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3. 人の思考を変えた産業革命、宗教改革、世界大戦…それと酷似する現在の状況とは

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「大人の教養シリーズ 人間を理解するとは何か?(シーズン6)」全8回シリーズ(その3)は、引き続きCOTEN深井さんによる、歴史が教える近い将来、人間の社会に起こる変化について。ギリシア哲学が興った時、宗教改革、産業革命が興ったときと同じ状況が現在あるといいます。今まで私たちが信じていたイデオロギーは正しいのか? 社会の変化を肌身に感じている人は必見です。ぜひご覧ください。

ICCサミットは「ともに学び、ともに産業を創る。」ための場です。そして参加者同士が朝から晩まで真剣に議論し、学び合うエクストリーム・カンファレンスです。 次回ICCサミット FUKUOKA 2022は、2022年2月14日〜2月17日 福岡市での開催を予定しております。参加登録は公式ページをご覧ください。

本セッションは、ICCサミット KYOTO 2021 プレミアム・スポンサーのリブ・コンサルティングにサポート頂きました。


【登壇者情報】
2021年9月6〜9日開催
ICCサミット KYOTO 2021
Session 2B
大人の教養シリーズ 人間を理解するとは何か?(シーズン6)
Supported by リブ・コンサルティング

(スピーカー)

石川 善樹
公益財団法人Well-being for Planet Earth
代表理事

井上 浄
株式会社リバネス
代表取締役副社長 CTO

北川 拓也
楽天グループ株式会社
常務執行役員 CDO(チーフデータオフィサー) グローバルデータ統括部 ディレクター

深井 龍之介
株式会社COTEN
代表取締役

(モデレーター)

村上 臣
リンクトイン・ジャパン株式会社
日本代表

「人間を理解するとは何か?(シーズン6) 」の配信済み記事一覧


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最初の記事
1. シーズン6突入! 前シーズンまでの「人間の理解」を振り返る

1つ前の記事
2.COTEN深井 龍之介の主張「3つの条件」が揃うと人間は哲学的になる

本編

ギリシアが危機の時、アリストテレスが現れた

深井 ギリシア哲学が興った時はどうだったかに触れましょう。

さっき村上さんがおっしゃったように奴隷がいて、彼らが全てやってくれていたので、アテネの市民は、戦争時以外は暇です。

そして、暇であることが美学で、それが彼らにとって大切なことでした。

北川 めちゃくちゃ良い時代ですね。

深井 ですよね(笑)、労働しているのは良くないという時代でした。

アテネは学術都市だったので、あらゆる都市から色々な人が集まってきました。

例えば、アリストテレス(※)も実は外国人で、アテネ人ではないのです。

▶編集注:ソクラテス、プラトンとともに西洋最大の哲学者の一人とされる。知的探求つまり科学的な探求全般を指した当時の哲学を、倫理学、自然科学を始めとした学問として分類し、それらの体系を築いた業績から「万学の祖」とも呼ばれる。

色々な国から色々な考えを持ってきた人が集まって、ここで日々議論をしていました。

村上 各地から、面倒くさい人たちが集まってきていたということですね(笑)。

深井 ここが大事なのですが、アテネではこの2つの条件はずっと揃っていたのですが、3つ目の条件である危機感が揃った時、アリストテレスが現れたのです。

それが何だったかと言うと、大国ペルシアがギリシアに攻め込んできたので、「このままだと自分たちは滅ぼされてしまう」と思ったのです。

村上 やばい、と。

深井 その時、彼らは急に考え始めました。

「そもそも僕たちは、このままでいいのだろうか?」という問いを持ち始めたのです。

そして、どんどん哲学的になっていくのです。

北川 深井さん、例えばアリストテレスの思想としては、どういうことをしてペルシアに対抗しようとしたのでしょうか?

