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ボールウェーブは、小型・高速・高感度な「ボールSAWセンサー」で世界のケミカルセンシングを革新する!(ICC FUKUOKA 2019)【文字起こし版】

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ICCサミット FUKUOKA 2019 リアルテック・カタパルト 3位入賞に輝いた ボールウェーブ 赤尾慎吾さんのプレゼンテーション【「ボールウェーブは、小型・高速・高感度な「ボールSAWセンサー」で世界のケミカルセンシングを革新する!】の文字起こし記事をぜひご覧ください!

ICCサミットは「ともに学び、ともに産業を創る。」ための場です。毎回200名以上が登壇し、総勢800名以上が参加する。そして参加者同士が朝から晩まで真剣に議論し、学び合うエクストリーム・カンファレンスです。次回 ICCサミット KYOTO 2019は2019年9月2日〜5日 京都市での開催を予定しております。参加登録は公式ページをご覧ください。

本セッションは、ICCサミット FUKUOKA 2019 プレミアム・スポンサーのHonda R&D Innovations様にサポート頂きました。


【登壇者情報】
2019年2月19日〜21日開催
ICCサミット FUKUOKA 2019
Session 3B
REALTECH CATAPULT
リアルテック・ベンチャーが世界を変える
Sponsored by Honda R&D Innovations

(プレゼンター)
赤尾 慎吾
ボールウェーブ株式会社
代表取締役社長
公式HPSTARTUP DBLinkedInページ

1999年筑波大学大学院理工学研究科修了。同年10月凸版印刷株式会社入社総合研究所配属。2003年より凸版印刷総合研究所でボールSAW関連の研究開発に従事。2009年東北大学大学院工学研究科材料システム工学専攻博士課程後期終了。同年より東北大学未来科学共同研究センター客員准教授。2014年に凸版印刷を退職、文部科学省STARTプロジェクト「ボールSAW微量水分計の開発」に東北大学未来科学共同研究センター特任准教授として参画。2015年11月ボールウェーブ株式会社設立、代表取締役就任。

「ICC FUKUOKA 2019 リアルテック・カタパルト」の配信済み記事一覧


赤尾 慎吾氏(以下、赤尾) よろしくお願いいたします。このような機会を頂き感謝致します。

本日は「ボールSAWセンサを用いたケミカルセンシング・ソリューション」についてご説明いたします。

嗅覚分野における「センサ開発」はフロンティア

我々は、テクノロジーの進化により視覚・聴覚・味覚・触覚としった人間の機能を代替するさまざまな「センサ」を獲得してきました。

例えば、視覚のセンサには「イメージングセンサ」があります。

▶︎編集注:イメージングセンサとは、レンズから入った光を電気信号に変換する半導体(撮像素子)のこと。人間の眼でいえば網膜に相当する部分。

イメージングセンサを活用したアプリケーションとしては、録画したものを再生したり、録画したものを配信したりといったものがあります。

さらに近年では、イメージングセンサとAI(人工知能)との掛け算により、自動運転や外観検査の技術が進歩しました。

一方の「嗅覚」の分野では、そうしたセンサやアプリケーションは実用的・汎用的なレベルでは存在しませんでした。

しかし今ようやく、この嗅覚分野で技術革新が起きようとしています。

我々が開発した「ボールSAWセンサ」が、それを実現します。

「ボールSAWセンサ」を活用したケミカルセンシング(化学物質のセンシング)により、さまざまなアプリケーションが生まれる段階に来ているのです。

ケミカルセンシングが変える「未来」とは?

「ボールSAWセンサ」によるケミカルセンシングによって、世界にどのような変化が起きるかを考えてみます。

AI時代の今「ケミカルセンサ × AI」は重要なキーワードです。

例えば、今まさに地球上で起こっている大気汚染をなくすためには「何が・いつ・どこから・どの程度」生じているのかを考える必要があります。

]近年の大気汚染は越境汚染と呼ばれ、汚染物質が地球規模の大気循環で国境を越え、発生源から遠く離れた地域の大気を汚染します。

したがって、地球規模での大気汚染の原因を突き止めようとすると、世界各所に汚染物質のセンサを設置し、リアルタイムで大気汚染をモニタリングする必要があります。

そうしたインフラが整備できれば、Google Mapのような地球全体をカバーしたモニタリングサービスが実現します。

また、毒ガス・爆発物によるテロなど、凄惨な事件が起こる前に、それらを高速で検知することができれば、対策を講じることで事前回避も可能になります。

これが、私たちが考える「ケミカルセンシングが変える未来」です。

一般的に、センサというのものは「測定するだけ」ですが、我々はケミカルセンシングとAIを活用することによって、全地球的な課題を解決したいと考えています。

ボールSAWセンサは「球体」と「SAW」による革新的ケミカルセンサ

2000年に、国立大学法人東北大学の山中一司名誉教授が画期的なセンサを発見しました。

▶参照:Yamamoto Y ea al:Development of Multiple-Gas Analysis Method Using the Ball Surface Acoustic Wave Sensor. Jpn J Appl Phys, 49:07HD14, 2010

その発見が、我々のスタートとなる「ボールSAWセンサ」です。

「ボールSAWセンサ」は、上記スライドにあるように「球体」と「SAW (surface acoustic wave:弾性表面波) 」と呼ばれる、物体の表面だけに伝わる波によって実現しています。

