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人生をかけた7分間。「スタートアップ・カタパルト」の舞台裏ドキュメント【ICC FUKUOKA 2019レポート#3】

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2月18日~21日の4日間にわたって開催されたICCサミット FUKUOKA 2019。その開催レポートを連続シリーズでお届けします。第3回目は、ICCサミット初日に開催された「スタートアップ・カタパルト」の模様を、舞台裏も含めお伝えします。ぜひご覧ください。

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ICCサミットは「ともに学び、ともに産業を創る。」ための場です。毎回200名以上が登壇し、総勢800名以上が参加する。そして参加者同士が朝から晩まで真剣に議論し、学び合うエクストリーム・カンファレンスです。次回 ICCサミット KYOTO 2019は2019年9月2日〜5日 京都市での開催を予定しております。参加登録は公式ページのアップデートをご覧ください。


決戦の朝、チャレンジャーたちが集結

朝7時、カタパルト会場の様子

「スタートアップ・カタパルト」は、ICCサミットの中でも目玉プログラム。世の中の課題を解決するサービスに取り組むスタートアップが、自分たちの存在を賭けて7分間のプレゼンを行うピッチコンテストだ。審査員の投票で優勝が決まり、豪華賞品が用意されている。

登壇企業は14社で、いずれも厳選されたスタートアップばかり。ジャンルは問わない、異業種バトルになる。いずれもこの日のために、何ヵ月も前からプレゼンをブラッシュアップし、練習を重ねてきた人たちばかりだ。

スタートアップ・カタパルトの朝は早い。2月19日朝7時前。一人、二人と登壇者が会場に入り始めた。開始は9時だが、それ以前に全員分の映像やマイクの使い方などのリハーサルを行うためだ。

Laboratik Inc.三浦 豊史さんのリハーサル風景

7時20分ごろ。ほぼすべての登壇者が集まった。登壇者たちは順番に従って左右に分かれ、出番順に壇上へ登って、リハーサルを進めていく。まだ無人の広い会場、マイクを通して聞く自分の声、すべてが想定外に違いない。

そのなかでも、会場右側に座っているinahoの菱木 豊さん、左側に座っているラディウス・ファイブの漆原 大介さんに意気込みを聞いた。昨晩のパーティを早々に切り上げて、ふたりとも最後のプレゼンテーション練習に励んでいたという。

inaho 菱木 豊さん

コメントをお願いしていいですか?と聞くと、菱木さんはうっすらと微笑んだ。昨晩はほとんど寝ていないという。

菱木さん「パーティに出席すると返事をしたしログを残すのが大切だと思って、昨晩は会場に1分だけいて、すぐに帰りました! 帰ってからはもちろん練習です。もちろん優勝したいです!」

ラディウス・ファイブ 漆原 大介さん

プレイベントのころから優勝への意気込みを語っていた漆原さんは、会場の張り詰めた雰囲気を感じ取っていた。

漆原さん「(会場を見渡して)ずっと優勝したいと言っていたけれど、すごい人たちばかりでおこがましいと思ってしまいました。でも、がんばりたいです」

未来のユニコーン企業を見つける

出番を待つプレゼンターたち

やがて、審査員や観客が集まり始めた。今回は優勝賞品もかなり豪華だ。提供企業のFABRIC TOKYOからはFALKLAND to TOKYOブランドのジャケット、おかんからは社食1年分、SmartHRからは、サービスの使用権が授与される。それぞれ登壇企業へのエールをお願いした。

FABRIC TOKYO 森 雄一郎さん「2年前にカタパルト・グランプリに登壇させていただいたのですが、そのときのことが昨日のように思い起こされます。このときをきっかけに、大きく事業が伸びました。

私たちはBtoCの洋服のビジネスをしていますが、ライフスタイルに溶け込むようなビジネスのスタートアップがどんどん出てくるようなことを期待しています。がんばってください!」

おかん 沢木 恵太さん「世界の時価総額トップのGoogleやアップルは、食に投資していると聞いています。未来のそういった企業が生まれるのを支援したいなと思っています」

SmartHR宮田 昇始さん「じゃんけんの結果で、1年分、10年分、100年分のSmartHR提供が決まるなんて、先週知りました。我々のサービスは従量課金制で、カタパルトで優勝するということは、未来のユニコーン企業の可能性が高い。その一生分の売上が消えるのは痛い。がんばって(じゃんけんに)勝ちたいと思います」

