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3. 農業経営の難しさはPDCAサイクルの長さと変数の多さ

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「ITの力で農業ビジネスを変える」6回シリーズ(その3)では、seakの栗田さんが農業でも情報の非対称性がなくなっていくと話しています。農業×ITで、野菜の生育のデータが取れるようになり、ノウハウが生産者の間で共有されていくようになると考えていらっしゃいます。しかし、PDCAサイクルの長さとパラメータの多さが農業の進化を促進するうえでの難しい点だとも話しています。ぜひご覧ください。

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ICCサミットは「ともに学び、ともに産業を創る。」ための場です。毎回200名以上が登壇し、総勢800名以上が参加する。そして参加者同士が朝から晩まで真剣に議論し、学び合うエクストリーム・カンファレンスです。次回 ICCサミット FUKUOKA 2019は2019年2月18日〜21日 福岡市での開催を予定しております。参加登録は公式ページをご覧ください。

ICCサミット FUKUOKA 2018のゴールド・スポンサーとして、寺田倉庫様に本セッションをサポート頂きました。


2018年2月20-22日開催
ICCサミット FUKUOKA 2018
Session 5E
ITの力で農業ビジネスを変える
Supported by 寺田倉庫

(スピーカー)
菊池 紳
プラネット・テーブル株式会社
代表取締役

栗田 紘
seak株式会社
代表取締役社長

平林 聡一朗
株式会社ベジオベジコ
代表取締役

安田 瑞希
株式会社ファームシップ
代表取締役

(モデレーター)
岩佐 大輝
株式会社GRA
代表取締役CEO

「ITの力で農業ビジネスを変える」の配信済み記事一覧


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2. 野菜の価格や需要の情報を「見える化」して生産者に提供 (プラネット・テーブル)

本編

岩佐 では栗田さん、「ITの力で農業ビジネスを変える」というテーマについて引き続きお話お願いいたします。

栗田 少し抽象的に世の中の大きな流れで言うと、あらゆることが情報化されるということと、よりリアルタイム性が強まっていく、この大きな2つの流れがあると思っています。

そしてその2つが農業にもしっかり入ってくる局面にあるとプレイヤーとして感じています。

seak株式会社 代表取締役社長 栗田 紘氏

農業全体の課題というのは、情報の非対称性だと思っています。

例えば神奈川県と埼玉県でそれぞれ農業技術試験場みたいな所があって、それぞれ細かい研究や試験をしているのにもかかわらずそのノウハウが共有されることは基本的にありません。

まさに岩佐さんが取扱っているイチゴの「とちおとめ」でいうと、栃木県の「とちおとめ」という品種と福岡県の「あまおう」という品種においても情報やノウハウの断絶が起こっています。

ただ情報の非対称性がなくなっていくのが世の中のトレンドだとすると、農業もそうなっていくんだろうなと僕は思いました。

データとノウハウをネットワーク上でどのように農業のプレイヤーの間で共有していくか。

それこそITが農業にもたらす一番のインパクトだと思っていますし、僕はそこを意識しながら仕組みを作っています。

例えば苗の健康状態などを、どのように畑から取得して吸い上げて、学習や認識をして生育に活かしていくかということを、チャットや画像、センサーを一部使いながらコミュニケーションしています。

農業×ITという言葉自体はいろいろなところで聞きますが、僕らが求めている多くの機能がまだ出ていないというストレスを抱えています。

例えば土や植物の状態を診断する時、カルシウムイオンやカリウムイオンはとても重要です。

しかしこれが安価に通信できるセンサーは全くありません。なので、アナログでセンサーを使って何ppmと取って、入力して、データでもらっています。

まだ農業のITレベルはこの程度です。

そこで、センサーがコモディティ化して、APIを通じてリアルタイムで世界中の農業者のデータがここに集まってくる、そんな世界観を僕らがいち早く実現したいですし、それに向けて1つ1つ手を打っているところです。

なぜ、seakは農業のフランチャイズ化に取り組むのか?

岩佐 今、栗田さんは農業のフランチャイズ化に取組まれていますよね。

今までは行政が農業を育成する機能を持っていたので、民間でやるのは相当なチャレンジで尊敬に値します。

どうやったらそれをマネタイズまで持っていき、スケールするのか私自身がイメージできていないのですが、どうするのでしょうか。

写真奥からプラネット・テーブル 菊池氏、seak 栗田氏、ベジオベジコ 平林氏、ファームシップ 安田氏、GRA 岩佐氏

栗田 非常にしたたかな目線でいうと、先ほどの情報の非対称性というのは結局自治体の縦割りから来ているので、国や自治体が物理的構造として解決できないという問題があります。

例えば栃木県の人が「あまおう」の品種に関するノウハウをストックするということが、レギュレーションというか仕組みとしてできない状態になっています。

そこでポリティカルな動きではなく、民間がニュートラルにいろいろな人にアプローチをして、吸い上げるべきノウハウは吸い上げて、最適化して返していきます。

そこは民間だからこそできると理解しています。

岩佐 我々にもフランチャイズに向けて研修生がたくさん来ますが、「農業技術を学ぶのは普通無料なのに、なんでお金を取るの?」という声はありませんか?

