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活躍する人はどのように目標設定を行うのか?

前編に引き続き「幸せな人生」と「意味のある人生は違う」など数々の素晴らしい発言が飛び出したICCカンファレンス TOKYO 2016の代表的なセッションです。 活躍する人はどのように目標設定を行うのか? - ICCカンファレンス TOKYO 2016 「試練に打ち勝つ強いメンタルの作り方」(後編)を是非ご覧ください。

登壇者情報
2016年3月24日開催
ICCカンファレンス TOKYO 2016
Session 1B
「試練に打ち勝つ強いメンタルの作り方」

(スピーカー)
石川 善樹 株式会社Campus for H 共同創業者
出雲 充  株式会社ユーグレナ 代表取締役社長
佐藤 光紀 株式会社セプテーニ・ホールディングス 代表取締役社長

(モデレーター)
小林 雅  ICCパートナーズ株式会社 代表取締役

前編はこちらをご覧ください:強いメンタルを持つ人間の行動は何が違うのか?


「活躍する人はどのように目標設定を行うのか?」

石川 なるほど!佐藤さんの話を聞いて、ある研究を思い出しました。

「活躍する人はどのように目標設定を行うのか?」

というものです。そもそも遠い未来の目標を高く置くというのはみんなやります。1位になりたいとか、金メダルを取りたいとか。

ただ、長くずっと活躍できる人は何が違うかというと、「日々の目標行動の設定」がすごく上手い人たちだといいます。

私たちの脳は怠けものなので、どうしても日々を単調にしがちなのですが、このルーティーンの中に明確な、昨日とは違うちょっとした目標行動を設定できるかどうか。

佐藤 まさにその通りだと思います。それを意識して、細かく刻んで目標を立て、目の前のものまでブレイクダウンする。このようにずっとしていたのですが、最近それが少し発展してきて、「Just This Moment」ではないかと。この瞬間です。究極までブレイクダウンして行くと、この1分1秒の目標の設定と達成が大切だな、と。

やはりそれが究極だと思っていて、一日の目標設定とかも、もうやめました。前はしていたのですが、それもやめたのは「一日」も長いと思ったからです。

小林 単位は1秒なのですか。

佐藤 秒とかはあまり考えていませんが、この瞬間がすべてということです。それ以外は過去も未来も存在しない。少し概念的な言い方ですが。

石川 なるほど。ちなみに、その瞬間が自分にとっていい瞬間かどうかは、自分なりの物差しがあるのですか?

佐藤 無理しないということでしょう。自然体で、何か相手をやっつけてやろうとかは思わない。ただ楽しく、この瞬間、目の前の人と、最高の時間にすることだけを考える。

例えば、今日はこうしてお聞きになっている方々がいるから、自分はこういう場ではイイことを言わなければならないとか、何かカッコ良いことを言わなければならないとか、人からこう見られてカッコ悪いから上手く振る舞っておこうとか、そういうのはもうやめようということです。

面倒くさい。それはやはりその瞬間の目標達成には繋がらないので、やはりこの瞬間、石川さんと出雲さんと小林さんと話していて、オーディエンスのみなさんがいて、この瞬間とにかく自分が思いっきり楽しんで、何も鎧も着ずに自然体で向き合うだけ。その結果、相手からどう思われるかはあまり気にしない。そういう感じです。

出雲 今の発言をお聞きしていてスゴ過ぎますよね。私はもっとでも、ミドリムシのことを知っていただいて、カッコイイものだとみなさんに思っていただいて欲しくて。やはり私の話というのは、すごいという意図がかかっているのです。完全なミドリムシのポジショントークですから。

佐藤 そこまで行くと清々しいですよね、むしろ。だから、出雲さんのキャラクターというのはすごいなと思います。先ほども雑談していて、出雲さんがどういう風にしてこんなキャラクターになったのか、すごく気になる。