プレゼン予習に集中するビットキー 寳槻さん

審査委員長の一人であるグロービス・キャピタル・パートナーズの今野 穣さんには、プレゼンターへの期待をお願いした。

今野さん「カタパルトは、起業家の皆さんにとって意義のあるイベント。日頃の成果をぜひ発揮してもらえればと思いますね。

同じタイミングで登壇すると、ライバルでもあり、仲間でもあります。あいつががんばっているから、僕も一回で終わっちゃいけないと思うだろうし、カタパルトの先輩、後輩もできますよね。それも含めてCo-Creationだなと思います。

個人的に注目しているのはロボティクスの分野。テクノロジーで世界、社会を変えるようなものですね。投資するならデータ、AI社会向けのものや、労働人口が減るなかで、生産性を上げるものでしょうか」

会場が満員になってきた。ICCサミットでも注目度ナンバーワン、見たいセッション選択ナンバーワンの「スタートアップ・カタパルト」の始まりだ。

10社から提供される優勝賞品とは

ナビゲーターはICC小林 雅。今回はスペシャルゲストとして、前回優勝のオプティマインド松下 健さんを壇上に迎えた。

小林「松下さん、優勝して何が変わったでしょうか」

松下さん「一挙に認知度が上がったので、採用ができるようになったのと、普段なかなかお会いできないような人たちと会えて、情報交換ができるようになりました。もちろん、事業の導入企業も増えました。その3つが大きな変化です。

でも一番の変化が、ふだん食べるものがおかんさんになり、着ているものがいいジャケットになり……(会場笑)、すごく影響力がありますし、いい機会になりました」

優勝賞品は、紹介した以外にも、よなよなエール賞、サントリーからウィスキーのバランタイン17年賞、一休.comから、宿泊やレストランに使える10万ポイント、FES&AROMASTIC賞として人気の腕時計FES WatchAROMASTICが授与される。

日本IBMの正木 大輔さんは、優勝賞品とともに量産計画中の世界最小コンピュータを紹介

加えて、オフィシャル・サポーターの日本IBMからはBtoBの企業が優勝ならIBMデータベースをすべて開放、BtoCの企業が優勝ならIBM社員に販売(国内に約2万、世界に約40万人)とのこと。ラクスルが商品として提供するのはテレビCM200万円分。それを300万円分まで増額することが発表された。

ラクスルでTVCMといえば田部 正樹さん。
同社長の松本恭攝さんとの話し合いで、増額100万円を発表

ここで早速いじられたのはSmartHRの宮田さんだ。

小林「100年のサービス利用権を提供ということは、SmartHRは、100年企業ならないといけないということですね」

宮田さん「(動じず)はい、それはたぶん大丈夫だと思います。ちなみにお客さんの中で古いところ、養命酒さんは創業1600年ぐらいだそうです。それに負けないぐらい長く続けていただきたいと思います」

小林「社員数1万人ぐらいになっても大丈夫ということですね?」

宮田さん「うっ……えっ……それは負けられないので頑張りたいと思います」

じゃんけんで賞品が決まるシビアなルール

7分で自分のビジネスを語り切る、渾身プレゼン
すぐにステージ左側から、準備をしていた1番目のプレゼンター、リクシィの安藤さんが壇上に上がり、プレゼンテーションが始まった。この日のために、この7分のために、語れる実績を作り、余すことなく想いを伝えるべく何度も練習してきたプレゼンターたち。14社いずれも、気迫のこもった発表となったので、ぜひ動画でご覧いただきたい。

プレゼンを見た、審査員の感想

すべてのプレゼンテーションが終わり、審査員の用紙記入が終わると、集計時間になる。その間、審査員が感想を語る。

 

 

セプテーニ 佐藤 光紀さん「パンフォーユー、おいしそうでしたね(笑)。人生をかけた7分間という導入がいいなと思いました。そう言われると人生をかけなきゃいけない空気になって、プレゼンターのみなさんの気迫を感じました」

SmartNews 西口 一希さん「登壇している企業のいくつかが、物流と組み合わせたりなど、一緒にやったら面白いですよね」

アスクル 吉岡 晃さん「熱のこもったプレゼンテーションでよかったです。早速あとで何社かのみなさんには名刺を配りにいきたいです」

Drone Fund 千葉 功太郎さん「すごく面白かったです。皆さんとても良かったのですが、2社選ぶとしたらテクノロジー好きなので、ラディウス・ファイブと、inahoさんですね」