栗田 僕らの研修は無料で、むしろ研修期間0日でどうすれば開始できるかというところがコンセプトです。ノウハウそのものにプライシングするというのは難しいと思います。

なので、意図的に場所や施設、栽培への資材、販売のすべてのサプライチェーンにマージンをかけるというモデルにしているので、あえてノウハウは意図的に0円に見えるような仕組みになっています。

seak株式会社 代表取締役社長 栗田 紘氏

岩佐 今トマトやキュウリを作られていると思いますが、最終的な買取りも全て自社で行い、販売されているんですか?

栗田 一応販路が握れた上で生産計画をかけていくという前提になりますが、菊池さんもおっしゃられたようにとにかく生産者が不足しているので、「あればほしい」という状態なんです。

僕らは高級スーパーという言い方をしていますが、例えば生協さんや生活クラブさんといったところもかなりの単価で野菜を買ってくれます。

彼らは全国に宅配センターを持っているので、宅配センターのそばに農地を確保すれば配送コストをかなり下げて、現地調達して、先ほど言ったようなリアルタイム性を高めて配送ができます。

ですので、セールス部分に関しては、菊池さんみたいに農業者がリアルタイムで取引できる仕組みになっていけばいいと思いますし、そんなに高いハードルではないと思っています。

農業の難しさはPDCAのサイクルの長さとパラメータの多さ

株式会社GRA 代表取締役CEO 岩佐 大輝氏

岩佐 私自身が感じるのは、なぜ農業とテクノロジーの相性があまり良くないのかというと、PDCAの回転サイクルが非常に長いからではないでしょうか。

例えばイチゴの場合、種付けから収穫が終わるまで20カ月かかります。

つまり1サイクル20カ月かかるので、全てのデータを取ったとしても数年で何サイクルしか回すことができない。そこが本質的な難しさだと思います。

栗田 まさにそうですね。農業はパラメーターが非常に多い産業と言われていて、パラメータをどう減らしていくかがまず重要です。

例えばビニールハウスの仕様が1つ違うだけで、パラメーターが増える。

窓の位置、幅、サイズとか、パラメータに寄与するかなり重要な要素です。

なので、ビニールハウスの仕様を標準化できるといいですよね。

そして岩佐さんが言われるような培地について。

畑に苗を植えるとなると、畑によって微生物層が全く違うので、再現性がゼロになります。

ですので、培地をユニフォーム化していく、均一化していくというのもすごく大事です。

そのボラタリティ(=変動性)をどう減らしていくかということ、対照実験をしていきながらデータの数を増やし、ノウハウ数を増やしていくという発想が必要になると思います。

岩佐 今の栗田さんのお話でポイントがいくつかありましたが、農産物の生産者不足は本当にあります。

おじいさん、おばあさんがどんどん引退しています。

あらゆる農産品はもちろん多すぎるものもありますが、生産量が緩やかに需要を下回ってきているという現状がありますね。

さてそろそろ皆さんベジリの登録も終わったかと思うので、平林さんお願いいたします。

「アプリで手軽に注文⇒1時間で届く」が支持されリピート率6割に

平林 僕は他の皆さんと違って、どちらかというと消費者サイド、つまり販売に特化して「農業×テクノロジー」というところでスタートしています。

そもそも野菜を買う方法はスーパーか宅配の2つですよね。

スーパーに買いに行かない人や、産地にこだわりたい人は野菜の宅配セットを頼みます。

ただ頼むのはかなり手間がかかります。会員登録をして毎回ログインをして、これとこれを注文して、届くのは1週間後です。

そして実際1週間後に冷蔵庫を開けると、意外と外食が多かったりすると野菜が余っていたりしますよね。

罪悪感や続けるのが面倒で結果、野菜を食べなくなる。

農家さんが野菜をいくら作っても売り先がないと意味がない。

株式会社ベジオベジコ 代表取締役 平林 聡一朗氏

そこで僕たちが重要視したのは、野菜を食べてくれるきっかけをいかに増やすか、つまり野菜を食べない言い訳をいかに減らせるかというところです。

「なぜ野菜を食べないんですか?」

「忙しくて(宅配を)受け取れないから」

「では、どうすれば受取ってもらえますか?」

「1時間後なら」

「それなら1時間で届けます」

そんなモデルを僕たちはアプリで簡単にできるようにしました。

ログインなし、会員登録なしで注文ができて、例えば朝10時に注文をすれば1時間後の11時には野菜が家に届きます。

本当にエンドユーザーが満足をして、どんどん農家がハッピーになるモデルにしています。

岩佐 かなり短時間で届きますが、八百屋さんに買いに行くのと比べて価格差はありますか?