でも、素晴らしいと思うのは、主語がミドリムシでミドリムシのポジショントークだから、自分のエゴとかはないのです。その時点で清々しく感じる。つまり自然体に近い。それって、僕と言っていることは一緒だと思いました(笑)

出雲 ミドリムシをもっとみんなに知って欲しい、みんなに褒めて欲しい。ミドリムシ頑張っているぞと。確かに、先ほど石川さんがおっしゃったように「出雲が」という主語は、少しセルフィッシュですね。

別に私が光合成をしているわけではないですし、CO2を削減しているわけでもないので、やはり頑張っているのはミドリムシですよね。

ただ、これは少し哲学的な悩みかもしれないのですが、ここまで来ると、みなさんは実は気づいていて私だけ気づいていないのかもしれませんが、私はミドリムシに乗っ取られていませんかね。大丈夫でしょうか。何故、こんなに24時間、365日、「ミドリムシは良いですよ」といっているのでしょう。

そして、私はこれを心の底から楽しいと思ってやっているのです。まあ多分、私はまだ人間だと思うし、脳みそを開けるとミドリ色のものが埋まっているということはないと思います。

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ここで私が今一番知りたかったことがあります。少し一個前の議論なのですが、インナー・ドリームの話です。すごく大事な話だと思うのですがスーッと行ってしまった。

例えば、普通は名札を作る時、「この人に最近会ってないな」とか「この人と前こういう話をしたな」とかを想像しながら名札を作ると楽しい。これはおっしゃるとおり。

「インナー・ドリーム」は興味を持つことから始まる

ですが、私は次のことが一番知りたいのです。すなわち、こういうことは小林さんが正しくそれを伝授すればスタッフの方もそういう人になるのか。もしくは、これは非常に生まれつき、生得的なものであって、何かこの素晴らしいセッションやフロリダへ行ったりしても、私が突然心のこもった名札作りをできるようになるとはならないのか。その辺りはどうでしょう。

小林 僕の感覚からすると、ほとんどの人はできるようになりますよ。多分、ICCの受付で感じると思うのですが、みんなボランティアのスタッフで真面目に、というか熱心に渡しますでしょう。

あれって、作業で考えるとものすごくつまらない作業だと思うのです。でも、「参加することによって、この人たちが活躍することを考えろ」とよく言うのですが、やはりそうすると名札を渡すとか、参加いただくとか、受付をするとか、案内するというのに、喜びを感じるようになるのではないかと思うのです。

石川 やはり小林さんは、変な人ですね(笑)ただそれは冗談で、研究者として冷静に観察すると、小林さんは「興味を持つ力が高い」と言えます。

そういえば、現代社会で活躍するために最も重要な能力の一つは、まさにその興味を持つ力だといわれています。

これまで僕ら研究者は、IQが大事だとか、いや、EQが大事だとか、自信だとか、自尊心だとか、いろいろいっていたのですが、どれも決定打に欠けていました。

それよりも、ある行動、タスクに対して、興味を一貫して持っていられるかということが実はすごく大事だということがわかってきたのです。

人は、新しくそのタスクへ取り組む時は興味を持ってできる。ただ、2回、3回、4回となってくると、飽きて興味を失ってしまいます。その時に別の観点から興味を持てるかというところ。やり尽くしたタスクに対しても、新たな興味を持てるかというのが、実は今の時代を生きる人にはすごく大事だと言われているのです。

これがすごく上手いなーと思うのが、陸上の為末大さんです。為末さんは、陸上という名の二足走行を職業にされてきましたが、ご本人もおっしゃっているように、これはあまりに単調な作業です。50メートル走るとかですから。それを20年近くやってきて、でも毎日新しく興味を持つ。今日はこうやってやろう、明日はああやってみよう、というように興味を一貫して持っていられたから、続けられたといいます。

彼は引退された今でもそれをやっている。例えばこういうセッションとかでも、今日は最初に喋ってみようとか、今日はしばらく黙ってみようとか、彼はいろいろ試すのです。

そして、僕は為末さんとシェアオフィスしているのですが、見ているとチームのメンバーとミーティングをする時も、今日は自分から話そうということで話し始める日もあれば、今日はちょっとあえて黙ってみようという日もあるのです。

