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新たな資本主義「サステイナブル・キャピタリズム」を追求する異色のアーティスト“長坂 真護”の哲学とは?

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ユーグレナ永田さんから「面白い人がいるので、ぜひ会って欲しい」とご紹介を受け、私たちは35歳の気鋭のアーティスト、MAGO(マゴ)こと長坂真護さんの制作スタジオを訪ねました。スラム街の電子ゴミからアートを生み出すMAGOさん。彼がアートを通じて世界に伝えたい“持続可能な資本主義”とは? ぜひご覧ください!

ICCサミットは「ともに学び、ともに産業を創る。」ための場です。毎回200名以上が登壇し、総勢900名以上が参加する。そして参加者同士が朝から晩まで真剣に議論し、学び合うエクストリーム・カンファレンスです。 次回ICCサミット FUKUOKA 2020は、2020年2月17日〜20日 福岡市での開催を予定しております。参加登録などは公式ページをご覧ください


東京は日本橋室町。三越本店の向かいに位置するビルの地下に、彼の制作スタジオはありました。本日お伺いするのは、35歳の気鋭のアーティスト「MAGO(マゴ)」こと長坂真護さん。ユーグレナの永田さんから「面白い人がいるので、ぜひ会って欲しい」とご紹介を受け、私たちはMAGOさんのスタジオを訪問しました。

MAGOさんの活動拠点の一つは、ガーナ共和国。西アフリカに位置する、日本の60%ほどの国土をもつ国です。中央に黒い星をあしらった赤・黄・緑の国旗や、カカオの産地としてのイメージをお持ちの方が多いかと思います。

その首都アクラの中心近くのアグボグブロシーと呼ばれるスラム街が、MAGOさんのアートの源泉です。「世界最大の電子廃棄物の墓場」の別名を持つアグボグブロシーで、MAGOさんは不法投棄された電子ゴミからアート作品を生み出し、それを販売して得られた収益をスラム街で暮らす人々に還元する取り組みを行っています。

電子廃棄物を画材として作られた作品

『プラスチック化する青年』

彼が作る作品は、1点あたり1,000万円以上の値がつくこともあるとか。なぜ、日本の若きアーティストがガーナのスラム街からアートを生み出すのか? その理由を探るために、MAGOさんへのインタビューを行いました。

先進国の過剰消費が生む、ガーナのスラム街の姿

「MAGO STUDIO TOKYO」を訪問した私たちが最初に目にしたのは、段ボールに仕分けされた溢れんばかり電子ゴミの山でした。これらは全て、実際にガーナのスラム街から収集されたものだそうです。

収集された電子廃棄物

壊れた時計、電卓、電話、ビデオ機器から正体不明の電子基板……この「ゴミの山」こそが、MAGOさんのアートの素材です。中には、日本語が印字された電子ゴミもあるそうです。そもそもなぜ、ガーナのスラム街に世界中のゴミが不法投棄されているのでしょうか?

長坂 真護(以下、MAGO)さん 「廃材の中に、焼け焦げたゴミが見えますよね。スラム街の住人たちは、電子廃棄物を燃やして出るわずかな量の銅などのメタルを売って生計を立てています。そして彼らの多くは、野焼きで発生した毒ガスに冒され若くして死んでいきます。


長坂 真護
マゴクリエーション 代表取締役美術家 /
MAGO Art & Study Institute Founder

1984年生まれ。2017年にガーナのアグボグブロシー地区にあるスラム街に単身初渡航。世界中の電子機器のゴミが集まる最終墓場と称される地で、目の当たりにした惨状(深刻な電子機器のゴミ、環境悪化、健康被害、貧困)を何とかしたいと、立ち上がり、アート製作の傍ら、ガスマスクを400個現地へ運び配布。その後、自身で教師も雇いスラム街の子供たちが無償で通える小学校を設立。2019年9月18日同スラム街に電子廃棄物美術館を開館。2030年にはこの地にリサイクル工場を建て、ゴミを資源にし、新たな産業を生み出そうという試みをしている。この活動がハリウッドのドキュメンタリー映画監督Kip Konwiser氏(エミー賞受賞)の目に留まり、2019年夏に撮影開始、2020年公開予定。現在は、東京とLA、アグボグブロシーを拠点にグローバルに活動している。