平林 1年前宮崎から東京へ出てきた頃は、価格設定が2倍くらいだったのでハイエンドのお客さんをターゲットにしていました。

ただ、僕たちが気づいたのはやはり買ってくれてこそ農家さんが幸せになるということです。

つまり価格を上げても買ってくれなければ意味がないので、農家さんと1つ1つ適正価格を作り、今は都内のスーパーで買い物をする価格と比べても大きく差が出ないような1.3〜1.5倍の価格設定になっている商品も多いです。

岩佐 1.3倍だったら頼んでしまった方が楽ですよね。

平林 そうなんです。実は僕たちは6年前くらいから、スムージーのレシピとその食材を宅配するECビジネスをしていました。

そこでECサイトの購入者のリピーター率について研究をしていましたが、生鮮のECにおいてリピーターへの転換率はは全体の約20%と言われています。

要は5人買えば1人定期購入につながるのが一般的ECです。

その中で僕たちのリピーター率は約57%、約6割の人が一度買ったら便利すぎると感じてもらっています。

ですので、僕たちはこの良さを皆さんに伝えたくて、いろいろなところに露出していこうとしています。

「九州の美味しいものをいつでも食べられる」体験をしてもらいたい!

岩佐 先ほど申し上げましたが、B2Cの生鮮系のプレイヤーはかなり増えていますよね。

例えば袋に入っている物をすぐに調理できるオイシックスさんの「ミールキット」などがあります。

もし彼らがこの領域に一歩入ってきたらどのように競争優位をつくっていきますか?

平林 いわゆる自然派宅配の市場は「宅配」の市場でいうとまだまだ伸び代があって、半分以上を占める大部分のシェアは生活協同組合のようなところが占めています。

その市場に大手が入ってきたときのことも意識はしますが、僕らが見ているのはどちらかというとシェアの大部分を占める生協さんの部分です。

また、僕らが意識しているのは宅配業者さんというよりも普段家の近くにあるコンビニやスーパーで、その1時間で買い物に行くのか、デリバリーで頼んで他のことをするのか、の選択でいかにベジリーを選んでもらえるかだと思っています。

まだ可能性のある市場なので、パイの奪い合いというよりニーズを増やしていくことで農業革命が起こると思っています。

このような市場において僕たちは、九州の食材にこだわり、流通コストの課題を解決し、お客さんたちに美味しいものを簡単に食べられる体験をしてもらい、一生のお客さんになってほしいと思って取り組んでいます。

岩佐 価格設定としては1.3〜1.4倍で販売していて、御社のホームページからもわかるように非常にストーリー性のある良い商品を売られていますよね。

なんとなくコモディティな感じがしませんが、今の価格を維持する仕組みや体制をどう構築していますか?

平林 どちらかというと僕たちはランチェスター戦略(=中小企業が大企業に勝つための集中戦略)なので、特定のエリアの中で一番便利で、ナンバーワンのシェアを取る、そのエリアを増やしたいと考えています。

「1週間に1回宅配サービスを使っていたけど、キャンセルが面倒だったり、キャンセルし忘れてしまったりして結局野菜を捨ててしまう」というお客さんもいます。

そういう方は、本当に欲しい時にすぐに注文できるというこの体験をすると、なかなか他に移りにくいです。しかも自社配送しているというメリットもあります。

岩佐 自転車で宅配しているのですか?

平林 基本的に前掛けをしてスクーターで宅配しています。アプリで簡単に注文ができてすぐ届くという意味ではアグリテックのB2C分野では結構最前線ですね。

弊社には農学部生がバイトやインターンに多く、そして彼らはもともと農業に愛があります。

なので、野菜をお客さんに手渡しするときに「今日のこのナスはすごくおいしいですよ」「もうそろそろこの食材を取り始めるらしいですよ」という一言があって、お客さんと温かい関係を築いてくれています。

うちはITでやっていますが、実はやっていることは非常にアナログで、そんな温かみのあるサービスを届けていきたいです。目指しているのは「IT時代の三河屋」です。

(続)

本セッションのモデレーターを務めた頂いた、GRA 岩佐 大輝さんの著書もぜひご覧ください!

『絶対にギブアップしたくない人のための 成功する農業』(岩佐 大輝/著)、朝日新聞出版

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続きは 4. 農家の収入への影響度は、生産技術の改善より流通コストの削減の方が大きい をご覧ください。

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編集チーム:小林 雅/本田 隼輝/浅郷 浩子/戸田 秀成/KYOU MARKETING

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