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2. 人間を理解するヒントは、京都の『洛中洛外図』にあり!?

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「大人の教養シリーズ 人間を理解するとは何か?」7回シリーズ(その2)では、複雑な人間を理解するための糸口を石川善樹さんが『洛中洛外図』に求めます。京都の街を俯瞰した絵画の一体にどこに、そのヒントが隠されているのか? キーワードは「大局観」です。ぜひご覧ください!

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ICCサミットは「ともに学び、ともに産業を創る。」ための場です。毎回200名以上が登壇し、総勢800名以上が参加する。そして参加者同士が朝から晩まで真剣に議論し、学び合うエクストリーム・カンファレンスです。次回 ICCサミット KYOTO 2019は2019年9月2日〜5日 京都市での開催を予定しております。参加登録は公式ページをご覧ください。

ICCサミット FUKUOKA 2019のプレミアム・スポンサーとして、Lexus International Co.様に本セッションをサポート頂きました。


【登壇者情報】
2019年2月19〜21日開催
ICCサミット FUKUOKA 2019
Session 2F
大人の教養シリーズ 人間を理解するとは何か?
Supported by Lexus International Co.

(スピーカー)

石川 善樹
Campus for H
共同創業者

井上 浄
株式会社リバネス
代表取締役副社長 CTO

岡島 悦子
株式会社プロノバ
代表取締役社長

北川 拓也
楽天株式会社
常務執行役員 テクノロジーディビジョン CDO (Chief Data Officer)

(モデレーター)

村上 臣
リンクトイン・ジャパン株式会社
日本代表

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1つ前の記事
1. 諸科学は万物をどのように「理解」しているか? 自然科学・社会科学・人文科学で異なる“理解の作法”

本編

石川 「理解する」ということを、この3つ(次スライド参照)に分けてみました。

とはいえこれは抽象的な話で分かりにくいかもしれないので、「人間のように複雑なものを理解するとは何か?」ということをシンボリックに表していると思うのが、『洛中洛外図』(※)です!

村上 当然そうだよね(笑)。

井上 やっぱり、僕もちょうどこれを言おうと思ってました。

石川 でしょう!?(笑) 洛中洛外図を知らずして「人間を理解しよう」などと思うなよと!

村上 今みんな頭のなかに『洛中洛外図』が浮かんでますもんね。

井上 あの図ですよね。

村上 そう、あの図ね。

石川 これです!

北川 拓也氏(以下、北川) 初めて見たよ!

岡島 いいね、そのリアクション(笑)。

(会場笑)

洛中洛外図に学ぶ「大局観」とは?

写真左から、村上氏、石川氏、井上氏

村上 よく見るとこれ、細かく描き込まれていますよね。

石川 そうなのです。

ただ非常に細かいのですが、実は絵のほとんどの部分が「雲」で覆われています。

▶︎編集注:『洛中洛外図』は京都の市街地 (洛中) および郊外 (洛外) の様子を俯瞰的に描いた都市風俗図の総称。室町時代末期に成立し、江戸時代初期にかけて盛行し、複数の作品が現存する。ここでは米沢市上杉博物館に所蔵される国宝『上杉本』が紹介されている。上記は、そのうち『右隻』と呼ばれる京都東方面を描いたもの。

石川 これはつまり、「京都とは何か?」ということなのです。

井上 えっ、今すり替えたでしょ!?

(会場笑)

石川 それは言わない約束です!(笑)

この「京都とは何か?」という問いも、非常に複雑なのです。

この絵の中では、洛中洛外という全体像を描きつつ、京都を象徴するディテールも描いています。

しかし、ディティールを全て入れ込んでしまうと、もう訳が分からなくなりますよね。

村上 そうですね。

石川 だからこそ、その「間」としてこの雲を用いることによってごまかしているのです。

つまり、「Big Picture⇔間⇔Detail」の関係こそが、俗に言う「大局観」なのです。

岡島 なるほど。

石川 これを身につけることができれば、人間の理解に近づけるのではないかと思います。

村上 なるほど!