深井 面白いことに、ペルシアが攻めてきた時、ペルシアに対して何かしなければと考えるのではなくて、そのもっと前の段階に戻るのです。

つまり、「そもそも人間とは何だっけ、人間はどうやって生まれたのか、植物は何なのか」というような段階です。

北川 面白い! いきなり認知的勝利を獲得しようとしたわけですね。

深井 そのとおりです!

北川 物理的に活かすかどうかは分からないけれど。

深井 ペルシアに攻められている時は死ぬか生きるかの状態ですが、危機感を感じるのは、攻められて終わったあとや、ギリギリ勝てた戦いの後などですね。

そういう危機感が残っている時に、哲学的なことを考えるのです。

村上 死を身近に感じたから、というのはありますよね。

深井 そうですね。

村上 宗教ではよく、死んでしまっても天国があるという考え方がありますが、死の恐怖を克服するために超メタ認知を進めないと正気を保てなくなってしまう、みたいな感じですね。

深井 正気を保つためという背景もあるのですね。

村上 だって怖いじゃないですか。

宗教改革、フランス革命の場合

深井 次に、宗教改革の時はどうだったか。

実際に宗教改革を牽引したのは、聖職者です。

聖職者は比較的暇で、聖職者ではない人は暇ではないのです。

ですから、聖職者ではない人は哲学的になっていません。

この変化は個人に起こる、という話とつながります。

そして当時、カタリ派、ワルドー派、ヤンフスなど、異端者がたくさん出てきました。

彼らが、既存のキリスト教会(ローマ・カトリック)の考え方に疑問を呈するようになり、それに触発された人たちが「自分たちは何なのだろう」と考え始めるという状態になったのです。

そして危機感ですが、キリスト教による支配をこのまま続けてはいけない、と思ったのです。

これら3条件が揃い、ルターや、イエズス会を創ったイグナティウス・デ・ロヨラ、コロンブスらが出てきました。

まあ、コロンブスは思想家ではなく、大陸に出ようとした人ですが。

フランス革命の時は、貴族ではない新しい階層に属するブルジョワジーが出てきます。

彼らは商業的に成功した人たちですが、彼らが現れた背景にあるのは、この時代の直前に実現した農業生産性の向上です。

つまり、ご飯が不自由なく食べられるようになり、金持ちになり、暇になっていたのです。

啓蒙思想が登場し、ホッブズやジョン・ロック、ルソーらにより、色々な新しい考え方が生まれました。

啓蒙思想(世界史の窓)

しかし税金を取られすぎていたのでみんな、このままだとやばい、王様がもっと税金を取るだろうという危機感があったのです。

そこで、「なぜ王政があるのだろう」と考え始めました。

産業革命、世界大戦を経て考え方が多様化

村上 結局、人民が幸せになるためにはどうすれば良いかということですね。

深井 はい、「僕たちには人権があるよね」という新しい概念が生まれたのです。

そしてこの時期に、ニュートンやアダム・スミスなどが生まれました。

ニュートンの万有引力(天文学の歴史)
アダム=スミス(世界史の窓)

次に、19世紀のヴィクトリア朝期とは、イギリスだけではなくヨーロッパ全体を指します。

産業革命の直後だったので、ヨーロッパ全体が豊かになり、みんながご飯を自由に食べられるような時代になってきていました。

考え方は、かなり多様化していました。

宗教的に説明する世界に科学が初めて生まれ、科学的説明に入れ替わっていった時代で、人の考え方も、それらに触発されていました。

そして国際的には列強同士が争っていたので、自分たちが普通に生きているとしてもいつか負けるかもしれない、という危機感があったのです。

この時、マルクスキルケゴールダーウィンフロイトなど、皆さんもご存知の思想家が大量に現れました。

村上 ニーチェもですね。

深井 直近の1950~60年代も、新たな思想が出てきた時代だと思います。

レヴィ=ストロースサルトルウィトゲンシュタインラカンなどが出てきた時代です。

世界大戦の間は生きていくのに必死なので思想は育ちませんが、大戦が終わり工業化と近代化が世界的に加速し、世界的に豊かになりました。

また、マスメディアが浸透して新しい考え方がどんどん入ってくるようになりました。

そして危機感としては、資本主義に対抗する共産主義が現れました。

今の僕たちは共産主義がどうなったかは過去の事実から分かっているので、その是非について議論ができますが、この時代の人々はまだ、共産主義の方がいいかもしれないと思っています。