日本IBM 荒川 朋美さん「みなさん大変お疲れ様でした!すごく感動的で、どの1つというのは難しいです。今回は時代の流れを感じました。プラットフォームだけではなくて、そこからサービスができて、お客様がどんなふうに使っていくかまで入った形になって、より実践的になったのが非常に印象的でした。みなさんがんばってください!」

Facebook Japanの長谷川 晋さん「Instagramのモデルやトレンドを参考にしていただいたスタートアップが多くて、本当にありがたいなと思っています。日本や世界の業界の抱える課題に対して、正面からテクノロジーを使って向きあうという考えの方が多くて、とてもインスピレーショナルでした」

審査委員長 ラクスル松本 恭攝さん「今回うれしかったのが、リアル×インターネットのスタートアップがすごく増えたことです。我々がスタートしたときに、ほとんどそういうスタートアップはいませんでした。

社会実装していくためには現場によりそっていかないといけません。導入に対して、時間をかけていく、営業していく、価格を合わせていくとか、かなり細かい調整をしないといけません。

テクノロジーだけではなくて、現場にオンボーディングしていくときのパワーをかけていく、そこに対してプレゼンテーションをされているスタートアップが多いのがすごく印象的でした。

日本がデジタル化をしていくなかで、いろんな領域で、いろんなインターネット化が進んでいくのではないかという芽を感じました」

投票結果を発表!優勝は……

カタパルト・グランプリの初代王者、三輪開人さんが司会。「優勝は……」

壇上で、審査員のコメントを聞いていた14人。集計が終わり、その結果は……

優勝:AI×ロボットアームによる自動野菜収穫で農業にコスト革命をもたらす「inaho」
準優勝:“Doctor-to-Doctor”遠隔集中治療プラットフォームで医療格差の是正を目指す「T-ICU」
3位:人工知能による自動画像加工・イラスト描画でクリエティブに革命をもたらす「ラディウス・ファイブ」
4位:“シェアリング”お買い物代行プラットフォーム「Twidy」を提供するダブルフロンティア
同率5位:MAツール「カイガン」で企業のBtoBマーケティング・セールスを自動化する「Marketing-Robotics」
Slack内のコミュニケーションを分析し、チームのエンゲージメントを可視化するLaboratik(ラボラティック)「We.」

各社詳細は速報記事へ

栄えある一位は、inahoの菱木さんとなった。菱木さんは満面の笑顔で、一歩前に踏み出した。

「ありがとうございます。今回絶対優勝したいという気持ちで来ていました。我々はまだサービスインできていないので、この日に合わせてトラクション(実績)を作ろうと、みんなががんばってくれた結果です。

少しピッチをとちってしまい、失敗してしまったと思っていたのですが、結果が出て本当にうれしく思っています。

昨日病院にいったら、肋骨が骨折していることがわかりまして、骨折している人が優勝したのは初めてではないかと思っています。資金調達もお待ちしています!」

賞品提供の企業からはエールが贈られた。

よなよなエール 井手直行さん「素晴らしいアイデアと可能性を秘めているので、もっとよなよなエールを飲んで、もっとぶっ飛んでもらえればと思います!」

ソニー 藤田 修二さん「感動的なプレゼンをありがとうございました。我々のやっている香り(AROMASTIC)も、農作物からのものなので非常に興味を持ちました。FES Watchはマーベルとのコラボの特別モデルです」

FABRIC TOKYO 森さん「あまりジャケットやスーツは着ないのではと思いますが、いざというときにぜひ。社員数が増えると結婚式など増えると思います」

おかん 沢木さん「ぜひいいものを食べて、肋骨を治していただければと。いつかinahoで収穫した野菜で、お惣菜が作れればと思います。おめでとうございます」

そして注目が集まったのは、SmartHR宮田さんとのじゃんけんだ。

宮田さん「先程計算したら、社員1万人として、SmartHRの利用料は100年間約30億円になります」

菱木さんがガッツポーズで拳を作り、勝つぞ、という気迫を見せた。

宮田さん「これは、絶対負けられない。どんな汚い手を使っても勝ちたいと思います。僕、グーを出したいと思います」

ポーカーフェイスでそう宣言した宮田さんを、菱木さんが見つめる。出すべきは、宣言を受けて素直にパーなのか、「どんな汚い手を使っても勝つ」というからには、それを読んでパーに勝つチョキを出してくるのか。表情からは読めない。じゃんけん、勝負!