彼は毎日変化させているんですね。「何故ですか」と聞くと、やはり興味を持っているのです。ですから、インナー・ドリームというのは興味の一貫性ということなのかなと思います。

小林 僕は今、泉ガーデンタワーというところに仕事場があるのですが、毎朝7時40分くらいに子供の通学と合わせて仕事場に行く。するとだいたいTULLY’Sへ行って、「(ホットの)グランデ・ソイラテ」を頼むのです。

するとある日、僕が言わなくても出てくる状態になり、毎日行くのが楽しみになった。出てくるのか出てこないのか。本当は違うものを頼もうかなと思った瞬間にグランデ・ソイラテが出ると、「ああ、俺は毎日これを頼まなければならないな」などと思ったりする。

そして、その出した店員がいるかいないかとか、どういうふうに僕は判別されるのだろうとか、試すのが楽しみになっています。そういう興味を持ってやっていますね。

僕、変でしょうか。

石川 変すぎますね(笑)。でもだからこそ、いろいろなことに興味を持っているのですね。

小林 興味を持つことによって人生楽しくなる。そう思うようになるので、日々何かを作るにしても興味を持つようにしています。

石川 そのための方法論として、自分の中で複数の人格を持ちながら対話するというのが多分あるのだと思うのです。

小林 あと、わざとらしく「これ、面白いな」と呟くということは良いのではないでしょうか。たとえ面白くなくても。

石川 確かに、それはありますね。面白いと言ってみると。出雲さん、どうでしたか。インナー・ドリームの話でしたが。

出雲 最後に出た、わざと呟いてみるとか、その興味の持ち方はすごいですよね。

僕は「慣れ」をどうやって排除したら良いかということに、今すごくフォーカスして聞いていたのです。TULLY’Sの話も、注文しなくても出てくるというのは、非常に心地良いわけでしょう。

何故このようなことを言っているのかと言うと、生物というのはすごく原初的に考えれば、昨日と今日と明日が同じ日であって欲しいはずなのです。昨日と今日と明日が同じような日であれば、同じような安全が確保できて、同じように生活することができる。

昨日と今日と明日が毎日全然違うプロトコルで違う環境だとすごく生き辛いわけですね。ですから、頼まなくてもTULLY’Sで同じものが出てくるというのは、すごく脳みそが相当な「快」、ストレスから開放されて気持ちいい状態でしょう。

すると、生物は非常にそこへ執着しますから、最後そこにいる全員が小林さんのことを認識して、以心伝心で何も言わずに同じメニューが出てくるようになると、すごくイノベーションが起きにくくなる。

そして、ありえないのですが、あまりにも気持ちよすぎて、例えば小林さんがTULLY’Sへ行った時の注文の仕方を忘れたとしますでしょう。そして、泉ガーデンのTULLY’Sが突然何かあって閉店したとする。

すると、それまで言わなくても自分の好きなものが出て来たのに慣れた状態で、他のTULLY’Sへ行った時に生物は多分黙って立っていると思うのです。明らかに不審者なのですが、目で「いつもの、いつもの」とやって出てこない。それで怒って帰るということになると思うのです。

が、どうしたら、「後30分です」というマニュアルとか新しいものができるか。それには一貫して興味を持ち続ける仕組みが必要でしょう。そう思って聞いていたのですが、それが最後にポロっと出て来てすごくビックリしたのです。面白くないものでも「ああ、面白い」と呟く。

小林 興味を持つことと成長することというのはイコールな部分というのがあると思うのです。僕は41歳なのですが、やはり年齢が上がってくると、「ヤバイ、もっと働かなければならない」とか「生存しなければならない」とか、そういう生存本能が働く。