ですから、自分たちのそれまでのイデオロギーが正しいのだろうか、という強い危機感があり、結果、思想が育ちました。

現在は新たな思考が進む「3条件」が揃っている時代

深井 最後に現在ですが、実は現在も3条件が揃っているというのが、今日僕が言いたかったことです。

村上 後から現在を振り返ると、すごい思想家が出てきた時代になるだろうということですね。

深井 そうです。

ラカン(フランスの哲学者)やウィトゲンシュタイン(オーストリアの哲学者)が現れた時代(※)に匹敵する時代になると思っています。

▶編集注:20世紀、論理実証主義、分析哲学、現象学、実存主義、ポスト構造主義など、多くの新たな学派が発展

北川 彼らはどういったことを提言したのですか?

深井 人によってまったく違います。

そこも面白いところで、共産主義が出てきて危機感があるからと言って、みんなが共産主義について考えているわけではなく、それに触発されて、思考が進むということが起こるようです。

3つの条件が揃うと、このように新しい思考が進むのです。

「3条件が揃わないと、新しい思考は進まない」という点が、僕は面白いと思いました。

石川 例えばレヴィ=ストロース(フランスの社会人類学者)は、『野生の思考』という、原始的な生活をしている人たちにもしっかりした文化や文明があるという考え方を提唱しました。

「文明が遅れている人たちではなく、異なる考え方を持つ人たちである」と考え、文化人類学という学問を開いた人です。

北川 そうなんですね。

村上 思考の新しいOSが出てくるということですかね。

今までも話していたことだけど、新しいフレームワークで考えたらどうなるか、という…。

深井 レヴィ=ストロースの例で言うと、それまでは、列強が自分たちより劣っている文明を支配しているという考え方でした。

しかし、「劣っているのではなく、タイプが違うだけだ」という解釈にし直したのがレヴィ=ストロースです。

レヴィ=ストロースだけではなく、他の人も全員、そういう捉え方の変化を提唱しています。

メインストリームではないところから思想家が現れる

井上 ちなみにこういう方々が出てきた時、当時はどう見られたのでしょうか?

北川 確かに。

井上 明らかに変態ですよね(笑)、彼らの言っていることが他の人には分からないのではと思うのですが…。

現代に当てはめると、今、訳の分からないことを言っている人たちが歴史に名を残していくというわけですか?

深井 そうなんですよ。

ほとんどの場合、そういう人たちは権威づけられたところからは現れていません。

ジョン・ロックもそうだし、例えばニュートンは造幣局に勤めていた人で、大学から出た人ではありません。

ですから僕たちのような起業家の中から思想家が出る、という状態とあまり変わらなかったということです。

北川 なるほど。

深井 色々なところから出てきて、彼らは比較的その時代に認められています。

村上 メインストリームではないところから出てきているということですね。

深井 メインストリームにいるのは、旧思想家と語り合うような人たちです。

そこではない、違うところから出てきて新しいことを言い始めます。

この3条件が揃わなければ、それが起こりません。

個人的能力ではないということです。

その人の頭が良かったからではなく、条件が揃ったから起こったのです。

これが、僕が人間とは何かについて考えて、一番面白かった気づきですね。

村上 なるほど、ありがとうございます。

では深井さんの話を踏まえて、(井上)浄さんに話してもらいましょう。

(続)

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編集チーム:小林 雅/星野 由香里/浅郷 浩子/戸田 秀成/大塚 幸

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