この球体には水晶などの圧電結晶(※)を使用しており、中央に電極があります。この電極がすごくスペシャルな長さで設計されています。

波というのは、「回折」と呼ばれる現象で広がっていきますが、この電極で生じた波は無回折のまま伝搬するということが発見されました。

そして、この波が伝搬するところに感応膜を設けることでセンサとして機能します。

▶編集注:
「圧電結晶」とは、圧力を加えることによって荷電したり(圧電効果)、逆に電圧を加えることで振動を生じる性質(逆圧電効果)を持つ結晶のこと。ボールSAWセンサでは前者の圧電効果を利用し、ガス分子が感応膜へ吸着することで生じる粘弾性特性の変化をSAWの音速、減衰変化によって検出する。平面SAWの伝搬距離は回折減衰により制限されるが、伝搬する場が球状であるボールSAWセンサでは無回折により長距離伝搬するため、生じた振幅変化を高速・高感度に測定可能となる(後述)。

球体の大きさは1mm〜3mmまでと、今のリソグラフ(高速デジタル印刷機)で非常に小さく作ることができます。

伝搬現象については、こちらのシミュレーションがより直感的なのでご紹介します。

緑色部分がSAW、つまり弾性表面波のエネルギーを示しており、奥で生じた波がぐるぐる回っているのがわかります。

もしこれが水面に物を投げて生じる波紋であれば波は四方に広がるわけですが、球体上の弾性表面波は直線的に伝搬してることが分かります。

これが我々のテクノロジーです。

ボールSAWセンサの特徴は「小型・高速・高感度」であること

こちらが実際に製作したボールSAWセンサです。スライドにあるように、3mmのものと1mmのものがあります。

次に、ボールSAWセンサの特徴を3つご紹介します。

1つ目は、波を球体上に閉じ込めているので「小型」であるということです。

最小で1mmまで製作可能です。

2つ目は、センシング速度が「高速」であるということです。

波が球上をぐるぐると周回しているので、感応膜を薄くすることができます。

▶編集注:感応膜が薄かったとしてもSAWが何度も感応膜を通過するので、その粘弾性変化を検出可能ということ。

感応膜を薄くできるということは、感応膜中の内部拡散時間が短くなることを意味し、センシング速度が「高速」になることを意味します。

3つ目は、「高感度」でセンシングができるということです。

センシングでは波の変化を検知しますが、球体1周分だけの距離では少しの変化しか観測することができません。

しかし、球体上をぐるぐると長距離伝搬させることで、物質の変化(粘弾性変化)が強調されるので、高感度でセンシングすることができます。

「球体だから小型」「薄い感応膜で高速」「ぐるぐる回すので高感度」

すなわち「小型・高速・高感度」というのが、ボールSAWセンサの特徴になります。

感応膜を変えることであらゆる物質のセンシングが可能に

ボールSAWセンサにはもう1つ強みがあります。

それは、感応膜を変えることによって、ボールSAWセンサはあらゆるセンシングが可能なプラットフォームになるということです。

たとえば、感応膜として非晶質シリカを塗ることにより、水蒸気センサになります。

さまざまなガスを測定したい場合は、ガスクロマトグラフィーという分析手法を小型化にすることにより、ガスクロマトグラフ(気化しやすい化合物の成分測定に用いられる機器)としても機能します。

さらに、パラジウムを塗れば水素の感応ができるということを、我々はすでに論文レベルで示しています。

▶参照:Tsuji T et al:Highly Sensitive Ball Surface Acoustic Wave Hydrogen Sensor with Porous Pd-Alloy Film. Materials Transactions, 55:1040-1044, 2014(PDF)

これまでの実績についてお話しします。

以上の技術を踏襲して最小商品として超微量水分計のリリースを行っています。

超微量水分計は、高速センサ機能を持つことにより、半導体製造装置内の品質に影響を及ぼす水分の測定に使用されます。

また、もう1つのアプリケーションとして、嗅覚のセンサに該当するもので、手のひらサイズのガスクロマトグラフの試作にも成功しています。

上記スライドの左側が、手のひらサイズのガスクロマトグラフです。

この中には、MEMS (微小電気機械システム) で作った分離カラムとボールSAWセンサが入っています。

ドローンなどロボティクスにボールSAWセンサを付けて、大気汚染をセンシングする「鼻」の役割を担わせる、といった活用方法も考えられます。

ドローンを始め今のロボティクスには「目」や「耳」はついていますが、「鼻」はついていません。

こういった微小製品が実用化されれば、ロボティクスに「鼻」をつけることが可能になります。

さらに、生鮮食品の搬送の際にも役立ちます。

野菜や果物は、それ自身が発生する植物ホルモンによって腐敗したり成熟度が変化します。

この小型ガスクロマトグラフがあれば、そうした植物ホルモンを測定しながらの搬送が可能になります。

他には、セキュリティ分野においては麻薬犬の代わりに危険物質を測定することも可能になります。

ケミカルセンシング×AIで、全地球的な課題解決を目指す

こちらのグラフをご覧ください。

ボールウェーブの今後の発展を横軸、市場規模を縦軸としています。

まず我々は、工場やインフラでの安全管理からスタートします。

次に「ライフアンドアグリ(Life & Agriculture)」、つまり「食べ物を美味しく届ける」というソリューション、その後には大気汚染のモニタリングを実現したいと考えています。

そして最終的には、人類を一歩進めたいと考えています。

「スペースアンドマリーン(Space & Marin)」や「バイオアンドメディカル(Bio & Medical)」の分野で、宇宙での水探査や呼気での病気診断などに関わりたいと考えています。

ケミカルセンシングとAIを活用して全地球的な課題を解決できれば、人類を一歩先に進めることができます。

人類の未踏の世界、波のその先に行きたいというのが我々の考えです。

ご清聴ありがとうございました。

(終)

実際のプレゼンテーション動画もぜひご覧ください。

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編集チーム:小林 雅/三木 茉莉子/尾形 佳靖/戸田 秀成

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