特に僕は「ICC TOKYO 2016」は初開催のイベントだから必死にやらないとヤバイと思う。これでコケたら次はないぞとか考えるので、やはり本気になる。

すると、頭を使わないと僕の仕事では生きて行けないから、常に頭を使うことを考えるようになるのです。

例えば、家から駅まで歩いて行きますでしょう。みなさん、道路で次に自転車が来るか自動車が来るか予測しながら歩いたことはありますか。僕は10mくらいで来るかどうか、来るのだったら何色か、そういうことを予測するのです。変でしょうか。

石川 変ですね(笑)ただ、その話を聞いて思い出したのが、長距離ドライバーの運転手で事故が少ない人はそれをやっているらしいです。常に頭の中で「前の車がこう来たらどうなるのだろうか」とシュミレーションしている人は、事故が少ないみたいですね。

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出雲 と言うか、石川先生は何でも答えられるのですね。普通こんな話は誰も拾えないですよ。みんな今そう思っていたでしょう。だって、何色の車が来るとかどうでも良い。それよりももっと、良いミドリムシとか、いろいろ考えなければならないことはあるのに。

小林 世田谷区だと外車、ドイツ車が多いとかというのもあるのです。だから、「次はメルセデスが来るかもしれないな」と予測したりして、来たら当たりというふうにして楽しみながら日々歩いています。

あと、没頭しながら、「今日どうしよう」などとボーっとして歩いている時もありますが、常に頭を動かしながら生きるというのをやっています。やはり変でしょうか。

「幸せな人生」と「意味のある人生は違う」

石川 変を通り越して、もはや面白いです!(笑)その話を聞いていて思い出した研究があります。「幸せな人生」と「意味のある人生は違う」という研究です。

小林 深いですね。

石川 深いですよね!生物というのは基本的に「幸せ」を求めるのですね。快を増やして不快を減らす。ただ、人間というのはやはり「意味」も大事なのです。そして、幸せな人生、意味のある人生を比べると、もちろん共通項も多いけれど、「意味のある人生だった」と言えるためには何が必要かを研究した人がいる。

そして大発見だったのは、意味のある人生だったなと思った人生というのは、「苦労の多かった人生」なのです。

先ほどの長生きしている人は苦労をしているということと繋がってくるのですが、歳を重ねると人は2パターンに分かれてきます。

・1年があっという間に流れてしまうタイプの人
・1年がどんどん長くなるタイプの人

ほとんどの人は1年がどんどん早くなります。何故かと言うと、やはりルーティーンで、パターンで日々を過ごすようになるからです。僕らの脳というのは本当にサボり者なので、すぐパターンにしようとするのです。

ただ、一部の人たちですが、歳を重ねるごとに1年が長くなると言っている人たちがいて、この人たちは何をしているかと言うと、毎年自分の苦手なことにチャレンジしているのです。

例えば水口哲也さんというゲームデザイナーの方がいて、彼は50歳にしてサーフィンを始めたのです。北海道出身で泳げなかったのですが、彼は毎年一個は自分の苦手なことにチャレンジをしていて、その50歳の時はサーフィンだった。

人というのはすぐに得意なことをしたがるのです。でも苦手なことを毎年やって乗り越えていくと、それは自分の本当の意味での自信になるのです。得意なことをして上手く行っても自信にはなりにくいです。そういう意味で苦手なことや嫌なことにあえてチャレンジするようにしている人は活き活きしているように思う。

秋元康さんという作詞家というかAKBのプロデューサーの方がいて、彼は1年に一回必ず一番大嫌いなヤツに会いに行くらしいのです。これは1年に一回ですよ。そして、大嫌いなヤツに会って、「ああ、やっぱりコイツ嫌いだな」と思って帰ったりとか「意外と大丈夫になっているな」とかを確認しているらしいです。

だから、やはりこういう快もあり、不快もあり、いろいろある人生というのが、自分を豊かな意味のある人生にするのではないでしょうか。そういうことを最近思っています。

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小林 深いですね。出雲さん、詳細にメモをしていますが何かありますか。何かを言えば石川さんが何かの研究にしてくれますよ。