石川 一昔前はロジカルシンキング、最近はアートや直感が大事だと言われますが、そのどちらでもなく、大局観が大事だと思います。

村上 ありがとうございます。

ではここからは、この洛中洛外図をもとに話を進めていきたいと思います。

「人間とは、Zである」?

井上 ところでこれ、本当に絵のほとんどが雲ですね。

村上 この時代の日本には隠したり、チラ見せしたりして、想像力で補完させるような、読み手の想像力に委ねた作品が多いですよね。

これは、東洋と西洋のフレームの違いに近いのではないかと思います。

例えば日本の俳句や短歌などは、読み手に想像力や教養があることが前提で、コンテクストが共有できているからこそ、体験も共有できるということです。

でもグーグルがこの図を作ったとしたら、ズーム機能でどれだけ拡大しても小さなサッカーボールまで判別できるような、高解像度のものを作ると思います。

「Google Earth」がそうですよね。

これは両者の思想の違いで、神が全てを創ったのだから万物は把握できる、という西洋的な思想と、そもそも神が何人いるか分からないという日本の思想の違いではないでしょうか。

ですから、今話している「人間を理解する」手法は、日本や東洋的思想に基づいていると思います。

我々は日本で生まれ育っているので、この考え方をベースに人間を理解していきたいですね。

北川 大局観に関していうと、時系列についての大局観も存在しますよね。


北川 拓也
楽天株式会社
常務執行役員 テクノロジーディビジョン CDO (Chief Data Officer)

ハーバード大学で数学と物理学を専攻し、同大学院物理学科博士課程を修了。物性物理の理論物理学者として、『Science』、『Nature Physics』、『Physical Review Letters』などの学術雑誌へ20本以上の論文を出版。その後、楽天でデータサイエンスの組織を立ち上げ、現在、CDO(チーフデータオフィサー)としてグループ全体のデータ戦略と実行を担い、インドやアメリカを含む海外拠点の組織も統括する。2017年に設立された楽天データマーケティング株式会社では取締役を兼任。データ基盤作りや科学的な理解に基づく顧客体験の提供、広告事業の立ち上げ、データによるビジネスイノベーションなどを推進している。

例えば村上隆さんも、日本画というのは三次元で観るもの、つまり絵自体は平面で二次元だけど、そこに“目の動き”が加わるので三次元になるというようなことを言っています。

日本画には、確かに左上から時系列を追って描かれている作品もあります。

人の目が自然に追えるような速さで、時間表現をしているのです。

岡島 人は「Z型」に、つまり、左上から見始めて右に移り、左下に進んでから右下に目を動かす、「Zの法則」ですね。

北川 まさにそうです。

石川 コンビニの陳列も、Zを意識していると言いますよね。

岡島 PowerPointの資料を作る時もそれを意識すべきだと言われます。

村上 人が何かをパッと見た時、大局観を得るためにする動きが、Zなのでしょうね。

石川 1つ出ましたね、「人間とは、Zである」と。

(会場笑)

村上 早い(笑)!

石川 結論にすぐに飛びつきたがる習性がありまして(笑)。

井上 今日は早く結論が出ましたね~。

村上 例えば書道の世界では、文字を紙の真ん中ではなく、少しだけ上に書くらしいです。

絵の配置も通常、目線よりも上に配置するのが良いようです。

岡島 プレゼンの時、スクリーンの下の部分が見にくい話も関連がありますか?

村上 そうかもしれません。プレゼン資料も、ど真ん中ではなくて少しだけ上の位置に文字や図を配置すると見やすいみたいです。

岡島 石川さんにお聞きしたいのですが、そもそも、なぜ『洛中洛外図』を選んだのですか?

この絵が大局観を表すということはよく理解できたのですが、どうやってこれに辿り着いたのでしょう?

