありましたが、結局最後は現地の人のために正直に真心込めてやっている事業は応援してもらえます。

ときに法律に苦しめられると時もありますが、『人間として間違っていることはやってはいけないけれども、人間として正しくて法律が間違っているものは、僕らが正しいということで突破しよう』と言っています」

途上国に社会のインフラ作りをする一方、先進国の日本でも、新たな時代を見据えた住まいの形を作ってもいます。今では誰でも知っている「シェアハウス」という言葉が一般的になったのは、田口さんたちの働きかけからです。

田口さん「シェアハウスの『ボーダレスハウス』も、僕らが始める前までは、シェアハウスという言葉は一般的ではありませんでした。ゲストハウスや外人ハウスと呼ばれていました。

始めたのがまさに13年ぐらい前で、法律上シェアハウスは共同住宅といわれるもので、行政からだめだと言われました。それをメディアと組んで、広げていきました。

しかし今はシェアハウスはどこにでもあり、普通に受け入れられています。

昔の大家族が住んだ5LDKはもう家族構成が変わって、3LDK以上はいらないという話になっています。

4LDKまでは価値がありますが、5LDK、6LDKは大きくても、むしろ借り手がつかない。

そういう所は空き家になっていって地域に良くありません。それをどうやって使うかというときに、シェアしながらでも住むというのは、逆に資産を活かせる形です。

若者も1人暮らしばかりする必要はない。ICCもそうですが皆でやるということ、昔は長屋で共同生活をしながら若者時代を過ごしたので、コミュニケーション能力が鍛えられたのだと思います。

これからグローバルな時代なので、色々な国の人たちが若い時代に一緒に暮らすということはすごく大切です。

地域の人たちも外国人と触れ合わないと、本当の多文化共生の社会が起こらない。だから、どこかに寮をつくるのではなく、地域の中に入っていくのが大切だと思っています」

倉庫スペースを見学

ひとつひとつの事業を聞いていきたいほど、それぞれのストーリーがありますが、せっかく訪問したので、社内もご案内いただくことにしました。記事中にも一部ご紹介していますが、さまざまな事業の商品が見られる倉庫なども見学させていただきました。

届いたばかりのハーブ。暗室で温度管理がされている

「妊活ブレンド」や卒乳用の「産後バランスブレンド」も人気があるそう

梱包にも「ボーダレスイズム」にある、エコファーストを徹底している

出産祝いに特化したSunday Morning Factoryの在庫スペース。夫の収入だけでは生活が困難なバングラデシュの女性を積極雇用しており、「家計を支えるために子供たちが働く環境」という社会問題の解決を試みています。

商品と同じ柄の箱で届くのが喜ばれているそう

ilo itooは、グァテマラのジェンダー差別や民族差別に苦しむマヤ系民族女性が、マヤ伝統工芸の付加価値を高めたモノづくりで自尊心を高めていくことがゴール。日本の百貨店やセレクトショップでも好評でなようです。

倉庫や梱包、配送スペースで働いているのは地元の女性中心。きちんと整理された商品棚は、関わる人たちのぬくもりが感じられるようでした。

◆ ◆ ◆

ICCサミット初参加の感想を尋ねると「大人の何祭というんでしょう? 大人があんなに熱くなる会って、運動会じゃないですけど……。面白いというか、熱いなと思って。青春ですよね。熱中、没頭ですよね。そういう機会はなかなかない」とおっしゃっていた田口さん。

1つの企業が新規事業として取り組むのではなく、社会問題を解決したい、という志を持った市民たちが起業家として、ノウハウと頼りになる仲間を武器に、解決に挑む。その大きな流れを創ろうとする田口さんも間違いなく、熱い大人の1人です。

田口さん、ボーダレス・ジャパンのみなさま、お時間をいただきましてありがとうございました! 以上、現場から浅郷がお送りしました。

(終)

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編集チーム:小林 雅/浅郷 浩子/戸田 秀成

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