出雲 こういう研究ではと分析していただけるとありがたいのですが、やはり慣れを排除する仕組みというところに注目したいです。

生物は絶対慣れた方が、意識しないで作業できるようになるので、気持ち良いでしょう。しかし、やはり慣れを排除するためには特別なことをする。

大嫌いな人に会いに行くとか、小林さんのようにここはドイツ車が多いからその傾向から予測して当った時に嬉しいと頭を使いながら歩いたりとか、そういふうになると思うのです。

でも、そういう頭を使いながら歩くとか、毎回嫌いな人に会いに行くとか、50歳になってサーフィンするというのは、当たり前ですが初期投資がかかりますね。メンタルにも金銭的にも非常にコストがかかりますでしょう。

そこでそういうメカニズムを自分や他の人へ植え込もうとする時には、ちゃんと設計してその人がそうしようと思うインセンティブが必要ですね。でも秋元さんの場合は1年に一回嫌いな人に会いに行ったら1万円貰えるとか、そういう構造にはなっていないわけでしょう。

私はあまりにも動物実験ばかりやっているとこういう発想になるのですが、基本的にやはり最後還元してくとS‐R(刺激と反応)に終着するわけです。すなわちSimulus(刺激)-Response(反応)、こういう刺激があってこういう反応がある。良い刺激を与えると良い反応がある。

こういう発想に立つと、私はいつもどうしてもそういう発想に立つのですが、どういう良いことがあるのでしょう。例えば、やってくる車を予測して、それが当ったとする。すると、お昼ご飯のグレードが上がるとかそういうことではないのですよね。

小林 頭を使うということそのものが良いのです。例えば、次メルセデスが来るかもしれないと思っていて、それが当ったら嬉しくないですか。まったく根拠も何もない。

あと習慣としては、慣れの部分と慣れない部分というのがあって、僕の場合は慣れる時間はめちゃくちゃ早くして、違う時間を作ろうとしています。

石川 情報が少ないと、イマジネーションが膨らむということあります。僕が映画監督の人と話をしていて面白いと思ったのが、昔の映画監督というのは気軽に映画が見れなかったという話をよくしています。

じゃあどうするか?雑誌などをみると、この映画はこういう映画ですと200字くらいで書いてありますでしょう。そこから、この映画はどういう映画なのだろうと想像したらしいのです。

そうやって妄想を膨らませた状態で実際の映画を見ると、ここが一緒だ、ここが違う、というふうになる。それでクリエイティビティが鍛えられたと言うのです。

実は研究も近いところがあって、私はハーバード大学というところに留学していたのですが、そこでよく言われたのは「迂闊に勉強するんじゃない」ということです。日本人はすぐに勉強する。すぐに教科書を開いて、すぐに論文を読む。だけど、読むなと言われたのです。

読む前に、どういうことが書いてありそうかとか、自分で妄想するのが大事だとよく怒られました。そして、自分の妄想と合っているかどうかを確認するために見ろと。

佐藤さん、マンガもそうなのではないですか。

佐藤 僕はマンガも作っていて、60作品くらい編集長として連載を持っているのですが、全てにおいて、仮説を立てています。今の映画監督のお話とまったく同じですね。

1コマ目を見ますでしょう。そして、最後のページまで想像する。想像して、想像と何が違うかを確認していきます。そして、違った点だけに赤を入れていく。

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基本的には作家さんの人間性とか技術とかバックグラウンドとか趣味嗜好とかをまず全部インプットした上で、この人がどういうモノづくりをするだろうかとまず想像する。そして、今度はそれが読者の目からして面白いかどうか。そこに熱狂するかどうか。つまり、読者のフィードバックを想像するのです。