石川 絵画のことを考えていて、西洋絵画は画面いっぱいに要素を詰め込んでいると感じたのです。

岡島 隙間がないですよね。

石川 写真も同じで、例えばスーパーの棚にたくさん物が並んでいる有名な写真(※編集注:ドイツの写真家アンドレアス・グルスキーによる『99 Cent II Diptychon』)に、3億円の価値がつくこともあります。

▶参照:歴史上、最も高額な写真ランキングトップ20(ailovei)

それに対して日本画は、余白があるというか、画面全てを使いません。

そこでこの「塗っているんだけど、塗っていない」この絵を思い出したのです。

村上 なるほど。

人を理解する時には近似を使おうということですが、次に「近似とは何ぞや」という問いが出てきますね。

石川 良いですね~。

社会における「近似」とは「グルーピングの行為」

村上 例えば、「あの人とあの人は似てる」や「私たち、似てるよね」というコミュニケーションは、よくありますよね。

リンクトイン・ジャパン株式会社 日本代表 村上 臣 氏

そういったコミュニケーションは、どこから来てるのだろうかと思うのです。

ちょうどここにいらっしゃる澤円さんと僕は、UIが似ています。

(一同笑)

石川 髪の毛のふわふわした感じがね(笑)。

村上 また、似たような色やカバンが好きというのは、その人を理解する一助になると思います。

ファッションというのは、ある意味、社会に対する自己アピールでもありますよね。

岡島 グルーピングをする力に近いのでしょうか。

実は私は、気持ち悪い子どもでした。

個人情報保護法がなかった時代、子どもの頃の趣味は、学校からもらう名簿をじっくり読むことでした。

村上 本当に気持ち悪い子どもですね(笑)。

岡島 私の人好きはこの頃から始まっています。

例えば、『親の職業が歯医者だったら、横浜にプール付きの家が買える』など、職業と生活のアルゴリズムに興味があったのです。

村上 『親が社長だと、おやつに生菓子が出てくる』とかね(笑)。

岡島 そうそう、『三人兄弟の真ん中だと、こういう性格になる』とか。

小学校6年間で毎年120人、つまり720人分のデータが手元にありました。

それをひたすら見ていたので、最終的には親に取り上げられましたね(笑)。

子どもの頃から、グルーピングをしながらアルゴリズムを見つけるのが好きだったのです。

「近似」にはその人の経験・知識・センスが表れる

株式会社リバネス 代表取締役副社長 CTO 井上 浄 氏

石川 研究の世界においては、西洋人は物事を分解して考えるという特徴がある一方、東洋人の場合、Aという研究対象があるとすると、Aそのものは分解せず、Aに似たBやCという近似事項を挙げていく傾向があると聞きました。

村上 井上さんは、僕から見れば同じにしか見えないバクテリアのようなものを分類する専門家ですよね?

井上 僕はどちらかと言えば、ゴリゴリに分解するタイプですね(笑)。

ただ、近似に関して思うのは、その人その人の経験によって見える近似は変わるのではないかということです。

石川 そうですね。

井上 例えば僕は、リンパ節(※)が大好きです。

▶︎編集注:リンパ節とは、哺乳類の免疫器官の1つ。非自己異物がリンパ管を介して血管系に侵入するのを防ぐ免疫応答機能をもつ。

岡島 色んなフェチがあるね(笑)。

井上 風邪を引くと、耳の後ろあたりが腫れますよね。

リンパ節には免疫細胞が詰まっていて、リンパ管や血管が出入りしています。

全身にあるリンパ節はいつも免疫細胞たちで大渋滞していて、彼らがバクテリアなどをやっつけているわけです。

僕は、東京の満員電車に乗っていると、これと全く同じ状況だなと感じるのです。

一同 あ~。

井上 例えば駅のホームから階段を降りようとすると、人が逆方向からどんどん昇ってきて、「あ~リンパ節そっくり」「あ〜そういえば、リンパ管である電車に乗ってきたんだった」と思うわけです。

普通は、そういう風には思わないでしょ?