宮田さんがうなだれてしゃがみ込む。素直にパーを出した菱木さんが勝ち、inahoは、SmartHRの使用権100年分を獲得した。

菱木さん「ありがとうございます!」

宮田さん「帰ったらCFOに怒られる……」

笑うしかない宮田さん

笑いに包まれるなか、菱木さんはIBM正木さん「必ず一緒に世界で売りに行きましょう!」ラクスル松本さん「一緒に頑張りましょう!」という力強い応援メッセージを贈られて、スタートアップ・カタパルトは終了した。

登壇後のもう一つのドラマ

壇上から降りた菱木さんを、ドキュメンタリー映像用のカメラが追っていた。真剣な表情で、今後のビジネス展開について語っている。

優勝者映像コメントを収録中

菱木さん「……より早くサービスインしたいので、どんどん前に進めていきたいと思います。人手で野菜を収穫しているのを、ロボットでできれば、より多くの野菜の生産市場ができると思います。それをICCの場から創っていけるようにしていきたい」

ここで収録終了。ありがとうございます、と頭を深々と下げ、お互い挨拶したあと、いきなりカメラマンと菱木さんがしっかりと抱き合った。

「ありがとーーーー!」

聞けば菱木さんは、毎回ICCサミットで素晴らしい映像ドキュメンタリーを製作いただいている、ワンダーグラフィクスのスタッフとして働いていたことがあったのだそう。以前はスタッフとして、登壇者を追い、コメントを収録していたのだそうだ。

菱木さん「まさか、”こっち側”で優勝できるとは!」

まるでドラマのような、本当の話が起こっていたのだった。

「今回のカタパルトは、いよいよIoTの社会実装化を感じさせた」

前回優勝の松下さんと

まだ余韻の残る会場で、審査委員長のラクスル松本さんに改めて感想をうかがった。

松本さん「僕もinahoに投票したのですが、最初、ロボティクスだけでは厳しいだろうと思いました。いろんなロボットを見ていますが、今のところそんなに精度は高くありません。

でもプレゼンで、説明会で各地を回って、実際にアスパラを植え、お客さんの声を聞いているというリアリティが伝わってきました。ここまで解像度高く事業をやっていて、泥臭くできるならば、と思いました。それが他の審査員の方にも伝わったのではないかと思いますね。

日本の課題、生産性が上がらないのは、デジタルがなかなか普及しないことにあると思います。いろいろな領域でリーダーがイノベーションを起こして、社会を変えようとしていっている動きが生まれているのは、すごく嬉しいですね。

これまでも徐々に起きてきたIoTの流れの中で、今回すごく感じたのは、社会実装に向けての具体性が上がってきたということ。一番難しいのはテクノロジーの進化ではなくて、消費者の習慣を変えるところです。

使う側に使ってもらうところが難しい。そのあたりへの打ち手で具体的なものが、進化してきているのを今回特に感じました」

全力を尽くしたプレゼンターたち

優勝は1社に決まったが、登壇した14社それぞれが、自分たちなりのイノベーションで社会の課題を解決することを、説得力をもって訴えた。1位から3位までは、僅差の1票差だったという。ジャンルはまったく異なるのに、それだけ実力もプレゼンも、課題感も認められるようなサービスが多数集まったということである。

今回入賞を逃しても、登壇から2週間たたずして、次の一手、次の調達、展開を発表しているスタートアップもいる。それが彼らのスピード感だ。彼らが発射台(カタパルト)から放たれた勢いのままに成長を続け、新たな産業を担うことを心から願ってやまない。

次回、2019年9月2日から京都で開催するスタートアップ・カタパルトの募集は近日中に始まる。日本経済新聞に速報が出るなど、露出や注目度もさることながら、プレゼンのスキルを磨き、今の時代のトップリーダー層30名の審査委員の方々に向けて、直接プレゼンができることは大きなステップとなる。我こそはと思うスタートアップの挑戦をお待ちしている。

(続)

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編集チーム:小林 雅/浅郷 浩子

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