ですから、まず作り手の人をよく洞察する。そして、その人の作ったモノのスタート地点を見て、1コマ目なり1ページ目を見て、ゴールを想像する。1話目の終わりとか、その物語の最後を想像しながら、読者のフィードバックをなんとなく頭の中で仮説立てていく。そしてその時に、自分の仮説と合っている部分と違う部分を確認していく。

仮説というのは読者の反応ですね。想像した読者の反応と合っているか、違っているかというのを分けて分類していく。その結果、作り手が作りたいモノを作って読者が熱狂するという最大公約数の部分を大きくするように、編集の赤の部分を入れていくんです。

小林 それでは残り15分なので、会場の参加者からの質疑応答をしてもよろしいでしょうか。質問をしたい人はいらっしゃいますか。ではエゴンゼンダーの小野さんどうでしょうか?

不安の対処方法

質問者1 先ほど、プロフェッショナルがメンタルにおいて三つ特徴があるというお話がありました。その内で、不安に対処する術を持っているとのことでしたね。そこは結構、意外と共有されていない。

みなさん、特に経営者の方々とか、アスリートの方とか、どうやって不安に対して個人的に対処されているのでしょう。そこを伺いたく思います。

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小林 石川さん何かありますか? ちなみに僕は、NHKの『プロフェッショナル』はずっと見ていました。そして、医者のシリーズをよく見ていて、山高さんのシリーズがあるのですが、「不安は突き詰めると自信に変る」と言って、本当にそのようなストーリーなのです。

行き着くとここなのだな、と思いました。ぜひご覧になられるとわかると思いますが、徹底した準備をしていくと、自信に変ってゆくということは言っていましたね。

石川 だから、NHKの『プロフェッショナル』を見ろ、と。

小林 医者とか、人の命に関わるような職業は、かなり不安だと思うのです。死んでしまうかもしれないのですから。あれを乗り越える姿を見るのは、非常に経営者にとっては良いのではないかと思うので、オススメします。

佐藤 経営していて、不安に苛まれるというのは当然たくさんあるのですが、まず前提で言うと、「不安をなくそう」というふうには考えないです。ゼロにしようと戦おうとすると、どうしても不安が「邪魔なもの」になっていく。

心の中の心象風景で言うと、心の中にちゃんと「不安くん」のいる部屋を作ってあげて、そいつに部屋から出て行けとは言わない。ちゃんとそいつ用の部屋があって、不安くん用の部屋がある。すると、たまにソイツがドアを開けて出てくるので、その不安君と対話する。そして、その不安君は一通り対話すると部屋へ戻っていくのですね。そういうもんだ、と思う。そういうふうに心の中に住んでいるもので、同居しながら上手くやっていく。シェアハウスのように。

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為末さんと一緒にオフィスをシェアしているのと同じです(笑)まず、そのように概念で捉える。それから、もう少しフィジカルに落として行くと、寝て忘れるというのが一番です。運動と睡眠で忘れるというのは、やはりあるかな、と。

かなり深い不安でない限りは、その二つで相当なくなってしまいます。あとは、仕事で解決するという手もあります。例えば、Aという事案に対して発生する不安だったとする。

その時、やはり仕事というのはAという事案以外のたくさんのプロジェクトなりビジネスの塊でできているので、BとかCとかDとかをたくさん頑張る。実はマインドシェアで言うと、Aという事案が不安の98%を占めているのだけれど、客観的に時間配分で見てみると3%くらいだったりする。

簡単に言うと、どうってことないことで悩んでいるのです。時間の大半を使っているその他のことの方がメインなのに、98%のマインドシェアを時間配分3%のどうってことないことに囚われて不安を増幅させているので、残りの方の割合をどんどん増やしていって、自然と忘れてしまう。

石川 子供が1人だけだとすごいいろいろ不安だけれども、何人も子供がいたら「まあ、いいか」となります。そういう感じですね。

佐藤 だから、忘れるためのメカニズム。人はどうやって忘れていくのだろうということをちゃんと学習して、フィジカルに落とし込んでいったり、仕事の、タスクのマネジメントですが、自分が何の時間に何分使っているかということを棚卸しして、不安のマインドシェアを下げていくようなプロセスで組み立てていく。そういうことをしています。