石川 思わないですね(笑)。

村上 東京という大都市が、生物のように感じられるわけですね。

井上 そうです。そう感じるのは、僕自身の経験からですよね。

ですから、個人個人の経験や持っているストーリーによって、思い浮かぶ「近似」は変わってくるのではないでしょうか。

おそらく、今のリンパ節の話は、共感してくれる免疫学者は多くいると思います。

そう考えると、分解というのは誰もが納得するような論理が導き出せるかもしれませんが、近似の場合、個人個人の持つ情報と知識をベースに話が進むわけです。

石川 そうですね。

分解は誰が行っても同じ結果になりますが、近似はその人のセンスによりますね。

井上 そういう違いもあるなと考えていました。ただ、僕は完全に、分解して理解するタイプです(笑)。

空気を読む日本人の起源は「和を以て貴しとなす」

(写真右から2人目)株式会社プロノバ 代表取締役社長 岡島 悦子 氏

岡島 東洋をバックグラウンドに持っていると、グルーピングが上手だと言われますよね。

石川 そうですね。それから、いわゆる「空気を読む」という文化があります。

ボストンコンサルティンググループのシニア・アドバイザーである御立尚資さんは、本社におけるパートナー経営会議で、「御立はずるい」とずっと言われていたようです。

というのも、世界中から色々なバックグラウンドを持つ人たちが集まる会議においては、基本的に相手が何を言っているのか分からないものですが、御立さんだけが唯一、みんなの気持ちを理解できたからです。

村上 なるほど。

石川 要所要所でそれを発揮して、場を取り仕切ることができるので、「ずるい、なぜ相手の言っていることが分かるんだ」と言われたということです。

村上 それは面白いですね。

北川 「選択と集中」という西洋的なビジネスモデルがある一方、楽天やアリババのように、多くの事業を統合する「経済圏」という考え方によるビジネスモデルが成り立つのは東洋ならではだと感じます。

このビジネスモデルの場合、和を創らなければいけないので、手間がかかるといって西洋では敬遠されますね。

自分の力が及ばないところに影響力を及ぼそうとするのは大変だ、と感じるみたいです。

東洋人が得意とするビジネスモデルが生まれてきているのは面白いですよね。

石川 「和を以て貴しとなす」が、日本における、最初の憲法の考え方(※)ですからね。

▶編集注:「和を以て貴しとなす」は、聖徳太子が制定した『十七条憲法』の第一条に記された言葉。

そうなるのは、“中心にいないから”ではないでしょうか。

そもそも日本という名称は、日の本(もと)で、つまり太陽が昇る方角=「東」という意味です。

何に対して東なのかというと、中国に対してです。

ですから、日本という概念自体が、「我々は端にいる」という考え方から成っているわけです。

村上 Far Eastですよね。

石川 端での戦いを強いられているですから、「和を以て貴しとなす」しかないのです。

北川 人間というのは遺伝子的にも、Individualism(個人主義)とCollectivism(集団主義)の2つのタイプに分けられるとする研究結果があります。

▶参照:Chiao JY & Blizinsky KD:Culture-gene coevolution of individualism-collectivism and the serotonin transporter gene. Proc Biol Sci, 277:529-37, 2010

「過去10年間において、あなたにとって最も大事な出来事は何でしたか?」と聞くと、西洋の人は大抵、自分が成し遂げた一番大きなことを話します。

一方、東洋の人は、最も大きな影響を受けた出来事や人のことを話すのです。

岡島 面白いですね。

東洋思想というのは、真ん中に空洞がある、つまり核になるのは自分自身ではなくて周囲であるという考え方なのでしょうね。

石川 どこかにある「中心」を探して、やれシリコンバレーだ、中国だ、と追いかけるということですね。

井上 ちょっといいですか、このペースで話していて人間を理解できるのでしょうか?(笑)

(一同笑)

村上 徐々に理解していますよ!

石川 そう!スピードは加速する一方です!

井上 いや、分解するタイプからすると、最後までに間に合うのかなと思って(笑)。

石川 大丈夫です!というか井上さん、今回は分解してはいけないですからね!

村上 大丈夫です、あと50分もありますから(笑)。

(続)

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続きは 3. 人間を理解するとは「受け入れる」ということ をご覧ください。

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編集チーム:小林 雅/花本 夏貴/上原 伊織/尾形 佳靖/戸田 秀成/大塚 幸

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