廃棄されているゴミを燃やし、メタル等を収集する人々

ゴミは世界中から来ます。日本でもよく不要になった家電を回収している業者がいますが、彼らの一部はそれをコンテナに詰め込み、ガーナに送るという話を聞いたことがあります。24トンのコンテナを1つ送るのにかかるコストはたった20万円ほど。正当にリサイクル処理するよりも安く済むばかりか、ガーナではそれを買う業者が存在し、さらに低賃金で危険な作業を行う労働力があります。先進国と貧困国の輸送費・人件費の格差で、そんな不条理なことが起こっているんです」

聞くところによると、MAGOさんはこの夏も2ヵ月半にわたってガーナのスラム街に滞在していたのだそうです。直近の取り組みを伺いました。

「廃材アート」でスラム街に経済循環をもたらす

MAGOさん 「今トライしていることの一つは、現地の廃棄ペットボトルをみんなで拾い、裁断して日本に送り、チップに分解してTシャツに加工し、僕のアートをつけて先進国で売る、という取り組みです。今僕が着ているTシャツも、素材の半分は廃棄ペットボトルです。

さらに今回の滞在では、現地にミュージアムを建築してきました。人口3万人のスラム街で初となる文化施設です。そのアートを作るために何十人も人を雇い、計300〜400万円ほどを使いました。これは現地でいうと1億円くらいの経済効果です。

ガーナのスラム街に開設した「MAGO E-Waste Museum」

その前は、完全無料の学校も作りました。そうした施設を作るにしても電子廃棄物やペットボトルを回収するにしても、現地の人を雇用します。スラム街のゴミからアートを作り、それで得たお金をスラム街に還元する。だから僕らがしているのは、ゴミを減らし、経済性に貢献し、文化性も高め、そして世界中に環境問題のメッセージを伝える活動です。

これはCSR(Corporate Social Responsibility、企業の社会的責任)のような考え方ではなく、CSV(Creating Shared Value、共有価値の創造 )、つまり価値を共有をしながら経済発展に貢献しよう、という考え方です。僕は、これが本当の意味でのサステイナビリティ(持続可能性)だと思っています」

貧困から抜け出すために、一生懸命絵を描く子どもたち

元々は、たまたま目にしたForbes誌のコラム記事で、ゴミを抱えてスラム街に佇む小さな子どもの写真を見たことが、ガーナに興味をもったきっかけだったと語ります。そんなガーナのスラム街で、ある変化が起こっているのだそうです。

MAGOさん 「面白いのは、僕がスラム街でアート活動をすることで、アーティストが育っていることです。今回現地のアーティストが作ったアートを4点持ってきたのですが、すでに3点が売れました。

アートが売れたら、僕はすぐに現地スタッフに連絡して、アーティスト本人に現金を渡してもらいます。タイムラグはゼロです。アーティストに還元するのは売上の10%。アートが10万円で売れれば、彼らが手にするのは1万円です。彼らにとっての1万円は、2ヵ月分の月収に相当します。

これまで、『スラム街に生まれた』という絶対的な運命を変えるための彼らの唯一の希望は、サッカー選手になることでした。もちろん、実際にサッカー選手になれる人間なんて皆無に等しい。それでも、子どもたちはサッカー選手になることを夢見て、裸足でボールを蹴っています。

現地の子どもたちと、設立した学校の前で

そんな子どもたちが、ミュージアムが出来たことがきっかけとなり、一生懸命絵を練習するようになったんです。来月には専属ギャラリーを2店舗オープンし、作品を直販できるようにします。そして、ちょっとでも多くのお金を彼らの元に届けたいと考えています」

寄付は一切受けない。なぜならサステイナブルではないから

MAGOさんは、自身の会社であるマゴクリエーション株式会社(MAGO CREATION Inc.)を通じてこうした活動を行います。今年で3期目という会社の経営方針には、MAGOさんの思想が詰められていました。

MAGOさん 「1期目は、『これこそがサステイナビリティなんです』と言っても、頭にクエスチョンマークの人がほとんどで、売上も500万円くらいでした。しかし今年は、すでに何十倍の売上が立っています。

従業員はゼロで、アシスタントはいますが絵を描くのは自分一人。そして僕の報酬は398万円です。この圧倒的な利益率を、スラム街に返すようにしています。

うちの会社は、ドネーション(寄付)や投資を受けることを禁止しています。寄付は個人的にはしますが、“お涙頂戴”だけではビジネス的に続きません。僕にもプライドがあるし、スラム街の一員として一緒に成長したいと思っています。

逆に、僕に『寄付をしたい』と言ってくれた人には、この本を買ってほしいと言っています」

ノンフィクション小説『Still A Black Star Ⅱ』

そう言って見せてくれたのは、『Still A Black Star』の手書き文字と廃材アートの写真が表紙にあしらわれた書籍でした。同名のノンフィクション小説の2作目で、字数にして15万字、価格は5,000円。MAGOさんご自身が自費出版されたものだそうです。