小林 そもそも不安とは何かと言えば、不確実性の部分でしょう。ですから、それをすべて細分化していくと、何が不確実なのかというものがわかってくる。

例えばこういうイベントもそうなのですが、スピーカーが100人もいると、どうやって誘導するのかみたいな話になりますでしょう。

しかし、スピーカーの名札にセッションの番号がついているのです。「1B」とか。すると、自分が何処へ行ったらわかるというのが自分で判断できるから行ける。

誘導方法は当初不安なのですが、「だったらどうすれば良いのか」と考えて行けばそこへ行き着く。裏面を見るとスケジュール表が書いてあるとか。全部僕が作りました。

佐藤 行動によって払拭されるという話ですね。

小林 そうです。行動が確実なものの領域を増やしていく。だから、医者の話もそうなのですが、準備をしていくと不安の要素が消えていくということです。

石川 なるほど。不安とか恐怖も、よくよくその正体を見れば、単に「新しくて、複雑で、予測不可能なだけ」と考えられます。そういうことがわかれば対処しようがありますね。

小林 そう。わかれば対処できるようになるので、考えていけばわかるということなのだと思います。

佐藤 あとは、不安が解決された時の状態を想像するというようなことをやっています。「こんな大変な問題が起きてしまってどうしよう」と思う一方で「これを解決できてしまったら俺はヤバイぞ」というように。

解決できて「めちゃくちゃイケてる自分」の状態を想像して、この不安、この問題と向き合うのは楽しくてしょうがないという状態にしてしまう。

小林 その楽しさがイメージできるから、大きな困難へ飛び込んでいくのではないですか。

石川 なるほど!

佐藤 ですから、それをもう出してしまうのです。口に出したりとか、文字にしてしまったりとか。

石川 京セラの稲盛さんが「楽観的に構想し、悲観的に計画し、楽観的に行動せよ」という話をしていて、多分そうなのだと思うのです。構想はもうすごく楽観的に楽しくして、実際不安に対処する時にはものすごく悲観的になって、そして楽しく行動する。

楽観のサンドウィッチということですね。不安というものを楽観でサンドウィッチにしてあげるといいと。

「学問を創る」ことは「カオスからゼロを創り出す」こと

小林 他に質問がある方はいますか。最後にもう一問くらい行きましょう。それではカッチャマン(勝屋さん)。

石川 カッチャマン!?(笑)

小林 ええ。書き起こした時にカッチャマンと出ますので。

質問者2 それは嬉しいです。石川さんにお聞きしたいのですが、例の2日間の面白い研修の話がありましたでしょう。そこで、一番最後にこうあるべき、こうありたい自分というのは、それぞれの参加者は出されるのですよね。そこで石川さんご自身はどういうことが出てきたのでしょうか。差し支えなければ教えてください。

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石川 多分このICCのコンセプトである「共に産業を創る」というのに近いと思うのですが、産業というのは基本的に学問がまずできて、その後に産業ができると思っています。

僕ら研究者の評価は、「新しい学問を創れたか?」が全てです。要は、人類の知に貢献できるか否か。貢献できなかったら生きた意味がないといえます。

だから、僕は毎日寝る前に「今日は人類の知に貢献できたかな」と考えるのですが、いつも「今日もできなかった」という絶望の中で眠ります(笑)。僕は、明日も生きていると思っていない人間なので、焦ってしまうんですね。

でもそうやって絶望しても、寝るとすっかり忘れる(笑)朝起きて、「よし、今日も知に貢献するぞ」となる。

また「学問を創る」を別の言い方をすれば、「カオスからゼロを創り出す」というのが僕らの仕事です。「ゼロ」を創ってしまえば、後は「イチ」を作ってくれる人がいますから。