MAGOさん 「この本にはガーナでの取り組みだけではなく、売上を20倍に伸ばした僕のサステイナビリティに関する思想が詰まっています。この本が6冊売れれば、現地の学校運営を1ヵ月まわすことができます。

僕に投資したいという人にも『あなたが持っている株を半分売って、僕のアートを買ってください』と言っています。路上で1万円で売っていた時代もありますが、今は1,000万円以上の値が付くようになりました。僕がもしピカソになるのであれば、20億円の価値がつくかもしれません。

このように、寄付したい、応援したいと思ってくださる方の気持ちの消費先を作るようにしています」

2015年のパリ同時多発テロを機に「世界平和」を願う

MAGOさんがアートを通じて世界に発信するメッセージは、環境保全に留まりません。実はMAGOさんのアートの売上の7割は、世界平和をコンセプトにした『月のアート』だそうです。スタジオの壁に何枚も飾られた月の絵を前に、それらを描くことになったきっかけを伺いました。

MAGOさん 「2015年11月、パリ同時多発テロ事件が起きました。僕はそのとき上海で個展を開いていたのですが『行かなきゃいけない』と思い立ち、惨劇の舞台となったパリのバタクラン劇場に足を運びました。劇場の壁に打ち込まれた銃弾の穴を覗いた瞬間に、背筋が凍ったんです。今この瞬間にテロリストが背後から来て、銃で打たれるんじゃないかと。パリ市民の誰もがそう思っていました。

僕は同時多発テロの前に、『二丁拳銃を持った女』という作品を作りました。下着姿の女性がコンドームを被せた二丁拳銃に手にした絵で、『人を殺す道具をコンドームで“避妊”すれば、戦争がなくなるんじゃないか』みたいな、今思うと甘っちょろいマインドの作品でした。パリの惨状を前にして、自分はなんて生ぬるい世界で平和を掲げてる、しょぼいアーティストなんだと落ち込みました。

それから僕は、どんな絵を描いたらいいか全く分からなくなりました。分からないまま1ヵ月くらいパリに住んでいて、ある日夜空の満月を見上げたとき、これまで考えていたことを一瞬全部忘れている自分に気づきました。『そうだ、こんな時間が続けば、世界は平和になるんじゃないか』それが僕の第六感で世界平和と満月がつながった瞬間でした。それから、満月を描き続けようと思いました」

この月のアートは、画材として金粉、銀粉、それに砕いたスワロフスキーのクリスタルを使用しているのだそうです。この後、MAGOさんはスタジオの照明を消して、ペンライトで月を照らしながら、幻想的な演出をしてくださいました。

MAGOさん 「この作品は、言ってみれば空間作品です。こうして太陽が月を照らしている様子をつくって、地球から月までの36万キロという大きな距離を感じるんです。パリの後、人間は自分より大きなものを見たり感じたりすることで、心が平和になるんだと気がつきました。自分の身の程を知り、奢りが取れるんです。山から景色を眺めたとき、悪いこと考えている人ってあまりいないですよね」

問題解決への積極投資で、アートの価値を高め続ける

ここまで、MAGOさんがアートに込める思いを、実際の取り組みとともに解説いただきました。そのキーワードの一つは「サステイナビリティ(持続可能性)」でした。ソーシャルビジネスでありアートビジネスでもあるMAGOさんの取り組みが持続可能であるためには、MAGOさんが作り出すアートに市場価値がつき続ける必要があります。その点について、MAGOさんは机の上にxy軸の十字のグラフを描きながら、次のように解説してくれました。

MAGOさん 「急速に富んだ先進国の僕たちは今、グラフの右上にいます。その一方で、生活の苦しみやゴミが捨てられる悲しみに中にいる彼らは、グラフのはるか左下にいます。この彼らの願いを反対側、つまり先進国側にトランスレーション(翻訳)してプラスにする方法、それがアートです。

仮にこの辺(グラフの中央付近)の秋葉原で買った部品や銀座で拾ったゴミでアートをつくっても、僕の絵の技術では絶対に1,500万円の価値は生まれません。誰でも回収できる“浅いゴミ”からは、その絶対値分の価値しか生まれません。左下の、この深い場所から生まれるアートにこそ、価値があるのです。

そして僕は、そこで生まれた価値で稼いだお金を、もういちど貧困国に戻します。何が起きると思いますか? そうすると、僕の作品がどんどん古くなるんですよ。

大事なのは、僕がやっているのが問題『提起』ではなくて問題『解決』であるということです。バンクシーがスプレーアートでパレスチナ問題を訴えるのは問題提起ですが、僕がやっているのは貧困や環境汚染といった問題の解決です。

2000年後、僕のアートは絶対に美術館に行きます。それも、名の知れた美術館に行きます。そして、子どもたちが僕のアートを見て笑うんです『こんな野蛮な時代があったんだな』『石油を使ってモノを作って、それをそのまま捨ててたのかよ』と。そうでなければ、そのころにはもう地球に我々人間は存在していません。

そういう未来をいかに早く実現させるか?と考えたときに、僕はなぜ作家が死ぬとその作品の価値が上がるのかなと考えました。そして気づいたのです。自分の価値を高めるためには、自分の作品を殺しに行けばいいんだと。

夜になるとスラム街を照らすインスタレーション作品『Moon Tower』

僕がアートを作れば作るほど、問題は解決され、ガーナのゴミの山は過去のものとなります。すると僕のアートは死んでいき、その価値は相対的に高まります。これをアートを作りながら指をくわえて待っているのではなく、さらにこの問題解決のための投資を行うのです。スラム街にミュージアムを作ったり、ペットボトルTシャツを作ったりするのもそのためです。

経営者の方々にこの話をすると、みんなハッとさせられるようです」

「サステイナブル・キャピタリズム」を求めて

MAGOさん 「今の資本主義のせいで石油資源が枯渇するかもしれないし、経済格差も生まれています。でも資本主義ををなくすのは、ほぼ不可能ですよね。

だから僕は、現在の資本主義(キャピタリズム)をアップデートした『サステイナブル・キャピタリズム』の概念を確立させたいんです」

MAGOさんは、自信いっぱいの表情でそう言いました。

満ち溢れた自信と才能をいかんなく発揮するMAGOさんですが、長年、自身と社会のつながりに苦悩されていたそうです。

MAGOさん 「絵を描き初めて10年経ちますが、昔は自分のことが信じられませんでした。自分は低能力者で、世の中と自分が合わないのは精神がおかしいからだと本気で思っていました。でも自分の使命に気づいたとき、自分の才能を知ることができました。

僕は元々水墨画を描いていたのですが、ガーナのスラム街で若者たちの油まみれの汗を見たとき、これは水墨画じゃ描けないと思いました。そこから、油絵を独学で学びました。わずか2年前のことです。

ピアノを始めたのも1年前です。アートにあわせた音楽を展覧会で発表したいと思い、知り合いの音楽家に依頼しようと思ったのですが、自分で弾かないと嘘になるなと思ったのです。そこから毎朝30分練習して、3ヵ月で弾けるようになりました。楽譜こそ読めませんが、即興で作曲して弾くことができます。音大出身のピアニストの方も驚くぐらいです。

そうなるまでに何が必要だったかというと、努力でもなんでもなくて『真実の愛』なんです。アグボグブロシーの地に足を踏み入れたとき、人生で初めて『人を助けたい』と思いました。僕らがこんなに豊かな生活をしてるのは仮の姿で、彼らにすべてを押し付けてるだけなんだと。

こんな不平等な世界があっちゃだめだ。それを救いたいと心から思ったことが、僕にとっての真実の愛だったんです」

◆ ◆ ◆

今回MAGOさんに取材するきっかけを作っていただたユーグレナの永田さんは、ICCサミット KYOTO 2019のセッション内で、「僕は資本主義における主要KPIを『経済性』から『社会インパクト』に変えてゆきたい。『社会性』は『経済性』すらも含有する最重要指標になるのでは」と語られました(詳細は、永田さんの密着レポート記事を参照)。

私たちは、まさにMAGOさんが目指すものが、経済性を内包した社会活動であることに気がつかされました。

そしてその活動とは、ガーナの子どもを見て「真実の愛」に気づいたMAGOさんの人生をかけた挑戦でもあります。

私たちは今、どんな想いに突き動かされて人生を歩んでいるだろうか? そして自分が携わる事業は、地球上の誰かや何かの犠牲の上で成り立っているものではないだろうか? そんな問いをいただいたインタビューでした。

ご縁をつないてれた永田さん、そしてお忙しい中取材にご協力いただいたMAGOさん、ありがとうございました!

(終)

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編集チーム:小林 雅/尾形 佳靖/戸田 秀成
(写真:福田 秀世)

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