そのカオスからゼロを創るというのは、要するにルネッサンス(「再生」「復活」を意味するフランス語)ですね。そういうのを僕は目指しています。

小林 この楽しい会話もあと5分です。最後、まとめのメッセージをお願いします。佐藤さん、出雲さん、最後それを石川善樹さんにまとめていただいて、人類の知に貢献したかを最後にお願いします。それでは佐藤さんからお願いします。

奇妙キテレツな人にたくさん会うという人生は素晴らしい

佐藤 自分が喋るよりも聞いている方が楽しかったです(笑)先ほど、違う職種の人とたくさん会うという話が出ていましたが、僕は職種も、職業のラベルもどうでもよくて、とにかく奇妙キテレツで面白いヤツにたくさん会うというのが、自分のクリエイティビティを刺激して、器を磨いていく上で重要だなと普段から感じています。

今日も相当奇妙キテレツだと。石川さん出雲さんという登壇者の方々からも、それはかなり感じていたのですが、やはり小林さんはかなり変だな!ということが分かりました(笑)

今日もとても良い瞬間の連続でしたし、改めて、奇妙キテレツな人にたくさん会うという人生は素晴らしいということを学びました。

小林 ありがとうございます。それでは出雲さんとしてと、それからミドリムシとしての学びもお願いします。

異分野との「コミュニケーション」と「コ・クリエーション」の大切さ

出雲 いや、ミドリムシは学習という概念がないのです。遺伝的アルゴリズムに則って、環境の変化にもっとも正確に対処した種が残るようにというのが遺伝的アルゴリズムの良いところと悪いところなのです。

ですから、学習能力の多い少ないによって生命の危機に晒されないようにと、工夫の結果になっているのです。よって、私の学びを報告させていただきます。

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5つのまったく違った分野の仲間、これが大事だというお話がありました。ただ、私からすると同業の人など一人もおられない。「いや、私もミドリムシをやっているのです」というビジネスパーソンに一度も会ったことはありませんから。

こういう場に来ると、私の専門とは違う仕事をしている方と一気に会えるので、私にとっては5人とか5つの分野どころではなくて、10、20、30人と会った人だけ、まったく違ったことをしていて、新しいことを教えていただける。

こういうイベントに参加して学ばせていただく意義というものがどこにあったのかというのが、今日非常にクリアになったのが一番ありがたいことだと思いました。

逆の立場で言えば、みなさんからすると例えば4つ異分野があって、もう一つ異分野を増やそうとした場合には、ミドリムシは非常に手っ取り早い異分野だと思いますから、ぜひ積極的に声をかけていただいて、お互いの協力、コミュニケーションを通じて共創、コ・クリエーションに繋げていけたらという思いを強くしました。

小林 ICCのロゴの旗も5つありますからね。出雲さん、ありがとうございます。それでは石川さんにまとめていただいて、研究分野と絡めて人間の知に貢献したか否かというところに繋げてもらえばと思います。

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石川 まず、僕らは100年は生きる時代に生きていて、個人としても組織としても長く繁栄しなければならないのですが、やはり学習するスピードの早い個人や組織というものが長く繁栄するということが知られています。

では、どうやって学習すると早く学習できるのか。それは、その分野の第一人者と友達かどうかに尽きるのです。

やはり、人から学ぶのが一番早い。僕らで言えば、教科書を読むより、教科書を書いた人に会った方が早いのです。そして、こういう場というのはまさにその分野の第一人者がいるので、出会って学ぶことで学問なり産業が生まれてくる。

そういう多様な人が集まっているのが本イベント(ICC)だと思いますし、ぜひこれからどういう産業なり学問がうまれてくるか、楽しみです!

小林 それでは時間になりました。このセッションは非常に刺激的だったと思いますが、ICCらしい良いセッションだったと思います。どうもありがとうございました。

石川 ありがとうございました。

佐藤 ありがとうございました。

出雲 ありがとうございました。

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(完)

編集チーム:石川 翔太/小林 雅

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